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天気のこと。季節のこと。

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その瞬間にだけある色、音、匂い。 うつろう風景。
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2023年7月の記事一覧

尖ったあいつ。

尖ったあいつ。

連日お風呂の中を歩いているようだな、と外に出るたび思う。
それでも花も咲き、実も成る草木には頭が下がる。
湯に浸かった水中花のごとく、夕風に吹かれた花が揺れる。

芽吹きの季節はだいぶ過ぎてしまったけれど、新芽を見つけることはしばしばある。
よくよく目を凝らしてみると、黄緑のちいさな粒が色づく季節に備えていたり。
花と交代するように、木々の頂上に現れた新しい葉が光る。

ヒイラギやヒノキ類のように

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夏空の泡沫

夏空の泡沫

近所の百日紅並木が満開を迎えている。
紅、薄紅、白と、それぞれの花を咲かせて、さしづめ夏の桜といった趣で。
それでいて、桜ほど注目を集めないところもいい。
真夏の陽射しに負けず花を咲かせる頼もしさ。
つるりとした樹皮はよく見ると、まるでジグソーパズルのようで、まだらに色が重なる。

中でも私は白い百日紅が好きだ。
真っ青な空にぽっぽっと泡がはじけたような白い花が、とても清々しい。
「さるすべり」な

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ちいさい夏。

ちいさい夏。

桜の木を見上げると、青々とした葉はどれもちいさな穴がびっしりと開いていた。
初夏の頃、お腹いっぱい食べつくした毛虫たちの置き土産。
緑のレースから夏の空が透けて見える。

先日、網戸の外にちいさな卵が産みつけられていた。
直径二ミリほどの薄緑の粒が十数個。
蛾かなにかだろうと踏んでいたら、どうやらカメムシだったらしい。
ひと月と経たないうちに卵は空になっていた。
網戸の網目よりもちいさな虫の子らは

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一瞬の長い夏

一瞬の長い夏

一日続くと構えていた本降りの雨は、昼過ぎ、肩透かしをくらったように止んでしまった。
雨が遠ざかると、息を潜めていた蝉の声が戻ってくる。

先日、実家の木に小ぶりの蝉が貼りついていた。
一見、樹皮かと見まがうような斑模様。
ニイニイゼミだという。

家族が今年初だと持ち帰った抜け殻はアブラゼミのものだった。

つい昨日は、早くもその生涯を終えた蝉が門前に横たわり、蟻たちの糧になろうとしていた。
透き

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熱冷ませぬ雨

熱冷ませぬ雨

子どもの頃、毎月読んでいた小誌「たくさんのふしぎ」。
毎号さまざまなテーマで、とりわけ気に入って何度も読んだ号がいくつかあった。
中でも「アマゾン・アマゾン」という、その名もアマゾンを取材した内容のものは大のお気に入りで、今でもよく覚えている。
ページをめくると、深い緑の森が広がって、いつか訪れてみたいと思ったものだった。
当時はまったく存じ上げていなかったのだけれど、後に今森光彦さんの著だったこ

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先ゆく夏。

先ゆく夏。

6月が去り、この街のお祭月になる。
街の中心を貫くアーケードに、コンコンチキチン、という金属楽器と笛の混じったBGMが流れはじめる。

「山」や「鉾」と呼ばれる山車を所有する町内は、年に一度の大舞台に向けて、その準備に追われる。
山鉾が街を巡る日の三日ほど前から、封鎖された通りに出店と人が溢れ、おそらく一年で最も賑わい華やかな数日。
巡行は昔、郷里の友人が訪ねてきた際、一度だけ観に行ったことがある

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夜のご褒美

夜のご褒美

深夜一時を過ぎると、窓から月が見える。
向かいの家と家の間に、ちょうどぴったりと埋め込まれたように。
今夜は満月だそう。
どうりでまるい。
辺りの灯りはすっかり消えて、月だけがぽっかり光って。

左党のくせに甘いものが好きだったせいか、晩酌の友はすっかり甘味ばかりになってしまった。
チョコレートにアイスクリーム、饅頭、羊羹、なんでもござれ。
バニラアイスにちょっといい塩をぱらりとひと振りするのが夏

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