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ちいさい夏。

桜の木を見上げると、青々とした葉はどれもちいさな穴がびっしりと開いていた。
初夏の頃、お腹いっぱい食べつくした毛虫たちの置き土産。
緑のレースから夏の空が透けて見える。

先日、網戸の外にちいさな卵が産みつけられていた。
直径二ミリほどの薄緑の粒が十数個。
蛾かなにかだろうと踏んでいたら、どうやらカメムシだったらしい。
ひと月と経たないうちに卵は空になっていた。
網戸の網目よりもちいさな虫の子らは、夏の中へ旅立ったのだろうか。
それとも、冬までこっそり居候する算段だろうか。

わが家は蜘蛛がよく出る。
益虫だからと気を許していたら、思わぬところで出くわして、時折驚かされる。
面白いもので、彼らには縄張りがあるようだ。
性懲りもなく流しやコンロにばかり現れる命知らずもいて。
タタミ二畳ほどの間をパトロールしているらしく、前回と同じ場所で見かけることもしばしば。

狭い家なので、時折衝突が勃発することもある。
小指の先ほどの蜘蛛が二匹、互いにじりじりと間合いを保ちながらにらみ合いを続ける。
これが意外なほど迫力のある、手に汗握る熱闘なのである。
しばらくの後、どちらかが近づいた瞬間、もう一方がピョンと逃げる。
求愛なのか、縄張り争いなのかは定かでないが、彼らもまた、自分の場所を守るために日々、奮闘しているのだろう。

このところはベビーラッシュのようで、一瞬ホコリかと思うほどの一ミリにも満たない赤ちゃん蜘蛛があちらこちらに出没する。
虫眼鏡が必要なほどの子蜘蛛は、その大きさとはうらはらに、すでに何から何まで蜘蛛なのである。
うぶ毛のような手足を動かし、懸命にか細い糸でぶら下がる姿はなんとも微笑ましい。

というわけで、ここしばらくは無造作に机を拭くのも要注意。
おや、ゴミが落ちていると思ったら、逃げ惑う子蜘蛛だった、なんてこともある。



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