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ヒトシ
2021年12月17日 11:41
穏やかな海に影を落とす月。枯れ野に風が吹いて手元の灯を揺らす。ふっと雪の香りがした気がして北の空を見上げると風花がひとひら開いた本の上に舞い降りた。あの日の雨もこんなふうに時を止めてくれたね。言の葉の宇宙でこの星に集った私たちの一期一会。そしてまた、それぞれの旅が続く。ありがとう。ひとつひとつの出会いは奇跡の連続。噛み締めて。感謝して。そしてまた一歩ずつ
2021年11月30日 09:54
書いておこうと思った。たとえば、敷き詰められた落ち葉のほんのりとした暖かさをたとえば、木々の年輪にくっきりと刻まれる厳しい寒さをたとえば、冬枯れの枝に始まる新しい芽吹きをたとえば、沈黙した森に響く陽射しが降り注ぐ音をせめて、言葉を超えたものがあるということを明日も覚えておくために
2021年8月25日 15:57
昔、北の森には、毎年夏の終わりに、たくさんの星が降った。人々は星を集めて豊かな黒土の畑に蒔いた。その種はたちまち芽吹き すくすくと育ち鮮やかな花を咲かせるとたくさんの小さな実をつけた。すすきを揺らす風がそよと吹く頃 その実は風に乗って勢いよく空に舞い上がりそのまま輝く星になった。
2021年7月26日 14:26
お社の大樹が参道に濃い影を作る。短い命を燃やす蝉時雨が容赦なく鼓膜をつんざく。からん、からんと鳴る錆びた鐘の音。ぱん、ぱんと響く乾いた柏手。まるで映画のように蝉の声が一瞬鎮まり、深い海の底のような蒼い静寂が支配する。深く一礼をして祈りを解いたその人はひとつ深呼吸をして歩き出した。
2021年6月18日 13:45
大事な日になると絶対雨を降らせる男と絶対晴れる女が恋に落ちた。誰もが長続きしないだろうと噂した。でも意外にも、彼らはいつまでも仲睦まじく生涯を添い遂げた。雨男の最期の日、晴れ渡った空に登っていく彼の雲を見送りながら晴女は穏やかな涙を流した。二人の間には今日も虹がかかっていた。
2021年4月10日 10:46
春はなんだか弱っちい。ぐいぐい引っ張られて季節をひとつ飛び越えちゃったかと思えば、ちょっとした北風ですぐに後ろに下がったりするし、そうかと思うとまたすぐもとに戻る。夏とか冬みたいに確固たる自分を持てよ、と叱咤激励したくなる。みんながそんな気持でいるから、春は花がいっぱいなのかも。
2021年3月17日 11:01
さあさ、桜も見れたんだから、もう少しなんて言ってないで、早く北に飛び立ってください。そろそろ燕尾服の皆さんが南周りで到着してここらあたりの空も渋滞するんだから。ツバメと相性の悪いジョウビタキを急かすように、今日もヒバリは高い空から甲高い警笛を鳴らしている。
2021年3月1日 15:23
数年前まで毎朝通っていた道を逆向きに辿りながら、鼻をクンクンさせる。んー、やっぱり朝じゃないとダメか。路地を一本左に入ってウロウロ。するとセンサーが反応した。あ!この香り。やっぱりまだあった!ようやく出会えた小さなパン屋のくるみパンは「あの頃」の味がして少ししょっぱかった。
2021年1月20日 12:22
その日の朝一面の雪景色が世界を変えた。欲望に駆られた街は小さなしるしにも心を満たし、孤独な群衆は微かなぬくもりにも笑みを交わし、人を羨まず、昨日を嘆かず、明日を憂えず、いまこの時を心から尊び、暖かな夢を紡ぎ始める。一年で一番寒い季節に始まる物語。僕たちは奇跡の時を生きていく。