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小説

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自作の小説です。 最近はほぼ毎日、500〜2000字くらいの掌編を書いています。
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#ホラー

【小説】山彦(仲間が見つかるSNSの話)

【小説】山彦(仲間が見つかるSNSの話)

 流れていくタイムラインの中で、「仲間が見つかるSNS」という広告が目に留まった。

 今使っているSNSでは頭の中がお花畑の低脳が大量に生息していて、俺はいい加減飽き飽きしていた。俺と同じような考えを持っている人間とつながれるならと、俺はそのKodamaというアプリを早速ダウンロードしてみた。

 ユーザー登録を済ませると、早速投稿の入力画面に移った。今思っていることを書いてみようと説明書きにあ

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【小説】可愛い女(可愛がられるために自分をなくす話)

【小説】可愛い女(可愛がられるために自分をなくす話)

 就職するにあたって、本物の陶器肌ファンデというものを買った。

 肌を陶器のように滑らかに見せる化粧品は他にも多くあるが、このファンデーションの特徴は化粧をしていない時にあった。このファンデーションを使い続けると、徐々に肌質が変わっていき、すっぴんでも陶器肌をキープできるというのだ。

 入社式までの二週間、本物の陶器肌ファンデを毎日付け続けた。売り文句に嘘はなく、入社前日の洗顔後は鏡に顔を寄せ

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【小説】女王がいた部屋(揺らぐ複数の現実と不安の話)

【小説】女王がいた部屋(揺らぐ複数の現実と不安の話)

 ふと疑いが過る。

 私が見ているものは現実だろうか。

 向かっている先は本当に知っている場所だろうか。

 手に持っているものは本当に鞄だろうか。

 横を通り過ぎていくのは本当に人間だろうか。

 私は本当に私だろうか。

 冷たい血液が全身を逆流して、胃が金属でできているみたいに存在を主張する。春の終わりの日差しをはねつけて凍え切った指先が震える。一定の電子音が耳を塞ぎ、暗くなった視界に

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【小説】四本目の道(この世とあの世がうっかりつながっちゃった話)

【小説】四本目の道(この世とあの世がうっかりつながっちゃった話)

 僕の家の前は三叉路になっていて、玄関を出て左へ向かう道と奥へ向かう道の間の股の部分には石像があった。別に全然立派なものじゃなくて、風化してざらざらになった石にお地蔵さんみたいな人の形が浮き彫りにされた、小さな道標みたいな岩だ。ばあちゃんはその石をサエの神様と呼んで、水やお菓子を供えて毎日拝んでいた。

 ばあちゃんが熱心に話しかけるそれが僕には何だか気味悪く思えて、あんな古い像なんかなくなっちゃ

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【小説】一周目の私を(新入社員が入ってきたと思ったら数年前の私だった話)

【小説】一周目の私を(新入社員が入ってきたと思ったら数年前の私だった話)

 年度末の事務処理をやっつけた後、虚脱感と共に新年度がやってくる。

 社長の語るビジョン。掲げられた理想は分解されて売上という測定可能なものに平板化される。億なんて数字を聞かされたって私に関係があるとは思えない。先週よりも五円高いもやしが私のリアリティだ。 

 年度が変わったからって別に新たな気持ちになんてならない。昨日までと同じように淡々と仕事をこなして、面倒事は避けて、さっさと家に帰る。明

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短編小説「憧憬の姉妹」【2000字のホラー】

短編小説「憧憬の姉妹」【2000字のホラー】

アパートの錆びた階段に立っていた。
どうやって帰ってきたのか記憶にない。延々と夢を見ている気がする。母が死んでから。

いつまでも子供みたいな母だった。
わがままで天真爛漫で。俺のほうが親なんじゃないかと思うくらい。
幼子が犬の子を欲しがるみたいにまだかまだかとせがんでいた孫を抱かせてやることは結局できなかった。

終電後の住宅街は底無しの海みたいで、寄る辺なさを嫌でも自覚させられる。

世界が縦

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