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短編小説

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日野あべしの短編小説をまとめたマガジンです。 短編小説を読んでくれた方で、他の短編小説を読んでみたいという方は是非ご活用下さい。
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#ヒューマンドラマ

不幸を願う

不幸を願う

「それじゃこの件よろしくな。」
「うっす。」
今日も佐山は不愛想だ。ろくな返事も出来ない。
入社して3年目だが、まだ口の利き方も覚えないらしい。
仕事もそこまで出来るわけではなく、それに加えぶっきらぼうな態度を取る。
正直俺はこいつのことが嫌いだ。もし俺がこいつの面倒を見る立場になかったら絶対に関わらない。
だが現実はそうもいかず、若干イライラしながら仕事に行く毎日だ。
それが積もり積もって、あぁ

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瞬間

瞬間

初めてルカさんを見たのはいつだっただろうか。
確か中学に入った、最初の方だった気がする。まだ私が化粧とかスタイルとかを全然気にしてなかった時だった。
中学の入学祝いで親がパソコンをプレゼントしてくれて、それで色んなものを見たり聞いたりして、その中の一つがルカさんのライブ映像だった。
それを見たとき、私の何かが外れた。
そのルカさんは本当に綺麗で、カッコよくて、もう言葉では表せないような気持で一杯に

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魔物

魔物

「よーし、帰りのホームルーム始めるぞー。」
教壇で喋っているのは担任の高橋先生だ。いつも通りのホームルームの時間。皆学校の終わりで、少し浮足だっているようだった。
「この後どうする?」
「今日部活なんだよなぁ、めんど。」
「ほらぁ、騒いでるといつまでたっても終わらないぞー。」
はーいと気だるそうに返事をするクラスメイト達。これもいつも通りの光景だ。何事もない光景。こういう時、いつも僕はムズムズする

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惜別

惜別

私の故郷は冬になると雪が沢山積もる。だけど春になれば雪がとけて、夏になれば綺麗な緑が生い茂る。

「おーい、待ってくれよ。」

旦那が駅の改札から少し小走りで出てきた。

私の旦那、聡は少しどんくさい。見た目も華がある方でもないけど、とても思いやりがある。

一緒に買い物に行ってくれるときは荷物を持ってくれるし、私の誕生日には仕事を早めに切り上げて帰ってきてくれる。いつもありがとうと言ってくれるし

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私の道と父の足跡

私の道と父の足跡

『フリーターになる?』
「うん、入りたい会社もないし。私夢があるんだ。」

電話口で父に初めてフリーターになることを打ち明けた時、父はとても怪訝な声だった。

『なんだ夢って。』
「私、小説家になりたいんだ。」

私は小さいころから本を読むのが好きだった。心躍るファンタジー、引き込まれるミステリー、胸が締め付けられるような恋愛。そうした本を読むのが大好き。
中学生のころには頭の中でストーリーを毎日

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ばあちゃん

ばあちゃん

「だぁもううるせぇ!」

酔っぱらって帰ってきた俺は着替えもせずベッドに体を投げ出した。

今日は金曜日。今週は毎日が客先からのクレームの嵐だった。

「俺が悪いわけじゃねえんだよくそが!」

クレームの原因はほぼ現場だ。なぜ俺が現場の尻ぬぐいをしなければならないのか。本当はわかっている。自分の立場はそういう立場なのだと。

「ったくよぉ…。」

目を閉じたら、意識が遠のいてきた。

(何で俺がこ

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スマホが壊れた

スマホが壊れた

スマホが壊れた。しかも唐突に。

いつものように学校から帰るバスの中で、友達と連絡を取り合っていたら唐突に電源が切れた。

いくら起動しようとしても、うんともすんともいわない。

帰りにショップに寄って手続きをしようとしたら、親の免許証のコピーとかが必要らしかった。両親はいつも帰りが遅く、今日中に新しいスマホを手にするのはまず無理だった。

仕方なくそのまま家に帰って、いつものように風呂に入り、一

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オヤジ

オヤジ

昔よくオヤジに説教をされた。

嘘をつくなとか、悪いことをしたら素直に謝れとか、そんな当たり前のことをくどくどと。

若い時はうるせぇとしか思わなかった。

説教の途中でオヤジに反論しようとして噛み付いたこともあったし、説教の途中で家を出たこともあった。

オヤジなんかに何がわかるんだと思っていた。

しょうもないサラリーマンで、つまらねぇ人生を送っているオヤジに言われたくないと。

そんな俺は若

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