マガジンのカバー画像

創作短編小説

13
運営しているクリエイター

記事一覧

【短編】四月一日の嘘【雛杜雪乃 / Vtuber / SS】

得体の知れない化物だ、と。
思わず声に出してしまった。

あくる日の朝。時刻は午前の七時過ぎ。相も変わらず穏やかで呑気な時間が過ぎているが、早起きが苦ではない私にとって、この時間は日夜の労働が報われる貴重な時間でもある。
既に身なりは整っており、今しがた出かけ前の珈琲も飲み終わった。
あとはいつも通り艶めいた革靴に履き替えて戸締りをし、人の少ない電車へと乗り込んでいく。そのはずだった。
廊下に出て

もっとみる
【 #ハロウィン2023 】ユキノ、フィリア 【雛杜雪乃 / 男性Vtuber / 短編小説】

【 #ハロウィン2023 】ユキノ、フィリア 【雛杜雪乃 / 男性Vtuber / 短編小説】

「ハッピーハロウィーン! お菓子をくれないと、イタズラしちゃいますよ?」

 コンコンと、ドアを叩くノック音がする。それから間を置かずに、取り付けられたインターホンが鳴る。壁面のディスプレイは、隣人の彼が西洋の盆フェスティバルを楽しむ声を届けてくれた。
 寝ぼけまぶたを擦る。いつの間に眠ってしまっていたのだろう。夕食は済ませていただろうか? 着替えは済ませているみたいだが、入浴だっていつしたのか覚

もっとみる

【#幻想商人】ジオードの内側【#雛杜雪乃 / Vtuber / #雪のあーと】

「ティアドロップ……と言うものを、知っていますか?」

どこからか、オルゴールの音が聞こえる。緊張で硬く凝り固まった耳朶(じだ)が、湯にふやかされたように柔く、ゆったりとほどけていった。
 こわばっていたまぶたが開き、瞳がようやく見たものを受け入れて、目の前にあるものと、自分が置かれた状況を理解した。
 そう、確か私は……何かがあって、思わずこの店へと駆け込んだんだった。それが何だったのか、この店

もっとみる

【記念SS】眠り深(ネムリブカ)【雛杜雪乃短編SS】

数日ほど前から、奇妙な夢を見るようになった。

いつも通りの町並みなのに、どこか違和感を覚える風景。よくよく見れば、僅かに色彩が鮮やかなのだろうか?
 とにかく、それを眼下に見下ろしながら、隣人である雛杜 雪乃(ひなもり ゆきの)と共に紅茶を楽しんでいる夢だ。
 不思議なことに、彼は夢の中で言葉を発しない。
 私は、彼が淹れてくれた紅茶の香りを楽しみ、どこからか買ってきたのであろう茶菓子を口に運ぶ

もっとみる

【メイドの日】今日だけのメイドお兄さん【メイド / Vtuber / 女装】

「……ま。ご……さま」

声が聞こえる。優しげでふわふわとした、それでいて男性的な声だ。幾度となく聞き、眠たい意識のなかでも覚えているくらい、身に染みたあの声だ。
 目を開けば声の主、雛杜雪乃がほんの少し困ったような微笑みを浮かべて、私を見つめている。

「おはようございます。ご主人様?」

違和感を覚える呼び方に疑問を覚えながら、目を擦り視線を落とす。その視界に入った姿に、脳がスパークを起こした

もっとみる

【短編小説】改造触手メイド服のお兄さんにめちゃくちゃ奉仕される【雛杜雪乃 / メイドの日 / Vtuber】

「そのですね、僕が好きなのは監禁される方で、監禁する方の趣味はないんですよ?」

 目に映るのは薄桃色の髪。羊の毛か、そうでなければ縁日の綿菓子を思い起こすふわふわとした髪が、目の前の人物に伴ってゆらりと揺れる。前に、生来のくせっ毛が原因で、髪の毛は毛束ごと揺れ動くのだと言っていたのを思い出した。
 こうしてじっくりと眺めると、その揺れ動きが犬のしっぽのように見えてきて、どことなく彼の感情が透けて

もっとみる

【背神】改造シスター服の廃教会:エピローグ

「いやいや、ほんとに悪い冗談ですよ」

 新しく楽しい事を始めようと選んだ建物は、とんだ事故物件だった。
 潰えてしまった、偉大な信仰。忘れられたのではなく、力不足による滅亡。
 孤児院も兼ねていたここには、取り残された者たちの無念や妬み嫉み(ねたみそねみ)が溢れかえっていた。それらが神の皮袋を被っただけの、神のようなもの。ーーそれでも、れっきとした神の末席だった。
 信仰に飲まれるとはかくも恐ろ

もっとみる

【背神】改造シスター服の廃教会【雛杜雪乃/シスター/男性Vtuber】

 率直に言って、無謀な事をした。しかし、見合うだけの見返りは得られたと思う。

 ここ最近お気に入りの個人Vtuber「雛杜雪乃」が、新しい企画を始めたと小耳に挟み、興味からタイムラインを覗き込んだ。
 告知となる画像、およそ健全とは言い難い衣装。いつも通りおかしな人だと笑うが、それ以上に気になる点があることに気が付く。

 ーー背景となっている廃教会。アレは、近所にあるんじゃないか、と。

 私

もっとみる

【ハロウィーン】死者のお祭り【クトゥルフ神話 / 日常 / 思い出話】

「昔からよく言うじゃないですか。ハロウィンには本物の死者が現れるって」

 夕食のお皿を洗いながら、この部屋の住人ーー雛杜雪乃は、楽しそうに鼻歌を歌いながら話を始めた。

「雪乃さんは、本当のことだと信じてるんですか?」
「もちろん。夢があっていいと思いませんか? 喪った人が一時とはいえ、帰ってきてくれるんですよ?」

 よほど楽しいのだろうか、彼は鼻歌に収まらず、小刻みにリズムをとって踵を上下さ

もっとみる
【七夕】失明【星 / 天の川 / 残像】

【七夕】失明【星 / 天の川 / 残像】

 見れば、街には浴衣を着た人達が行き交い、ほのかに夏祭りのような雰囲気を見せている。
 少しばかり頭を悩ませ、そして答えに思いいたる。私の表情は、酷く嫌なものを見たかのように、しかめ面へと変わっていった。

「七夕、だろ? 今日は」

 隣を歩く旧友が、慈しみと困り顔を混ぜたような顔で私を見る。その表情を見たくないのも理由の一つなんだよと、内心呟いて、深く呼吸をする。
 いつもよりも数段渋い顔をし

もっとみる
【短編小説】21グラムの願い【雛杜雪乃 / 天使 / 堕天 / 魂】

【短編小説】21グラムの願い【雛杜雪乃 / 天使 / 堕天 / 魂】

「私達の翼は、大いなる主が我々に与えてくれた、天使達が世界中を駆けるための誇りなんだ」

 流星が真っ黒なキャンバスを駆ける夜、僕の元に墜ちてきた天使はそう言った。

 夢を見た。天使である彼女━━━━が、幸せそうに笑い、人間の俗っぽい遊びを堪能して、栄養補給でなく、娯楽として食事を楽しむそんな夢だ。……彼女が天使である限り、夢は叶わないと言うのに。
 夢を見た次の朝、彼女は寝床にいなかった。寝ぼ

もっとみる
【短編小説】ハートを射止めて【雛杜雪乃 / ヤンデレ / 監禁】

【短編小説】ハートを射止めて【雛杜雪乃 / ヤンデレ / 監禁】

 薄ぼんやりとした意識の中、少しの酔いと今まで感じたことが無いような不快感と頭痛が、頭と胸元でぐるぐると渦を巻く。
 昨晩は深酒をしてしまったのかと記憶を辿りながらも、まずは意識をはっきりさせようと腰をあげる。

 ━━そう行動しようとしたところで、手首と足首から金属音が発せられ、俺の行動は制限される。

「手錠……?!」

 音の発生源を見れば、自分の手首と足首には赤い革製の拘束具が取り付けられ

もっとみる
【短編】星の瞬き【目玉コレクターのおじさんと綺麗な目の少女】

【短編】星の瞬き【目玉コレクターのおじさんと綺麗な目の少女】

 これほどの目の持ち主にであったのは十何年ぶりだっただろうか。
 目の前の、美しい瞳の少女はじっとこちらを見つめ、この場に似つかわしくない包装された手提げ袋と、片目を隠すほどのヴェールを身にまとい、私の前に立っていた。
 普段は使われることの無いドアノッカーがやってきた自分の職務に満足し、暇を取ろうとするのを横目に少女を見やる。

「君、一体何の用事があって私を訪ねたんだい? どんな身の上かは分か

もっとみる