【短編小説】改造触手メイド服のお兄さんにめちゃくちゃ奉仕される【雛杜雪乃 / メイドの日 / Vtuber】
「そのですね、僕が好きなのは監禁される方で、監禁する方の趣味はないんですよ?」
目に映るのは薄桃色の髪。羊の毛か、そうでなければ縁日の綿菓子を思い起こすふわふわとした髪が、目の前の人物に伴ってゆらりと揺れる。前に、生来のくせっ毛が原因で、髪の毛は毛束ごと揺れ動くのだと言っていたのを思い出した。
こうしてじっくりと眺めると、その揺れ動きが犬のしっぽのように見えてきて、どことなく彼の感情が透けて見える。
その予感はどこか当たっているのか、目の前に立つ彼の表情はいつに無くにこやかで、抑えきれない歓喜と妖艶な雰囲気を漂わせている。
……口から出てくる言葉と、あらわにしている表情が一切噛み合っていないことを除けば、彼の言っていることは本当なのだろう。
「僕もVtuberの端くれですし、流行りに乗ろうって気はあるんです。あるんですよ? 本当に。でも、僕はイラストが描ける訳でもないし、何をしたところでそのビジュアルをお届けできないわけです」
彼は見せつけるように胸元に手を当て、大きく息を吸って、そして吐き出した。
思わず視線が誘導され、息を飲む。
普段、なかなか見ることの無い男性のデコルテ。胸の上部とも言える部分には、触手と眼球によって十字架を象ったモスグリーンのタトゥーが、精細に刻み込まれている。人の手によって彫り込まれたとは思えない。
それほど精巧なそれらが、彼ーー雛杜雪乃の胸元を飾っているというのだから、私が目を奪われるのは仕方の無いことだ。
……ただ、その眼球がこちらを向いたように見えたのは、目の錯覚ではないんだろう。
「そこで、僕は考えたんです!」
先ほどより落ち着いた彼は、にこやかな表情で手を叩く。うきうきと、新しいおもちゃを見つけた子供のようににこやかだ。
アーモンド状の切れ長の眼が、目尻を下げて細められる。
どこかで、どこかで見た事のある表情だ。
「エッセイ……体験レポを、君に書いてもらうのがいいんじゃないかなって!」
シスター、そうシスター服だ。深いスリットと大きく開いたお腹、花開くように開け放たれた胸元。
とてもシスター服を原型にしているとは思えないほど扇情的だった『改造シスター服』を着ている時も、私に向けて、同じ表情をしていた気がする。
「君も含めて、僕の事をえっ!! だとか、やらしいとか言う訳じゃないですか。だったら、君たちが思い描くその上を、僕が体験させてあげようと思うんです」
ちなむと、私は冒頭からずっと拘束されている。雛杜邸の一室で、大きなタライの上に置かれた木製の頑丈な椅子。その上に、黒く滑らかなロープで縛り付けられている。絶対に初めてではないと思える手さばきで、彼に縛り付けられた。指の一本一本の関節まで丁寧に固定している念の入り用で、椅子を破壊するか、ロープをちぎるしか手はないだろう。
……でも、このロープ、ちぎれても再生するよなぁと、頭の片隅で思う。
思えば、その時から彼はこの格好だった。
・・・・
メイド服。それも、明らかに特注で、デザインと可愛さを重視して凝った『改造メイド服』だ。
靴はハイローファー。光を反射するほどに磨きあげられた革が、どこかボンテージのように艶かしい。
脚はニーハイ……いや、サイハイソックス。ただの布地にも見えるが、その実、花弁をねじり、絞り上げたような触手が、ゆらゆらと彼のふとももを絞り上げている。あと、触手どうしの接合部分に突然目玉が開いたりもする。
一番注目するべきエプロンドレスは……デコルテが開いている事以外は比較的まともに見える。カーキ地の地味なドレスに、真っ白なフリルエプロン。スカート丈はミニスカよりも少し長い程度。しかしーーフリルで見えづらくされてはいるもののーー布地の随所に小さなスリットや穴がデザインされている。日焼けをしていないからか手足よりも僅かに白い胴部がどこか目を引くーーと思えば、ふとした瞬間にスリットが閉じ、開いた瞬間に眼球がまたたく。
……カーキ色の白目に、黄金色の虹彩が、その正体を雄弁に表している。開いた胸元やスカートの内側に、見慣れた触手がたゆたっているのはツッコミ待ちだろうか。
頭にはエプロンドレスがある。美しいレースで飾られたそれは、緻密な指輪のように美しく頭上を飾る。
……指輪、指輪。イメージを頭の中で反芻する。
メイド、契約の首輪であり指輪、無償の奉仕、真の愛、天使の円環……エンジェルリング。
散文的でまとまりのない単語の並びが、連想ゲームとなってモチーフの片鱗を掴む。
「あの、もしかして、そのメイド服って結構背中が開いていますか?」
天使の羽が生えてもいいように。……そこまでは、流石に言葉にしなかった……けれど。
彼の笑顔がますます深まったところを見ると、私の予想は正解なのだろう。
……そうだね、今日はメイドの日だもんね。そんな日に「雪乃さんはメイド服を着てみたいと思いますか?」などと、安易なマシュマロを送った私が悪い。ノリノリで玄関先まで迎えもするだろう。この人、ホントにそういう所ある。
彼は、私の正面に座る。玉虫色で艶めいたソファは、音もなく彼を受け止めた。全身各所を拘束しているロープが、羨ましいと訴えるように締め上げを強くする。ちょっと痛い。
「ショゴス、ダメですよ。そういうのは痕を残しちゃいけないんですから」
彼は言う。
「さて、残り数時間ちょっとですけど、メイドさんの無償の奉仕しっかりと堪能してーー」
ーー覚えて帰ってくださいね。
改造触手メイド服のお兄さんにめちゃくちゃ奉仕される。……私の語彙で書き残せるのは、これくらいのものだった。
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