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高等魔法を習得できた話

大きな建物。神殿とも王宮とも違う半球体形状のそれは、魔法訓練所だ。国内でも数か所しかない、それ故に出入りできる人間は限られている。
許可をもらっていない私達は入口から少し離れたところで今かいまかとうろついていた。
「……まだかしら……」
「確かに、時間はとっくに過ぎてるな」
もうすぐ日が暮れ始める。まだ蜜色の光をしているけど、それが真っ赤に染まるまできっといくらも無い。
訓練所の前には2時間ごとに

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3

朝の話

朝の光。カーテンの隙間から漏れ出すそれに、少年は渋々目を開けた。
掛布を剥いで身を起こす。足を向けた方にある備え付けの椅子に誰かが座っていた。それが誰かなど、目を開けなくても気配で分かる。
「おはよう」
仲間の魔法使い。幼馴染でもあるリオノーラだ。朝日に栗色の髪が照らされている。ワンピース一枚というラフな格好で片手に本を読みながら、カップに少量の水を入れて飲んでいた。
ルークが掠れた声で返事をすれ

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おかげさまでそわそわしてます。
1

濁ったままの虹彩と雨水

「……いた!」
水たまりのはねる音。湿り気の多い地面を思い切り蹴って、何もない山の中を走る。泥がはねるなんて二の次だ。すぐ目の前にいる、けれどまだこの手が届く距離にいない。
「リオノーラ!!」
俺の声は聞こえていないのか、彼女の身体は微動だにしない。色の変わった外套が、風をはらんで膨らむ。
追いついてすぐに分かったのは、外套の色。面積の半分以上赤黒く染まっている。それが何の色かなんて、聞くまでもな

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2

本と情緒の話

「付き合ってくれてありがとう」
「いーって。それよりオッケーもらえて良かったな」
他人の家。その辺の村の小屋ではなく屋敷レベル。庶民のオレ等から見れば豪邸ってヤツだ。
その中の部屋の一つにある、カーテンを締め切った薄暗くかび臭い通路を二人で進んでいた。素直に感想を言えば、咎めるような視線が横から突き刺さる。
「私的にお持ちのもので良かったわ。好きなだけ読んで帰っていいって言ってたし」
「ちょっとい

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3

短編小説『狼の教室』 #2

あらすじ

狼たちは今日も草原で狩りをしていた。

ある1匹のバイソンを囲むことに成功した狼たちだったが、群れのリーダーである父は子供たちにトドメを刺すことを禁じた。

なぜ彼はバイソンを仕留めなかったのか。

これはある日の草原で起きた、いつもとは違う狼の狩りの物語。

※下記のようにルビを使用します↓

|聖剣《えくすかりばー》

読者からの感想↓

一気読み・短編集はこちら↓

前回↓

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「ん? 押し間違えたのかい?」
6

今来むといひしばかりに長月の

『今日来れるの』
『行けるよ』『仕事終わったらそっち行く』
『待ってる』
既読の文字。メッセージを読んだということが分かるだけマシなのだろう。
メッセージアプリを閉じて、いくつかのSNSを開いてスクロール。どこにも欲しい痕跡は残ってない。……見つけたら見つけたで、それはもう烈火の如く怒る口実になるだけだが。
午後9時過ぎ。随分と静かな夜だった。中身のないテレビの音をBGMにして、ベランダに続く窓辺

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ありがたき幸せ。
2

片翼オラトリオ

「早いのね、ロベルト」
「シスター」
古びた教会。灯りも灯さない中、礼拝堂の祭壇前で佇む少年。少しの隙間があった扉を開いて声をかけたのはこの教会を管理する人間だった。簡易な礼をとり、朝の挨拶を行う。
「おはようございます」
「おはようございます。…昨夜はよく眠れたかしら?」
「……ええ。はい」
少しの沈黙と一緒に返ってきた返事に、修道女は寂しさを滲ませて僅かに微笑む。ロベルトの目元は明らかに疲れが

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ありがたき幸せ。

それはよろしく。

「そういえばお前さー、くら助ちゃんに告白したっつってたじゃん」
部活の休憩中。いつもの木陰にしれっと座り込む悪友を捕まえた。隣に堂々と座り込んで、何でもない風に切り出す。
「うん」
「結果は?」
「………ない」
「ん?」
こいつの声は静かで、あまり通らない。聞き逃すのは日常茶飯事だ。ぐっと耳を寄せてもう一回言えの態度を作る。
「返事、聞いてない」
「……は?!」
お、お前……まじか? まじまじと隣

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ありがたき幸せ。
2

君は何でできてるの

平凡な女の子の独白。『特別』に思いを馳せる。

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