深志文学部

長野県松本深志高校の文学部は、部員を増やしたい一心でnoteを始めました。 部員の小説…

深志文学部

長野県松本深志高校の文学部は、部員を増やしたい一心でnoteを始めました。 部員の小説を中心にユルく発信していきます。 毎週木曜日更新中! Twitterもやっています。 そちらもどうぞ。

最近の記事

不確定by星青

 目覚めると真っ白な空間にいた。その白は雪のように無機質でもあり、木漏れ日のように温かくもある。上下左右辺りを見回す。どの画角も一切の変化がない。ただ、八方向に陰る部分が、三次元の四角いルームであることを知らせる。  いや、おかしい。当たり前すぎて見落としかけた違和感が淀みを起こした。360度見渡したというのに、なぜ自分の身体が視覚されないんだ?下の方を見ながら、手探りに腕を伸ばす。白い空間があるだけだし、触れた感じも触れられた感じもない。そもそも意思して動かしたはずの腕部

    • 立夏のパンドラby煉瓦【No.2】

      文学同好会夏季合宿の目的は、主に三つ。 一つ目は単純に思い出作りとしてのイベント。 二つ目は個人製作を進める時間の確保。 三つ目は合作のテーマ決め及び資料集め。可能であれば執筆まで。 部誌の内容は、大きく分けて個人作品と合作の二つ。 個人製作は家でも進められるが、合作に関しては少しばかり勝手が違うのだ。 じっくりと話し合ってテーマやストーリーを決め、ページ数や章ごとに分担を決め、必要なら図書館で資料を漁らなければならない。 メールで済ませるには余りにも難儀な大仕

      • 雲のかけらbyまみむめも

        「雲って、乗れると思うんだ」 「乗れないよ」    即座にぶった切られる。夢から覚めたように、現実が一気に五感を刺激する。  カラフルな屋台の看板や、行き交う人々の浴衣。焼きそばのこげ臭い香り。賑わう群衆の声に交じる、力強い太鼓の音。きんと冷えた白い氷には、真っ赤なシロップが映えている。ストローのスプーンですくって口の中で溶かすと、舌が甘味を認識して喜んだ。 「知ってるもん、乗れないことくらい。雲は空気中の水蒸気が冷やされてできた、小さな水滴のつぶの集まり。実体なんてない。

        • 夏日記By蟹ノ尻尾

           彼と出会った曲がり角は、すでに遠くへ行ってしまった。  セミの声がする夕暮れ。自転車を全速力で漕ぐ彼。その広い背中に、ギュッとしがみついている私。雨上がりの涼しさを身にまとう彼、鼻歌一つ。  私が声をかけても彼は何も答えない。聞こえていないのか、答えたくないのか。    どこに連れて行ってくれるんだろう。そうやって行き先を勝手に妄想している間に、彼は目的地に着いたようだった。   彼が自転車を止めたのは、広い庭のある立派な家。まさに豪邸といった感じだ。敷地に入るときに「ただ

        不確定by星青

          新たな文學部、始動!By南雲すみ

           と、銘打ったものの、今までとやることはほとんど変わりません。  さて、文學部の部長に就任しました、南雲すみです。3年生の「だてさん」は文學部を卒業して、文學部は9名で活動していきます。  活動内容はこれまで通り部誌作りを中心に、ゲームをしたりTRPGをしたり、とにかくゆるく活動していきます。派手なことはしません。部員さえ確保できれば、我々は好きなことを好き勝手にやるだけです。  今回は部長、編集長、会計の仕事を細分化し、一人一人の負担が少なくなるようにしました。デカル

          新たな文學部、始動!By南雲すみ

          最も短い小説By五森

          最も短い小説、書きたい。長い方は大変なうえに際限がないから、短いのがいい。  現在チャンピオンとされているのは、ご存知ヘミングウェイ。 For sale: baby shoes, never worn 「売ります。赤ん坊の靴。未使用」  言いたいことはわかる。だがこれでいいものだろうか。新聞広告と見分けがつかない。もちろん、新聞広告のような小説があってもいいが。解釈の問題に発展してしまっている気がする。もっと確固たるのがあればいい。  グアテマラに、アウグスト・モンテロー

          最も短い小説By五森

          「無」ってなんでしょう?By蟹ノ尻尾

          突然ですが、「無」ってなんなんでしょう。    皆さんは「無」をイメージできますか? 多くの人は真っ白、もしくは真っ黒な空間を思い浮かべるんじゃないかと思います。でも、それは白、黒という色がありますよね? じゃあそれは「無」ではないんじゃないか、と私は思うわけです。    色が駄目なら透明はどうでしょう。透明に色は無いですよね? でも透明も駄目なんです。透明を想像するには背景が必要になります。背景がないと透明は認識できないんです。皆さんも試してみてください。背景がなんらかの色

          「無」ってなんでしょう?By蟹ノ尻尾

          今週末はとんぼ祭By南雲すみ

           今週末は文化祭です。  今回は文学部の宣伝という形でnoteに収めようと思います。Twitter(自称X)の方でも広報するので、良ければそちらもご確認ください。  今回の松本深志高校の文化祭「とんぼ祭」で、文学部は以下のことをします。 ・「城門65」配布 ・過去部誌展示 ・クイズ開催 ・リレー小説  上3つに関してはほとんど例年通りです。よく質問されるのでここで説明しておくと、「城門65」は無料です。本部誌は文学部の1年間の集大成です。ぜひ手にとって読んでみてください。

          今週末はとんぼ祭By南雲すみ

          消去法の検索選択By星青

          「ねぇ、どれがいいかな?」  ある昼下がり、ファストアートのように陳列されたケーキを前に質問する。 「どれでもイイんじゃないか?」  実に役立たずな返事だ。一発殴ってやりたい。 「あの子の事はわたしよりよく知っているでしょ? どのケーキ選んだらいいかくらい教えてよ」  質問の趣旨を説明すると、 「そうだな……」  少しうつむいて思考し、 「確か、生クリームは苦手って言ってたな。食べ過ぎると吐き気がするらしい」  と呟きぎみに言った。  とすると、ショートケーキはやめた方が無難

          消去法の検索選択By星青

          佐藤さん殺人事件By南雲すみ

          昨日、隣の家の佐藤さんが殺された。  今日の昼頃私がちょうど本を読んでいた時、インターフォンが鳴った。玄関に出ると、物々しい表情で立っている二人組がいた。一人が言う。 「あの、佐藤さんでよろしいですか?」 それが刑事の佐藤さんと佐藤さんだった。佐藤さんは重苦しい口調で事件のことを教えてくれた。隣の家に住んでいるという理由で、私のもとに話を聞きに来たらしい。老々とした声色とは裏腹に、どこか安心感のある声である。 「佐藤さん、昨日は何か不審なことはありましたか? いつ

          佐藤さん殺人事件By南雲すみ

          The Pain By雪村平良

          刃物をプレゼントすると、縁が切れるんだって。日本って、こういう風習があるから面白いよね。 そう言いながら鋏をプレゼントしてきた鵜飼の表情を、私は忘れたことがない。 苦しげで一抹の儚さがある、不思議な表情だった。明るい口調の奥で、鵜飼は誰かに首を絞められている。そう錯覚させられるほどの、微妙な美しさを纏った表情。それが、今も目の奥に焼き付いて離れてくれない。 『何? 縁切りたいの?』 『まあ、そうだね』 訊いた私に、鵜飼はそう言い放った。 本当は

          The Pain By雪村平良

          立夏のパンドラBy煉瓦【No.1】

          七月二十八日 「九年前の夏休みに、この学校で悲しい出来事が起こりました」  ざわついていた体育館は、終業式の雰囲気に合わない校長の言葉で静まり返る。  校長は女性が写った額入りの写真を出し、話し始めた。  二年生の黒田孝太がこの話を聞くのは、丁度一年ぶりだ。  悲しい出来事。それは九年前、夏休み七日目の朝の事だった。  この高校の校舎裏で、死体が発見されたのだ。  亡くなったのは当時三年生の女子生徒。  生徒会に所属し、教師からも生徒からも印象の良い優等生であったらしい

          立夏のパンドラBy煉瓦【No.1】

          人 byだて

          永遠に広がる空間に、小さな星がひとつ。その星は自ら熱を発することもなく、他の星に温められることはなく。ただ、静かに冷たいまま。  二人の男女が降り立った。 『チッ、やっぱりハズレかよ』 『空気がある星はもう望み薄かなぁ。あーあ、早く新鮮な気体を取り込みたーい、ずっと念話してると声の出し方忘れちゃうもん』  その二人は生身であった。 『まあ、住人を退けるだけの簡単なお仕事だ。さっさと終わらせるか』  ボロボロになった軍服と、身の丈より長い得物を除いて。 『いっつも思うけど

          夏目漱石の『こころ』を読んで……ません。byまみむめも

          ※この記事には夏目漱石の『こころ』のネタバレを含みます。『こころ』を未読の方はこの記事に目を通さないことをおすすめします。 また、筆者は『こころ』をまだ読んでいない為、記述や内容理解が実際の作品とは異なる場合があるかもしれません。ご承知おきください。  こんにちは、まみむめもです。進級して早二ヶ月。今回は近況を書いていきます。しばしお付き合いください。  突然ですが、恥ずかしながら私は文學部員であるのに夏目漱石の作品を読んだことがありません。読んでみたいという単純な興味も、

          夏目漱石の『こころ』を読んで……ません。byまみむめも

          そのイスは誰の為にBy南雲すみ

          無事、二年生に進級できました。南雲すみです。  文学部のnote.更新が始まって早9か月が経ちました。光陰ナントヤラ。  さて、社会における人々の役割や立ち位置というのは、時々「イス」に喩えられることがあります。僕が今座っているイスの一つは、「松本深志高校二年生の一人」です。たとえ僕がこのイスに座っていなくても(一年前入試で落ちたとしても)、僕とは違う誰かが座っているはずです。  つまり、ここでいう「イス」とは「社会的に用意された」という感じです。よって、「深志高校

          そのイスは誰の為にBy南雲すみ

          自己紹介 by蟹ノ尻尾

          ペンネーム:蟹ノ尻尾 学年:1年  どうも。一番手は私、新入部員の蟹ノ尻尾です。  好きな食べ物はけんちん汁です。……あ、もちろん蟹も好きですよ。トラフカラッパとか丸くて可愛いですし、ズワイガニなんかとても美味しそうな形してますよね。  好きな本のジャンルは……基本的になんでも読みますが、恋愛系や青春系は自分がダメージを受けてしまうので、滅多に読みません。  そうそう、私が文学部に入部した理由は、単純に本が好きだったからです。読むのも、書くのもです。最近も数冊、新しく本を

          自己紹介 by蟹ノ尻尾