消去法の検索選択By星青

「ねぇ、どれがいいかな?」
 ある昼下がり、ファストアートのように陳列されたケーキを前に質問する。
「どれでもイイんじゃないか?」
 実に役立たずな返事だ。一発殴ってやりたい。
「あの子の事はわたしよりよく知っているでしょ? どのケーキ選んだらいいかくらい教えてよ」
 質問の趣旨を説明すると、
「そうだな……」
 少しうつむいて思考し、
「確か、生クリームは苦手って言ってたな。食べ過ぎると吐き気がするらしい」
 と呟きぎみに言った。
 とすると、ショートケーキはやめた方が無難か。

 ガラスケースのセンターに、イチゴとクリームのコントラストが、もはや芸術のショートケーキ。美味しそうなのに。
 あと、このロールケーキも避けるべきか。クリームの渦巻きが数学的な美しさの造形。こっちも美味しそう。ってわたしが食べたくなってどうする。
「それと、あの子キウイフルーツはアレルギーだから絶対にダメ」
 ケースの中を縦覧する。

 キウイが使われているのは……あった。フルーツタルト。いつ見ても世界一宝石箱に近い食べ物と思える。
「すみません、このタルトって……」
「別工場で製造しているので、他のケーキは安心してお召し上がりいただけます」
 わたし達の会話が聞こえている店員さんが質問を言い切る前に答えた。
 じゃあ他のケーキは大丈夫だな。
「それと、黒っぽい色味の物は忌み嫌っている。昔の忘れたい記憶を思い出しちゃうってから、」
「だからか。この前わたしが作ったビーフシチューを食べなかったのは」

 一週間ほど前、苦戦しながらもなんとか作ったビーフシチューを全く口にしてくれなかった事があった。てっきり、わたしの料理が下手すぎるんだと、メンタルズダボロになってたけど、そんな理由があったなんて。
「……いやあのビーフシチューは明らかに食べても大丈夫な匂いじゃなかったから」
 ズダズダのメンタルが追加ダメージを受ける。

 触れたくない事実から逃避して、本題で頭を埋めよう。黒っぽい物が食べられないってことは、多分チョコケーキとかも無理なんだろう。高貴な艶やかさのチョコケーキ。他のメンバーとは一味違う輝きがある。でもこれもダメ。
「他には?」
「あとは、生き物の形をしたのも食べたくないって言ってた」
 生き物の形?
「それってどういう事?」
「たとえばこれ」
 彼が指差したのはカップケーキ。ネコの顔がデザインされていて可愛い。毛並みの質感まで細やかに作られている。
「こういうのが食べれないってこと? どうして?」
「あの子曰く、命を直に喰っている気分になって、生々しく、抵抗感があるって」

 はあ……よくわからない感性だ。でも食べたくないって言うなら仕方ない。ネコのカップケーキに並んでクマ、ゾウ、タヌキと続くがどれもダメ。
 いままでの中で除外されてないケーキというと……
「すみません、このチーズケーキを三つお願いします」
 チーズケーキ。これならあの子が嫌う要素はない。
 平面上に描いた方眼図のように直線的で綺麗な輪郭。柔らかな白色が美しい。

 それから店を出て、しばらく歩いたとき、
「言いにくい事言ってイイか?」
 彼が重く口を開いた。
「何?」
「自分苦手なんだ、チーズケーキが、」
 それは知らない。そういうのは先に言えよ。一発殴りたくなった。

あとがき
 おはようございます。最近、納豆をアレンジして毎朝楽しんでいる深志文学の星空です。五感の中だと味覚の表現が最難関な気がしてます。いつか食レポの達人になりたい。
 では。


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