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人生の宝物

僕達は、メキシコの各地を巡り舞台公演する、ドラッグクイーンの一団です。バス移動をしています、バスの後部には僕達の劇団の旗を掲げています。街を通過するたびに、ファンの人達が声を掛けてくれて食事を差し入れてくれます。劇団には、沢山の支援してくれる方がいて衣装や制作、撮影まで行います。

舞台のキャストは3人の男性です、女装のゲイです。バスでメキシコの首都から、中部にあるリゾート地に向かって移動します。舞台監督が今回のお話は、7才の少年が出稼ぎに出ているお父さんに逢いたいという望みを3人で叶えるんだと、パーキングエリアで食事中に話すのでいい加減にしてと怒りました。

僕は40代の男性です、女性と結婚していたので息子もいます、30代でこの道に入り、舞台を離れれば一緒に人生を歩むパートナーがいます。僕をこの世界に導いてくれたメンターも居て、今の生活にとても満足していますよ。演劇でご飯を食べられる様になるまで支えてくれた男性と結婚したいと思います。

彼は僕のメンターです、年齢は50代です。僕の所属している劇団の責任者をしています。僕がカミングアウトしてこの仕事をするきっかけを作ってくれたのも彼の舞台を観たからです。彼の明るい人柄とポジティブな考え方を尊敬している。心に正直に生きる事と人は自由であると教えてくれました。有難う。

君は僕とお付き合いをしていた20代の研究生です。君がまだ学生の頃、僕の舞台を観に来てくれたよね。僕の方から劇団に入らないかと誘ったんだけど、期待に応えてくれてエースとして頑張っている。彼と僕は団員になって欲しいけど、君の人生だから今回の公演が終わった後に君の答えを聞かせて欲しい。

ユカタン半島にある観光リゾート地・カンクンに向かって、メキシコシティから旅をしている。7才の男の子も一緒である、男子がお父さんに会いたいと願う、本当の家族が舞台に立つ。お父さんは舞台監督の友人である、友人の息子の話を聴いて物語にした。僕は息子になぜお父さんに会いたいの?と尋ねた。

男の子は、11月の最初の2日間にある死者の日と呼ばれる祝日を父と一緒に祝いたい。メキシコの人々は死者の魂が次の世界にたどり着く為には、子供達が骸骨の衣装を着て、頭蓋骨をかたどった小さな砂糖菓子を食べる。父と大切な人のお墓を訪れ贈り物をして死について考え、人の魂を忍ぶんだと答えた。

祝日の夕暮れ時、街のお墓は家族の者達で人だかりが出来る、11月になると肌寒く、身体を毛布で包む。十字架を模した白石のお墓の側にロウソクを立てて明るくする。お花を供え、食べ物などの贈り物を並べる。子供達は骸骨の衣装を着て死者を迎える。ハロウィンとは異なり日本のお盆と共通しています。

僕はバスの中で男子と一緒に、骸骨のメイクを施した。男の子も舞台の練習通りに踊って見せた。メンターと研究生は、メキシコの酒であるテキーラを飲む、食前酒程度だが気持ちを高揚させる、彼が男の子にメキシコ料理であるタコスをふるまう、メキシコ人はトウモロコシがすきで、君は壁画芸術も教えた。

男子は、僕が筆で目や鼻、口の周りを黒く縁取る所を手鏡で見せると、その周りを白く塗ってニヤリと笑う、選んだタイツの衣装に身を通すと、骸骨が不器用に動くのを見せた。昼ご飯に彼がとうもろこしをベースにして作ったタコスを美味しく食べて、君が教えた壁画は見事で先祖であるマヤ族の血が脈打つ。

僕は、生物学的には男性であるけど、自己意識は女として生きるのが相応しいと感じているとメンターである彼に話すと、彼は性別に違和感はなく、恋愛対象が同性であるだけだと言う。君は、両性愛で女装を楽しんでいる、趣味嗜好を目的にしている。3人とも同じ障害がある訳でなく、原因は性分化にある。

男の子は3人には黙っていたけど、小さい時から近所の女の子よりも男友達に惹かれていた、その事を両親にも話せなかった。父親も大好きだから一緒にいたいと正直に伝えられなかった。病気と思われるのが怖い。女装のゲイと男の子は同じ世界で繋がっているかもしれない。今はまだ互いに気づいていない。

男児はユカタン半島の先端近くにあり、メキシコ湾に面したトゥルムに家族と一緒に住んでいる。父の育った場所でマヤ族の土地である、トゥルム遺跡など祖先の遺跡が観光客の人気を集めている。父はメキシコシティに出稼ぎに出ている、昨年も父は国民の祝日に帰れなかった。舞台監督がその話を聴いた。

舞台監督の友人である父に、リゾートホテルであるショーに出演しないかと提案してみた。父は学生の時に監督と舞台の経験もある、これは大きなチャンスで人生を楽しむ事が出来る。父は息子の出演も勝手に決めてしまった、男の子は父と一緒に過ごす時間が増えて嬉しかった。男子は人前に出るのが好き。

3人の男達の夢は、マヤ遺跡の神殿でショーを行う事です。ユカタン半島の各地にピラミッド神殿が残っている。観光客にチケットを売っているので、ステージをするチャンスは転がっている。光と音のショーを作る、マヤ時代の伝説と音楽、舞台をライトアップする。照らされた神殿からは神官が登場する。

君は今回のショーを最後にドラッグクィーンから離れようと思う。君は性的な問題を抱えている訳では無い、男と女どちらも好きである。病気とは理解していない。僕とお付き合いしたり、メンターである彼の話を聴いていると、社会で生きる方が挑戦的だと感じたのだ、2人もそれを望んでいる様に見えた。

僕と彼は劇団に残る?と話していたけど退団の意思は固かった。どう生きるか?という人生の問いに対して君は弁護士になる道を選んだ。資格は在学中に取得した。勉強は子供の頃から人並み以上に出来た。男の子は、この舞台を経験して3人と一緒に仕事がしたいよ。今度の公演はいつあるのと尋ねました。

僕は男の子を諭す様に、3人は自分の物語を生きている。それはドラッグクィーンという誇れる世界があるから、男の子にもきっと自分が尊敬できる世界が待っているはずだよと呟く。男の子は舞台の主人公になれば良いんだねと答える。大人になると自分の責任で生きる、だから逃げたりしないでと伝えた。

男の子は僕に、男性の方が女性より気になるんだと話す。僕は、おかしい事じゃないよと優しく伝える、僕も男の子ぐらいの時には男性も女性も好きだったよ。男の子は、嫌われるんじゃないかと誰にも話せないでいた。僕は他人を好きな気持ちを隠す必要はないんだよと話す。男の子は嬉しそうに笑いました。

僕はどんな子が好きなの?と聞くとスポーツ好きなクラスの友人だと言う、男らしくて格好いい。仲良いの?と尋ねると休み時間はいつも一緒にいるんだ。男の子を好きな女子がいて、友人の事を好きな事に気づいているんだと話す、女子になんて言えばいい?と聞く、いつも親切にしてくれて有難うと伝える。

僕はクラスメイトを大切にしてあげて、大人になって振り返ると小学生の頃は一瞬の宝物の様に感じられる、友人も女子も忘れる事ができない思い出だ。この度で話した事、僕は忘れないよ、男の子が僕の中で生き続ける、また再会できた時に男の子の成長が分かる様にしたい。ショーの経験を役立てて欲しい。

明日、旅の目的地であるカンクンに到着する。リゾートホテルで1ヶ月間公演が始まる。この舞台の為に劇団が、1つになって頑張ってきた。旅の内容は忙しさの中ですぐに忘れるだろう。少年と僕達の間で大事な話を沢山したよ。これからの人生の宝物になるお休みを頂き、とても濃いバスの旅になりました。

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