なみのおと

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第7回|人はそれぞれ頭のなかに疑似環境をもっている ウォルター・リップマン『世論』|山本貴光
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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第7回|人はそれぞれ頭のなかに疑似環境をもっている ウォルター・リップマン『世論』|山本貴光

 目下私たちは新型コロナウイルス感染症による困難のなかにいる。数ある困難のなかで、ここではそのうちの二つの点に目を向けてみたい。  一つはウイルスの感染とそれがもたらす病の問題で、これは健康や生命に関わる。マスクの着用や消毒、人と接触する機会を減らすといった生活のさまざまな面での変化も、感染症への対策として生じたものだった。  もう一つは、このウイルス感染症やそれに関わる医療情報その他について飛び交う真偽の定かならぬ情報の問題だ。いくつか言葉を選んでネットを検索してみれば

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第6回|見えないものから森羅万象を考える ルクレティウス『物の本質について』|山本貴光
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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第6回|見えないものから森羅万象を考える ルクレティウス『物の本質について』|山本貴光

 この宇宙やそこに存在する森羅万象は、私たちの目には見えない小さな物質が集合してできている。こうしたものの見方を「原子論」という。  いまではすっかりお馴染みのアイデアだが、ずっとそうだったわけではない。例えば、20世紀はじめ頃にはまだ原子論に反論する科学者もいたくらいだ。他方で歴史を振り返ってみると、原子論は古くからあるアイデアだった。古代インドや古代ギリシアに例がある。ここでは古代ギリシアの場合を見てみよう。というのは、岩波文庫にうってつけの1冊があるからだ。  その

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このカラダひとつで生きること(後篇) 開いた人生相談会と、交差点の話|上田假奈代
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このカラダひとつで生きること(後篇) 開いた人生相談会と、交差点の話|上田假奈代

「ほんとうに肝心なことはことばにならない。 現場は、流れていく川のようだ。 さっき見ていた水は、いま見ている水ではない。」           (「このカラダひとつで生きること(前篇)」より) 大阪・釜ヶ崎で、「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」を営んでいる上田假奈代さんの寄稿、後編です。 素人のプロの扉は開いている雨のあと、にわかに暑くなった松山市内。 松山城の脇の商店街をゆっくりと歩き、なだらかな坂道から幹線道路に曲がり、しばらく行くと、谷間のように木造二階建ての古

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このカラダひとつで生きること(前篇)|現場のことばにならなさのまま働く人と、ことば巧みな人|上田假奈代

このカラダひとつで生きること(前篇)|現場のことばにならなさのまま働く人と、ことば巧みな人|上田假奈代

大阪・釜ヶ崎で、「ゲストハウスとカフェと庭 ココルーム」を営んでいる上田假奈代さんは、昨年の夏、ココルームに滞在されていた方から新型コロナウイルスの陽性反応が出たことを受けて、その思いを「困難な状況をことばにしていくこと。」という一文に綴られました。 「今まで通りの生活というのはやはり、難しく思います。でもその状況に対して受け身になってしまうのではなく、その中でもどう生きていくかということを日々の実践の中で見つけたいと思います」。 それから一年。上田さんに、いま思うことを書い

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第5回|環境のなかで人間と病をみる ヒポクラテス『古い医術について 他八篇』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第5回|環境のなかで人間と病をみる ヒポクラテス『古い医術について 他八篇』|山本貴光

 トゥキュディデスと同じく紀元前五世紀から紀元前四世紀ころ、古代ギリシアにはヒポクラテスという医者がいた。現在でも「ヒポクラテスの誓い」とか「人生は短く、技術は長い」といった言葉で知られているかもしれない。  これは伝ヒポクラテス、つまり本人がそう書いたかどうかは定かではないけれど、そう伝えられてきたという言葉だった。ときどき「人生は短く、芸術は長い」という形で記されることもある。技術と芸術では意味がだいぶ違う。どうしてそんなことになったのか。  もとは古代ギリシア語で書

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第4回|憶測から遠く離れて トゥキュディデス『戦史』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第4回|憶測から遠く離れて トゥキュディデス『戦史』|山本貴光

 いまでこそ、疫病の原因はウイルスや細菌の感染だと分かっているものの、そうした仕組みが気づかれる以前はどうだったのか。人びとは、疫病をどのように捉えていたのだろうか。古い例として、紀元前5世紀のギリシアを見てみよう。  古代ギリシアの歴史家、トゥキュディデス(前460ころ-前400ころ)の『戦史』に恰好の記述がある(★1)。この歴史書は、トゥキュディデスが同時代の出来事として目にしたペロポネソス戦争(前431-前404)を描いたものだ。この希有な歴史家が、事実を見定めようと

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【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第3回|現実がゆらぐとき、物語は世界を照らす灯となる ボッカチオ『デカメロン』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第3回|現実がゆらぐとき、物語は世界を照らす灯となる ボッカチオ『デカメロン』|山本貴光

 日頃はとかく「役に立たない」と無理解にさらされることの多い文芸だが、このたびの新型コロナウイルス感染症パンデミック下では、過去の物語があらためて思い出され、読まれている。ボッカチオの『デカメロン』はそのひとつだ。  例えば、『ニューヨーク・タイムズ・マガジン』 による「デカメロン・プロジェクト」 をご存じだろうか。2020年の7月に公開されたものだ。  同プロジェクトのウェブページを訪れると、「現実が常ならざるもの(シュールレアル)になったとき、フィクションだけがそ

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【連載】岩波文庫で読む
「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第2回|パンデミック・シミュレーター カレル・チャペック『白い病』|山本貴光

 過去に書かれた小説や戯曲に触れて、まったく他人事とは思えないことがある。カレル・チャペックの『白い病』(★1)は、つい最近、そうした物語になった例である。 ★1――カレル・チャペック『白い病』(阿部賢一訳、岩波文庫赤774-3、2020)  カレル・チャペック(1890-1938)といえば、チェコの作家にしてジャーナリスト、あるいは批評家であり童話作家でもあった多彩な人。日本でも『ロボット(R. U. R.)』や『山椒魚戦争』(★2)をはじめ、多くの小説や戯曲やエッセイ

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【連載】岩波文庫で読む
「感染症」第1回|古典の小宇宙に問いかける|山本貴光

【連載】岩波文庫で読む 「感染症」第1回|古典の小宇宙に問いかける|山本貴光

 なにかのテーマについて考えたり書いたりする必要が生じると、とりあえず岩波文庫の棚 の前に立ってみる。  全部を揃えるには至っていないものの、この二十余年、毎月の新刊と、折々に遭遇した既刊書を手に入れて読んでいるので、それなりの冊数になっているのだった。  なぜそんなことをしているのかといえば、シリーズものの本を集めるのが好きだ というのは置いておくとして、学術の歴史に関心があるからだ。ここで「学術」とは学問と技芸術のこと。もとになった英語で言えば、サイエンスとアート

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病人の治療だけが医者の務めか チャペック『白い病』の問い|藤原辰史

病人の治療だけが医者の務めか チャペック『白い病』の問い|藤原辰史

未知の疫病が流行する世界を描く、カレル・チャペック のSF戯曲『白い病』(阿部賢一訳、岩波文庫、2020年9月刊)。自著『分解の哲学』(青土社、2019年6月)の「第3章 人類の臨界――チャペックの未来小説について」でも、この作品を紹介されていた藤原辰史さんに、あらためて本作を読み解いていただきました。(参考:藤原辰史「パンデミックを生きる指針――歴史研究のアプローチ」)  『医学概論』の中で、川喜田愛郎はこう述べている。 〔近代医学の常識的な医学像が孕む大きな危険は〕人

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