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旅エッセイ。どこでなにを考える?

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旅中に頭に思い浮かんだことを並べています。
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#海外生活

陽

部屋の外に一歩でてみると、氷のような透明な冷たさが服越しに肌に伝わる。

ぱりっとした澄んだ空気。呼吸に合わせて白く浮かぶ息。刺さるように頬に吹く風。

冬だ。

朝の靄がかかったようなふわりとした光の中を歩く。まだまだ準備不足な格好の私は少し早足になる。

周りを見ると、触り心地の良さそうなマフラーにダークカラーのブーツ。何にも覆われていないそのままの指先は次第に冷えていく。夏の名残など感じさせ

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私達にしか理解できない、隠されたコード

私達にしか理解できない、隠されたコード

海外に住んでいて日本の文化に触れると、隠されたコードを解読したときのような、ハッとする瞬間に出会うことがある。

最もよく覚えているのは、友人と『となりのトトロ』を観ていたときだ。サツキとメイの家の床下が映るシーンがあった。メイが庭に現れた小さなトトロを追って、床下を覗く。一瞬だけ映ったそのシーンで、友人は気に留めなかったが、私には強く印象が残ったものがある。薄暗い床下で光る、ラムネの瓶だ。

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だからお前は成長できないんだってば

だからお前は成長できないんだってば

英国時間午前4時半、私はロンドンの街中で途方に暮れていた。

空港行きのバスが停まるはずの道路は工事で封鎖されていて、一向にバスが来る様子を見せることない。玄関を出た時は空はまだ薄暗かったのに、次第に夜は明けて朝日が街を照らしだしている。

飛行機の時間は午前8:00。空港に着いていなければいけない時間は次第に迫ってくるのと裏腹に、バスがやってくる気配は全くない。どうにもこのままではヤバイ気がする

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普通

普通

平成最後のあの大晦日は、友人のスマホが鳴り止まない、2人で居るのに1人を感じるカフェでのブランチから始まった。

航空会社で働くその友人は、「普段はこんなに忙しくないんだけど」と言いながら、休みに入る前に犯してしまった大きなミスをカバーするべく、話の最中にメールチェックをしたり、電話で席を外さなくてはいけなかった。彼女を否定する気はない。私もこうやってiPhoneを開いては文章を打ち込んでいるのだ

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英語を話すことが好きで好きで好きで #とは

英語を話すことが好きで好きで好きで #とは

貴方にとって英語ってなに?授業科目?ビジネスツール?

英語、好き?私は好き。

英語を話すことが得意な人であれ、苦手な人であれ、英語を話すということはただのツールにしか過ぎない。

グローバル化に適応する為に、英会話教室に通うのをなんとなく社会に強いられる。でも、英語を学ぶことはそんなものの為にあるわけじゃない。(と、私は英会話教室のゴリゴリに押してくる広告をみるたびに思う。)

もちろん、英語

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きっと秋の夜長が癒してくれる

きっと秋の夜長が癒してくれる

私事で申し訳ないのだが、最近心がささくれている。

勿論ささくれた私の心のせいでケガをした人には大変申し訳ないと思ってはいるのだが、今は他の人に気を留める余裕もないくらい自分の心のケアで手が一杯だ。

特に自分がイラつく理由も見当たらないし、怒ってしまった事柄も冷静になれば大したことではないのも理解できるのだが、その瞬間はそこまで頭が回らない。

実は生理中である、と言えばそれが理由でそれまでのこ

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人生は会わなきゃいけない人に会わなきゃいけないタイミングで会うように出来ているという話

人生は会わなきゃいけない人に会わなきゃいけないタイミングで会うように出来ているという話

人の訃報を聞いた。
アルゼンチン人の同僚のお父さんが、母国からアイルランドまでわざわざ会いに来て一緒に旅行をし始めて2日経ったときの出来事だったそうだ。

同僚のその後の話によると、心臓発作が起きた彼女の父親は、そんなことがいつ起きてもおかしくない状態だったと医者からは伝えられたらしい。

最後にお互いの顔を見れた、と思うとこの悲しい事実を人伝いで聞くよりマシだとその同僚は言った。



こんな

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好きという引力

好きという引力

丁寧に整えられたグリーンの芝に並ぶ、赤と白のユニフォーム。スタジアム中に響くのは両サイドのサポーターの大きな歓声だけど、選手の真剣な顔からはその声が届いているのかもわからないくらいの集中と熱気が滲み出ている。

世界中の人が固唾をのんで見守るのは欧州チャンピオンズリーグのファイナルマッチ。私も例外では無く、アイルランドの首都ダブリンにあるスパニッシュスタイルのパブで、試合の行方を見届けていた。

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幸せの黄色。

幸せの黄色。

ふわりと風が吹く。

「今日はこれ要らなかったな。」

なんて思いながら、普段身に着けている赤いストールをカバンにしまった。

ダブリンの中心を流れるリフィー川沿いをゆっくりと歩く、いつもの帰り道。

長い長い冬が終わり、同じように首を長くして待っていた春の気配がやっと感じられるようになった。

なかなか終わらない冬にうんざりしながら、この国でコートを脱ぐことなんて一生無いんじゃないかって諦めかけ

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アイリッシュアクセントとバグパイプ

アイリッシュアクセントとバグパイプ

「アイリッシュアクセントはどう?」

彼が私に投げかけた2つ目の質問はこれだった。

イギリスのマンチェスターとリバプールの間の田舎町に住むイギリス人の彼。

そんな彼と私が出会ったのは、いまから6年前のことだった。

彼が私の大学に交換留学生として日本にやってきた、2012年以来の知り合いだ。

アイルランドとイングランドは、私が思っているよりもずっと近い距離にあるらしい。

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赤いパッケージ。故郷とビスケット

赤いパッケージ。故郷とビスケット

日本を離れて海外にいると、ふとした瞬間に日本のことを思い出すときがある。

それは突然に、そう、スーパーからの帰り道。ビスケットをかじりながら歩いているときにやってきた。

たった50セントの何の変哲もないビスケットが、どうして故郷を思い出すことになるのだろうか?

最初は私にもわからなかった。しかし誰が何と言おうと、そのビスケットは私にとって日本を想起させるトリガーとなったのだった。

アイルラ

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