幸せの黄色。
ふわりと風が吹く。
「今日はこれ要らなかったな。」
なんて思いながら、普段身に着けている赤いストールをカバンにしまった。
ダブリンの中心を流れるリフィー川沿いをゆっくりと歩く、いつもの帰り道。
長い長い冬が終わり、同じように首を長くして待っていた春の気配がやっと感じられるようになった。
なかなか終わらない冬にうんざりしながら、この国でコートを脱ぐことなんて一生無いんじゃないかって諦めかけていたところにやっと芽吹いた春。
街にはいろんな服装が入り混じっていて、半袖のTシャツで颯爽とかけていく10代の女の子二人組とすれ違ったと思ったら、
冬物ジャケットを羽織って忙しそうにどこかに向かうスーツのサラリーマンもいる。
気まぐれなその天気の為に、一日で一年分の季節を味わうことができると言われるアイルランド。
もしかしたらこの現象も毎年起きているものなのかな。
やっとひょっこり顔を見せ始めた春。
久しく会っていなかったこの季節との再会を喜ぶように、服装がちぐはぐな街ゆく人も嬉しそうに笑ってる。
週末はどこにお出かけしよう?なんて考えて。
そうだ、お出かけのために新しい春物の服が欲しいな、なんて思ったりだとか…。
季節の移り変わりにこんなに胸をときめかせたのは、いつが最後だっただろう。
子どものころは、春の訪れに微笑みがこぼれ、夏の暑さに恋焦がれて、秋の切なさにセンチメンタルになり、冬の匂いを感じては雪を待ち望んでいた。
そんな時代もあったけど、同じことを経験しているはずなのに何故か大人になると忘れてしまう。
忙しい毎日に翻弄されて、いつも何かに追われて、地球がどんなふうに回っているのか私たちは気にも留めなくなる。
そんなこと考えながらぷらぷら家へと向かった。
家についてから、中庭に出て洗濯物を取り込んだりしていると、目の端に黄色い色が映った。
何処からともなくやってきたたんぽぽが、ついひと月前まで白い雪で覆われていた庭を飾っていた。
まだ記憶に新しいその綺麗な雪景色が、目の前から消えてなくなったことに悲しさを感じながらも、
「ずっとこの暖かさが続きますように。」
なんて、思わずたんぽぽに願ってしまったんだ。
こうやって人は季節の狭間にいることを自覚する。
小さな花に願いを託したことも気づいたらすっかり忘れてしまっていて、知らない間にまた季節は巡るんだ。
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