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普通

平成最後のあの大晦日は、友人のスマホが鳴り止まない、2人で居るのに1人を感じるカフェでのブランチから始まった。

航空会社で働くその友人は、「普段はこんなに忙しくないんだけど」と言いながら、休みに入る前に犯してしまった大きなミスをカバーするべく、話の最中にメールチェックをしたり、電話で席を外さなくてはいけなかった。彼女を否定する気はない。私もこうやってiPhoneを開いては文章を打ち込んでいるのだから。

クリスマス前にヨーロッパから帰国して、暫く会っていなかった友人を訪ねて回った。卒業以来会っていなかった人、去年日本を出る前にあった人やたまたま高島屋のトイレでばったり会った高校の同級生とか色んな人に会って、近況報告をしたり、されたりした。

皆んな普通だった。

普通に仕事の愚痴をいい、転職したいと口にして、結婚という夢を語り、思い出話に花を咲かせた。

日本にくる外国人労働者が過酷な状況に陥っている話、イギリスがEUを出るかもしれない話や日経平均株価が1日で1000円ほど下落した話はここでは出てこない。

海外からTwitterを通して見ていた日本は、まるで夢世界だったかの様。現実世界に存在する日本は当たり前すぎるくらいに普通な日常だったんだ。

日本を出てイギリスに行く私を心配して、現地に住んでいる人を紹介してくれた友人がいる。私は友人のことを信頼していて、大好きな人だったから安心して友人の友人に連絡を入れた。

その方から返ってきた反応は、思っていたものからは遠くかけ離れていて、厳しいものだった。それがイギリスの厳しさを模したものであるのなら、もしかしたら私はその地には馴染めないかもしれない。

その人は繰り返し「日本人の考えを抜け出す」ことを私に押し付けるように強調した。メッセージを一通送っただけの間柄だったが、私の全ては理解されたらしい。私は一般的な、普通の、何も知らない若者で、自分に自信がない、ただの日本人らしい。

開いていたウェブページを閉じて、kindleを開いた。読みかけていた小説のラインを辿る。普通で一般的な私の孤独の埋め方。

カフェで1人座りながら、電話から帰ってくる友人を待つ。食べかけのまま残された、クロワッサンサンドイッチとスープはきっと冷めているだろう。

自分の思う「普通」は、自分が見たものや読んだもの、体験したものから形作られる。

普通ってきっと普通じゃない。

貴方が思う、普通の私も。私が思う、皆んなの普通も。

コーヒーをこぼして新しいスウェットパーカーに付いた。小さな染みを何度も拭いた。もうコーヒーは取れているのに、何かを取り払うかのように何度もナプキンでこすった。


#熟成下書き


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ハルノ

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