君たちとの、あれこれ

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【そらのかみさま】

「そらのかみさま、おねがいございます」

そう言って、ちびは両の手をあわせて空に祈った。今にも泣きだしそうな灰色の空。フロントガラスにぽつりと滴が落ちる。

「かみさま、そらのかみさま。おねがいございます。どうか、たいようをちょっとだけかしてください」



雨の週末、息子たちが会いにきてくれた。彼らと新しい土地で過ごすのは、これが二度目。迎えにいく道すがら、天気予報を調べた。土曜日は雨。日曜日

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何を受け取り、何に傷つくのか。それは自分の心で決めていい。
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【宝箱はもういっぱいで、収まりきらないから】

「たからもの、あげる」

こっそりとそう言ったちびの顔は、わくわくする企みに満ちていた。小さな手のひらは、まだたくさんのものを隠しきれない。だからいつだってこぼれ落ちそうに、「たからもの」が見え隠れしている。私はそれに気づかないふりをして、「なにかなぁ」と明後日のほうを向いて呟くのだ。

「なんだとおもう?」
「えーとねぇ、おはな?」
「ぶっぶー。ちがいます」
「えー、なんだろう。貝殻とか?」

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文章は、人を刺すためにあるんじゃない。人を救うためにあるんだ。
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【あの夜、息子に向けたもの】

テーブルに飛び散る米。スタイをはみ出し衣服にまでくっつく米。口元に留まらず、額やら髪の毛やらにまとわりつく、米、米、米。

離乳食は大抵、米から始まる。正確に言うと、重湯の上澄みから。段々と米の密度を増していき、世間一般で言うところの”お粥”の状態になった頃から、闘いは静かに幕を開ける。

めちゃめちゃ、ぐちゃぐちゃ。

粘土のような音を立てて、粘土さながらこねくり回す。目の前の我が子が一心不乱に

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私は私を幸せにする。
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【”もも”の空】

「みて、”もも”みたいにきれい」

 そう言ったちびの頬も、隣に立つ長男のそれも、桃色に上気していた。

 うっすらと染まる夕焼けを眺めながら、真っすぐに空を指さして笑う。小さな指先を眺めながら、私もつられて笑っていた。



 離婚が正式に成立して、早くも10日ほどが過ぎた。親権は旦那に、私はおよそ15年ぶりの単身暮らしに戻り、文章で生きる道を模索しながら療養を続けている。

 息子たちとは時

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どんな過去で、どんな環境で育ったとしても、幸せになる権利はある。
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【”足りないものだけを数えるな”】

 ”これ以上どうすればいいの?”
 

 毎日そう思っていた。限界ぎりぎりまで精神力と体力を使い、それでもうまくできない。子育てがこんなにも大変なものだったなんて、長男を産むまで知らなかった。

 自身の理性が崩壊したあの日、私は思い知った。一線を越えるか否か。それは誰にでも起こり得る、”他人事”ではない危うい境界線なのだと。



 子どもを産む前から、”いい母親”になる自信なんてなかった。で

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あなたが伝えてくれた言葉を、次は私が伝えていく。
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すこやかで、しあわせで在れ。

 久方ぶりに、子どもたちに会えた。二人の息子たちは相変わらず元気いっぱいで、よく笑い、よく話し、よく走った。

「海、行こうよ」
 そう言った私に快く付き合ってくれた二人は、砂浜に着くなり裸足になり、貝を拾ったり波とかけっこをしたりと忙しなく動き回った。あまりに見慣れたその光景を眺めながら、一人、喉の奥につかえているものを飲み下す。
 泣かないで話す。そう決めていた。私が泣いてしまったら、長男は自

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私が伝えたいのは、いつだって私以外の言葉ばっかりだ。
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あの温かな体温たちを手離してしまったら、私はこの先どうやって息をしていけばいいのだろう。

 いいお天気なのに、心が晴れない。何もかもが憂鬱で、何もかもが不安になる。未来はわからないから面白いのだと、そんなふうに思えたならいいのに。

 パステルカラーの文章が書きたいと、つい先月願っていた自分は何処にいってしまったのだろう。今の私には、柔らかい色がどうしても出せそうにない。

◇◇◇

 何もしていないのに涙が溢れる。何もできない自分の不甲斐なさが、全身に覆い被さる。後悔だけがひたすらに

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祈るだけでは変えられない。でも、「祈り」がなければ何も始まらないんだ。
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お母さん12年生、夜更けの反省文。

女性ホルモンに理性が負けた一日だった。

本日の私は自己嫌悪の塊である。この時間になり後悔が山のように押し寄せてきてしまったため、懺悔の意味でこのnoteを書いている。懺悔と言いながらしっかり酎ハイを飲んでいるけれど。しかも500㎖のロング缶。

絶賛PMS期にも関わらず、この数日相当な負荷がかかっていた。子どものあれこれが忙しく休む間もない連休を過ごし、挙句に今日もちびは幼稚園をお休みした。家の

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どんな過去で、どんな環境で育ったとしても、幸せになる権利はある。
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いつかの自分のために、今日もこうして書き残す。

自分が書いた文章に救われることがある。

先日、こんなnoteを書いた。

大切な人の手のひらを掴む。
それだけでよかったはずなのに、何故人は許せないものを排斥する行為を「守る」と捉えてしまうのだろう。

この記事のなかの一節を唱えながら、ぎゅっと拳を握りしめ、喉の奥で今にも溢れそうに詰まっている言葉たちを無理矢理飲み下した。お腹を壊しそうな気もしたけれど、それらを吐き出したところで後悔するのは目

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忘れたくない言葉が、私のなかで生きている。それらの力は、存外大きい。
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そういうときこそ、食べるんだ。

悲しみや苦しみが深いとき、人は「食べる」ことを疎かにしがちだ。食べることは生きることと直結している。生きる力が不足しているときは、食べ物を摂取するためのエネルギーが枯渇した状態にあるのだと思う。これは医学的にどうとかいう話ではなく、私個人の経験に基づく推測の話だ。

近頃、少し食欲が落ちていた。詳しくは書けないが、先日息子が理不尽な目に合い、それによって私も深く傷ついていた。一番傷ついたのは息子だ

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忘れたくない言葉が、私のなかで生きている。それらの力は、存外大きい。
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