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【化学】世界初!?ナノレベルで結晶ができる瞬間の映像が撮影された件

結晶の誕生 初めて観察された析出の瞬間|Science Portal動画ニュース(2021年9月27日配信)
チャンネル:SCIENCE CHANNEL(JST)

透過型電子顕微鏡(TEM)を使った結晶誕生の瞬間を撮影するという面白い研究成果がでたようです。TEM っていうのは高電圧をかけて飛ばした電子ビームを調査対象物質にあてて、電子が透過した/しなかったの差で像を描くタイプの顕微鏡です。光学顕微鏡では可視光(大体380~780 ナノメートル)を使っていますが、TEM では数ナノメートルの領域を撮影するために更に波長が短い光(電子)をぶち当てます。可視光領域外なので必然的に映像はモノクロになります。

さて、今回の結晶映像の撮影は科学的な興味としては「誰も見たことが無い結晶の出来始めってどんな感じなの?」っていうことですが、産業的な意義としては「同じ物質でも人間にとって利用価値がある結晶構造を持つ方を選択的に作る方法とかヒントがこれで見つけられるんじゃね?」っていう感じでしょうね。

動画を見たところ方法はとてもユニークで、カーボンナノチューブで作った試験管の底のような極小領域に結晶化する塩(塩化ナトリウム)を集中させて観察したそうです。結晶はどっちかというと無機化学寄りなので、無機材料を製造する方に大きなメリットがありそうですね。

ちょっと昔話をすると、2001年にノーベル化学賞を受賞した野依先生の「不斉合成」という研究成果がありました。簡単に言うと、有機物質の左手・右手の関係にある分子(上でくるくる回ってるキラリティー、簡単に言えば鏡像関係にある分子)の一方だけを選択的に合成するというものです。

この不斉合成が誕生する背景の一つとして「サリドマイド」っていう物質の事故があったんです。そもそもの原因は炭素原子が4本の手を持っていて、そこに全部違うものが結合すると、左手型と右手型の物質が50%ずつ生成することにありました。どちらも人体に悪影響がなく薬として作用する場合は何の問題もありません。

しかし、厄介なのは左手型と右手型のどっちかが薬で、もう一方が毒だった場合です。どうすれば薬と毒がごちゃ混ぜ状態になったフラスコから2つを分けられるでしょうか?例えば、沸点や比重の違いを利用してみたり、水とか油に溶ける/溶けないなどといった簡単な方法では分けることはできません。両者の物理的な性質は光学特性以外全く同じだからです。

そんな感じのまま製造されていた催眠薬/鎮痛薬「サリドマイド」は、毒の方が50%残留したままだったため、次々と奇形児が生まれるという悲惨な事故を引き起こしてしまいました。不斉合成はこれを解決する反応として化学界に登場したのです。着想としては「薬と毒が両方同時にできてしまうなら、いっそ反応でできてくるモノを薬だけにできないっすかね?」という感じです。

具体的には、化学反応を行う際に毒の方の物質ができるルートにだけデカい障害物(触媒)を置いておくことで薬の方を選択的に作ることに成功したのです。いきなり100:0というパーフェクトな比にはできませんでしたが、重要なのは鏡像関係にある物質の生成比を偏らせることができたという点です。

触媒の改良によって、今まで薬と毒が50:50でできていた化学反応の比は更に100:0に近づけることができるようになるでしょう。今までの有機化学を大きく変える意味でも不斉合成の成功は凄かったんですが、創薬や農薬の製造など、人々の健康や生活に大いに貢献できるということがノーベル化学賞に受賞につながったのでしょう。今後不斉合成は、世界を影で支える化学技術として残り続けると思いますねぇ。

( 'ω' ).。oO( 今回の結晶誕生の撮影はこれに通じるものを感じましたねぇ

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