アドバンス・ド・蜜の味 3
その少し前のこと――。
JR新宿駅東口。街頭スクリーンから轟音が鳴りひびく。
どうやら「アドバンス・ド・蜜の味」という名前のアイドルグループの宣伝映像らしい。画面中央に【密】という漢字をモチーフにした黄金の砂時計が現れ、派手なダンスナンバーが怒涛のようにはじまった。そこには棒切れみたいに痩せていて、非常識なくらい脚が長くて顔が小さい女が映っていた。思わず見とれていると背後から声をかけられた。
「ジゼル・ド・東別院ちゃんですよ……」振り返ると茶色いボロジャケットを着たクルクルパーマ頭の男が立っていた。
――やっぱり、中村春吾先輩ですよね?。
おお、イケヤスか。
よく見たらその男は高校時代の後輩だった。こいつと会うのは5、6年ぶりくらいだろうか。「実はまた小説を書きはじめまして」彼が言うので俺たちは近くにあったサイゼリヤで積もる話をすることにしたのだ。
イケヤスは地元名古屋の高校で国語教師をしているらしい。お人好しでビビリで頼りないだけの男だったのに、少し見ないうちにパーマなんかあてやがって……。俺は煙草に火をつけ、立ち上がる煙を眺めながらぼんやりとあの日のことを振り返った。
イケヤスと出会ったのは今から9年前――。
俺は名古屋市立猫ヶ洞高校の二年生で文芸部の部長をしていた。部では年に1回「緑壁」という文芸集を発行していたのだが、たまたま一年のときに寄稿した俺の小説が3年生のオタク先輩たちから褒めそやさられてしまい「中村くん部長やってよ」「君こそ真の文芸部員だ」見事に担がれてしまって、なぜか二年生にして部長をやってたんだよな。そんな春、入ってきたのがこいつだった。
若者でごった返す店内にはひたすら誰かの話声や、皿にカトラリーが当たる音が響きわたっている。店内放送からは古臭いカンツォーネがうっすらと流れていた。
で、ごめんだけどもう一度その、お前が投稿サイトで連載してるっていう小説の内容を教えてくれるか?。
――はい。主人公の男がとある女性と出会って恋に落ちる話です。彼女はとても魅力的な女性でした。ちなみに僕が高校時代に付き合っていた同級生の女の子をモデルとしています。あ、中村先輩の奥さんですよ?。そして主人公の男は……。
「ちょっと待て」
俺は思わず話を止めてしまった。こう見えて俺は二度結婚しているのだが、元妻の夏美はとにかく明るくてまっすぐな性格のショートボブがよく似合う天使みたいな女だった。現妻の真冬は奥ゆかしくてマイペースな性格の黒髪ロングヘアがよく似合う女神様みたいな女だ。実はこのふたりは姉妹なんだよ……。
と言っても叶姉妹みたいに実はまったくの血がつながってないなんていうそんな生易しいもんじゃないぞ?。双子だ。しかもバリバリの一卵性双生児だ。ほら、高校のとき美人過ぎる双子姉妹とか言われていた扶桑姉妹だよ。お前が一番近くにいたんだから一番よく知ってるよな?。二人とも文芸部だったんだからさ。
しかしイケヤスは何食わぬ顔でコーヒーカップに唇を尖らせていた。震えてきた。万が一、こいつがどっちかと付き合っていたことが本当だったとしても、そんな衝撃的なカミングアウトを【ついで】みたいに言いやがって。冗談はその実験に失敗した博士みたいな髪型だけにしとけよ?。
俺が夏美と付き合いはじめたのは高校二年の夏休みで、彼女はひとつ下だから一年生だった。それから1年半ほど付き合ったあと俺が東京の大学へ進学したのを機に一旦別れてるから、そのあとにこいつらがくっついたということなのか?。
それとも真冬のほうだろうか。いや、それだけはあり得ない。妹と違って姉のほうは奥床しい性格なので男をつくるタイプではなかった。夏美からもそんな話は聞いたことがないし当然本人からも聞いたことはない。俺は頭を抱えた。だがイケヤスは構わず話をつづけてきやがる。
――文化祭の夜、男は女に告白しました。結果は惨敗でした。そのとき彼女のことを初めて美しいと思いました。あいにくの雨でした。折りたたまれた白いテントがキャンパスに規則正しく並んでいました。外灯に照らされてぼんやり霧の中に浮かび上がるその姿はまるで巨大な生き物のようでした。僕は今まで以上に彼女を深く愛するようになりました。そしていつしか二人は肉体関係を持つようになったのです。
「待て待て。ちょっと待て……」
俺は再びイケヤスの話を止めた。何でその男はフラれた相手と肉体関係まで漕ぎつけてんだよ。どんなチート使った?。テントの描写なんてどうでもいいからそこをもっと詳しく教えろよ。それとお前「男」が途中から「僕」になってるぞ。三人称が途中から一人称になっちゃってる。わざとか?。
だいたい女も女だよ……。そいつはフった相手にも平気で抱かれちゃうような尻軽女なのかよ。もしそんな女が実在するならむしろフラれたほうがいいじゃねえか!。
いやいや、夏美はそんな女じゃねえぞ。いや、それでいうと真冬さんのほうがもっとそんな女じゃねえわ。イケヤス、本名は池下寧太。略してイケヤス。ふざけたニックネームしやがって……。そういえば俺がつけたんだっけか。あれは文芸部の新歓のときだったな。お前は池下寧太だからイケヤスだって1秒でつけたんだったわ。
まあその件は水に流してやるよ。そんなことよりどっちなんだイケヤス。俺は怒りに任せてミルクティーを飲み干しドリンクバーへ走ると勢いコップにコーラを注いだ。とにかく炭酸をガブ飲みしたい気分だった。
席に戻るとイケヤスは深刻な顔をしてキッズメニューを広げていた。どうした。何かあったのか?。しかしよくよく見てみると彼は「間違い探しゲーム」に夢中になってやがったんだ。
今か!。今それをやらなきゃいけないのかイケヤス!。
よーしわかった。そっちがそういう態度ならハッキリさせてやろうじゃないか。お前が学生時代に付き合っていたのは夏美(元妻)なのか。真冬(現妻)なのか。どっちなんだ?。俺は勢い込んで尋ねた。しかしイケヤスは目をひたすら瞬くのみ。
そういえばこいつ、俺が夏美と離婚して真冬と結婚するに至った経緯を知らないのかもしれない。それは少し説明不足だったな……。
ちょうどいい機会だ。今までまったく気持ちの整理がつかなかったこの2年間のモヤモヤを、今ここですべて吐き出してやる!。
俺が夏美と離婚したのは2年前――。
結婚後わずか1ヶ月後のことだった。死んじまったんだよ。23歳という若さでな。そのとき向こうの御両親から「姉の真冬をもらってくれ」って言われたんだ。こういうのを順縁婚というらしい。
本当は夏美と結婚するときに二人共もらってくれって話だったんだけどな。事実上の重婚ってやつさ。でも、そのときすでに夏美は病床に伏していて実家から出られる状態じゃなかったし、俺は東京で仕事をしていたもんだから、結局、俺と夏美は籍を入れただけで終わってしまった……。
向かいのイケヤスは黙って俺の話を聞いていた。
なおも俺は話をつづける。
そもそも俺が夏美とヨリを戻したのはあいつが20歳のときだった。そのころ彼女は名古屋でダンス教室の先生をやっていて、受け持ちの生徒のチームがHIP HOPダンスの全国大会で優勝するくらい力を入れてたんだよ。
俺はそのころ東京の大学に通ってたのでしばらく遠距離だったんだが、急にある時期からデートコースが式場巡りになったり、ゼクシィを嬉しそうに読みはじめたりしてさ。あいつはどうしても結婚したかったんだろうな……。
そんな彼女の姿がフラッシュバックしちゃってさ、俺は棺の前で独り男泣きしたよ。大学卒業してから。仕事が軌道に乗ってから。なんてケチ臭いこと言ってないでもっと早く結婚してやれば良かったなとか……。もっと色んなところへ行って色んなことをしてバカみたいに思い出をいっぱいつくってやれば良かったなとか……。後悔の波が押し寄せて来てさ、目からこぼれ出しちゃったんだよ。
まあ、ぶっちゃけ、俺が好きなのは真冬さんのほうだったんだけどな。笑。
「ちょっと待ってくださいよ。先輩!」
今度はイケヤスのやつが俺の話を止めてきた。
――最後の一言ですべてを台無しにするのやめてもらっていいですか?。でもおかげで確信しました。お察しのとおり僕は真冬と付き合ってたんですが、その話を総合的に考えると恐ろしい結論に達してしまいました。
もしかしたら死んだのは夏美ではなく真冬のほうかもしれないということです。思い出してみてください。あれは新歓のときでした。一年生が教室のうしろに並べられて先輩から順番にあだ名をつけられるっていう謎のイニシエーションがありましたよね。そのとき先輩は「うおお、ネーミングの神が降りてきた~!」とか言って扶桑姉妹をこう名付けたんです。
「君たち双子だからミキちゃん&マキちゃんな」
あのなあ、お前……。何で途中でそんな意味不明なエピソードをぶっ込んでくるんだよ。それはリカちゃん人形の双子の妹たちの名前なんだわ。整氷車が通ったあとのスケートリンクかってくらい俺がツルツルにスベったの忘れたのか?。
いや、そんなことより今サラっと言ったな。真冬さんと付き合ってたって言ったな。正直ぜんぜん察してなかったからスルーするところだったよ。そりゃあ俺は元気系でグイグイ来る夏美より、ちょっと控えめで影がある真冬さんに惹かれていたけどさ。あまつさえ彼女のことが好きなまま夏美と付き合ってしまったけどさ。断っておくが俺は夏美のことも好きになったんだぞ。何なら今でもむちゃくちゃ愛してるわ!。
でも真冬さんは俺のことなんて眼中になかったんだ。ずっと憧れの存在だったんだ。だから結婚して2年になるけど俺は未だにキスすらしてないんだぞ。何なら手すら握ったことねえわ!。
俺は真冬さんのことを箱入り娘みたいに大切に大切にしてるんだ。それなのに入れ替わってるって何だよ?。意味がわからねえ。この俺が夏美と真冬を間違えるわけが……。
なんだか急に自信がなくなってきた俺の表情を読み取ったのか「もしあれでしたら、僕たちが高校時代に編み出した扶桑姉妹を識別する符牒を伝授しましょうか」イケヤスが抑え気味のトーンで進言してきた。お、おう。
「嫌よ嫌よも?」と聞いてください。
「好きのうち」と返ってきたら妹の夏美です。
「幕の内」と返ってきたら姉の真冬です。
おい。殺してやろうか……。
真冬さんはそんな親父ギャグなど言わない。どっちかというとそういうことを言うのは夏美のほうだろが。いや、あいつもそういうこと言うタイプじゃなかったな。どっちかっていうと何のひねりもなしに答えるタイプだったわ。っていうかお前、俺が卒業したあと絶対に調子乗ってただろ。
どうやら【俺の嫁さんたち】とイチャついてたなあ。
くそぉ。俺ですら二人同時にイチャついたことなんてないのに。もうそれは絶対に叶わない夢なんだよ。この男、どういうつもりなんだ?。頭に血がのぼってしまった俺は冷静になるため再びドリンクバーへ走った。
しかし席へ戻るとイケヤスがまたもや真剣な顔してキッズメニューを開いて「間違い探しゲーム」をやっているではないか。ふざけやがって。今度からお前とサイゼ来るときは予め正解のとこに赤丸つけといてやるからな!。
俺は席につくなりあえて紳士的に「そろそろ答え合わせといこうか」嘯いた。すると彼は瞳の奥に憧憬のような輝きを宿らせながら「さすが先輩ですね。いつ気づいたんです?」感嘆した。
もちろんまったく何も気づいてないし、なぜ俺が気づいたと思ったのかもサッパリわからないが、そんな素振りは微塵も見せない俺。するとやつはこんなことを言ったのだ。
「お察しのとおり僕は寧太のほうではありません」
弟の喜太ですよ。中村先輩……。」
そう言って彼はニチャアと笑ったのだ。そこで俺はハッと思い出した。そういえばこいつらも双子だったわ。しかも扶桑姉妹と同じ一卵性双生児だったな。兄のイケヤスは文芸部だったのだが弟の喜太は違ったので完全に記憶から抜け落ちていた。だが俺はいかにも最初から見抜いていたという素振りを崩さず「やっぱりお前だったんだな、喜太」言ってやった。
――すみません。最初、先輩は僕のことイケヤスって呼んでたので、ついつい兄貴のフリをしてしまいました。
そう言って彼は頭を下げてきた。こいつは文芸部ではなかったものの、面白い文章を書くので緑壁制作のとき色々協力してもらっていたんだっけ。
ポップコーンシュリンプをひとつ口の中へ放り込む。兄貴は何やってるんだ。元気なのか?。聞くと喜太は「ピンピンしてますよ」笑った。しかし一瞬だけくもったような表情をしたのを俺は見逃さなかったのだ。すかさず追求すると彼はおもむろに過去を語りはじめた。
――僕は昔から兄貴に憧れていました。あいつは僕と違って勉強ができて、おまけにイケメンでしたから……。あ、今のは双子の鉄板ギャグですよ?。まあ、だからってわけじゃないですけど、僕は高校に入ったら今までの自分の人生のなかで最も関係のないバスケ部に入ろうと思いました。自分を変えたかったんですよ。
――でも関係なかったのですぐに辞めました。帰宅部になった僕は不登校になり地元の悪そうなやつらがだいたい集まるたまり場へ顔を出すようになりました。そのうちフリースタイルHIP HOPグループの連中とつるむようになったのです。
――元々ラップは好きでした。Run-D.M.C. ft. Aerosmithの『Walk This Way』は今でも僕の人生のテーマ曲ですよ?。僕はグループで一番年下だったのですが、得意のリリック作りでメンバーから徐々に信頼を得ていきました。そんなときに出会ったのが真冬だったんです。彼女は元々リーダー格の男と付き合ってたんですが……。
「ちょっと待っ……」
俺はそう言いかけてやめた。真冬さんがHIP HOPグループのリーダー格の男と付き合ってたなんてイメージが違いすぎて逆にファンタジーに聞こえたからだ。そんなことより喜太よ。『Walk This Way』はセックスを夢見る童貞の曲なんだがそれがお前の人生のテーマ曲で本当にいいんだな?。
喜太が構わず話をつづける。
――僕はずっと真冬と同じクラスだったのですが、まったく喋ったことはありませんでした。でも僕が「Summer Buddha B.B.Q」のなかで頭角を現すようになると学校でも話しかけてくれるようになりました。すぐに好きになっちゃいましたね。
――彼女はあくまでもボス・MC Dragonさんの恋人だったので他の男には基本冷たかったのですが、なぜか僕とは仲良くしてくれて彼女の笑顔が本当に愛おして仕方なくて、僕はついつい告白してしまいました。今思えばそれは仕向けられていたんでしょう。なぜなら彼女が本当に好きだったのは兄貴のほうだったのですから。でも兄貴には既に付き合ってる女の子がいて……。
「待て待て待て。さすがにもう処理が追いつかん……」
俺はここまで聞いてやっと喜太の話を止めた。よく我慢したほうだと思うよ。まずそのサマーなんちゃらってのが、お前が所属していたHIP HOPグループの名前でそこのリーダー格の男がMC Dragonなんだな?。
そんでもって真冬さんは高校時代にそいつと付き合っていて、それなのに同級生のイケヤス、つまりお前の兄貴のことが好きだったと……。だけど兄貴にはすでに付き合ってる子がいたから仕方なく双子の弟であるお前が告白するよう仕向けてきたというわけなのか?。聞くと喜太はこくりと大きくうなずいた。
なんてこったい……。
まるで俺じゃないか!。
ずっと真冬さんのことが好きだったのに結局は双子の妹・夏美と付き合ってしまった俺とまったく同じではないか。本当に心の底から最低だったと思うよ。もちろん動機は不純だったものの最終的には夏美のことを本気で好きになり結婚までしたわけだが何という因果な話なんだ。喜太、お前はお前でつらかったんだな。さっきから色々言って悪かったよ……。
だがなあ、お前の話に一箇所だけ赤丸をつけてやるぞ?。
今から8年前――。
あれは俺が高三になった春だった。文芸部にも新入部員の一年生女子が何人か入ってきた。その中でひときわ輝いていたのが東山綾目だ。彼女は顔が丸くてとてもかわいかったのだが残念なことにお前の兄貴に想いを寄せていたんだ。まあ俺はそのころすでに夏美と付き合ってたし、本命はあくまでも真冬さんだったからなあ。
ただどうしても気になった俺はある日の部活終わりに彼女の後をつけてみることにしたんだ。そしたら案の定イケヤスと会ってやがったよ。場所はあの【血の池事件】で有名な鹿子殿神社だった。二人は本殿の裏でキスをしようとしてたんだがどうも様子がおかしい。彼女がキス顔で待ってるのにイケヤスのやつぜんぜんいかねえの。
あまりにもあいつがいこうとしないもんだから俺は思わず「早くやれよ!」角から飛び出しちゃったんだよ。そしたらあのバカ、パニックになって逃げ出しちゃってさ。結局、綾目は俺とキスしたんだよな……。
「ちょ、ちょっと待ってください」
今度は喜太が話を止めてきた。
「何で先輩の話には必ずさいごに必ずオチがあるんですか!」
「仕方ないだろ。本当のことなんだから……」
とにかくお前の兄貴はその子とは付き合っていないってことだよ。そう言って俺はエスプレッソを飲み干した。そのとき店内BGMがカンツォーネからカロリー高めの激しい楽曲へ切り替わった。どうやら4月からこの店とコラボしているというアドバンス・ド・蜜の味の新曲らしい。
「あ、これ、Dragonさんがプロデュースしてるアイドルの新曲ですよ」
「ああ、さっき大型スクリーンでやってたやつか……」
――アドバンス・ド・蜜の味っていう現在ヒットチャート爆進中の6人組アイドルグループです。蜜の味は6人全員が完璧な美貌を誇っていて、とくに先輩が見惚れていたジゼルちゃんは体型がバグってることで有名です。彼女はインスタへ写真をアップするとき脚が長すぎて、逆に短く修正したことがあるという伝説の持ち主なんですよ?。
そいつはえげつないエピソードだな。
――はい。ただし彼女の最大の魅力はそんな非常識なスタイルの良さでも赤ちゃんみたいな小顔でもありません。世界一エロいべろと呼ばれる「蛇舌」なんです。
すぷりっとたん?。
喜太の話ではジゼルの舌先は蛇みたいにふたつに割れているのだという。それだけでなく蜜の味はメンバー6人全員が聖印と呼ばれる身体的特徴をもってるらしい。
――たとえばリーダー担当のスフィンは美しいオッド・アイ。ラップ担当のガルルは妖艶な白まつげ。かわいい担当のクロエは指が6本あるんです。
ずいぶんと個性が爆発してるじゃないか。
――はい。しかし彼女たちが本当にすごいところはそれだけの身体的特徴をもっていながら素性が一切不明なところなんですよ。このSNS全盛時代に本名はおろか出身地すら何もわかっておらず卒アルひとつ出てこないのです。Dragonさんプロデュース力やばくないですか?。
まるで自分のことのように語る喜太だったが、時刻を見るとすでに22時を回っていた。悪いけどそろそろお開きにしようか。提案すると「そうですね」彼も同意したので俺は最後にひとつだけ質問をすることにした。
結局どこまでが小説の話でどこまでが現実の話だったんだ?。すると喜太は少し考えあぐねたあと、こんな風に答えたのだった。
「少なくとも、扶桑姉妹を見分ける符牒のくだりは本当です」
脱力する……。
むしろそれだけはどうでもよかったよ。
そういえばもうすぐ夏美の三回忌だなあ。
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