オロチ

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アドバンス・ド・蜜の味 1

私は死につづけていた。 笑顔でずっと死につづけていた。 「夏美……。真冬……。お父さんから大事なお話があります」 16歳になったとき母親から奥座敷へ来るよう呼ばれた。通称アカズの間だ。そこは幼いころから「絶対に入るな」父親にクギを刺されていた部屋だった。髪が長いほうの姉・真冬は素直にその言いつけを守っていた。でも私はどうしてもなかへ入ってみたくて侵入を試みたことが何度かあった。そのたびに父親に見つかって意味がわからないくらいこっぴどく叱られた。父親は決まり文句みたいにこう

    • アドバンス・ド・蜜の味 22 (完結)

      3ヶ月後、朝――。 MC Dragon自死 アドバンス・ド・蜜の味 無期限の活動停止へ 衝撃的なニュースが日本列島をかけめぐったのはあの日から1週間後のことだった。正直なぜ赤松龍之介が自ら死を選んだのか。その後スフィンたちがどうなったのか。本当に呪いは解除されたのか。実のところ何ひとつわかっちゃいない……。 なぜなら俺たちはテツさんがあらかじめ鍵を開けてくれたマンションへそれぞれ侵入して同時刻に祭壇を破壊しただけなのだから。その瞬間「呪いが解除されました」なんてアナウン

      • アドバンス・ド・蜜の味 21

        ♪~。まもなく名古屋です。東海道線、中央線、関西線と、名鉄線、近鉄線、あおなみ線、地下鉄線は、お乗り換えです……。 気がつくと名古屋駅に着いていた。どうやら眠ってしまったみたい。ふと横の座席を見ると喜太くんが居なかった。 あれ?。先に降りちゃったのかな。ひとまず下車するも彼の姿はどこに見当たらなかった。どうしちゃったんだろう。念のためスマホを確認すると喜太くんからLINEが入っていた。どうやら私が寝てしまったので話の続きをメッセージに入れてくれたみたい。 内容は呪法陣を構

        • アドバンス・ド・蜜の味 20

          都内某所――。 SBE社内にあるダンス練習室。 三方を鏡に囲まれ天井はコンクリート剥き出し。床は板張りになっいる20畳くらいのこの空間でいつも蜜の味のメンバーがダンス練習をしている場所だった。しかし何やら音響機材がトラブって音が出ないというので見に入ったらフロアにへたりこんでいたクロエから声をかけられた。 「おい、そこの小僧、ジュース買うてきてごせぇや」 一瞬ムッとしたが「すんません、これを見てからでいいすか」機材をいじりながら俺は冷静な対応をした。こいつらは見た目こそガ

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        アドバンス・ド・蜜の味 1

          アドバンス・ド・蜜の味 19

          JR新宿東口。アルタ前広場――。 やっと会えたね。僕は真冬のとなりにすわった。それにしても驚いたなあ。髪が短いから夏美かと思ったよ。そう言うと彼女は首をかしげて「イメチェンしたの」少女のように微笑んだ。 彼女は学生時代、落ち着いた大人っぽい子ってイメージだったけど今は逆にあどけなさすら感じる。まるで本当に夏美と話してるみたいだ。 来てくれて嬉しいよ。 やっと記憶が戻ってきたんだ。たぶん何らかの原因でスフィンの呪力が弱まったんだと思う。どうやら彼女は他人を洗脳したり、記憶を操

          アドバンス・ド・蜜の味 19

          アドバンス・ド・蜜の味 18

          21時過ぎ。新宿某所の自宅マンション――。 今日は春吾さんに内緒で美容院へ行ってきた。コンタクトレンズ屋さんにも行った。あとその帰りにたまたま寄った店でパイナップル柄のパジャマを買ってきた。お風呂からあがって今ちょうどそれに着替えたところだ。 そういえば通販で買ったスパムが冷蔵庫に1缶残ってたなあ。明日の昼ごはんはポーク卵おにぎりにしようかしら。今までずっとロングだったから気づかなかったけれどショートってこんなに髪を乾かすのが楽なのね。 そんなとりとめのないことを考えながら

          アドバンス・ド・蜜の味 18

          アドバンス・ド・蜜の味 17

          えっ、ガルルからビデオ通話がかかってきたの!?。 仕事終わり。黒川くんからどうしても助けてほしいという連絡を受け八事のロイヤルホストで彼と会っている。すると衝撃的な言葉が飛び出したのだ。何でも黒川くんは今日の昼に平和公園で扶桑家の仕様人・鶴里憧子さんと会っていたらしい。なかなかやるじゃない?。でもそこで思いもよらない大事件が発生したことにより、何もかもが吹っ飛んでしまったのだという。 ――今日の昼、鶴里さんに呼び出されて二人で話し合っていたんですよ。そのとき亀島さんからビ

          アドバンス・ド・蜜の味 17

          アドバンス・ド・蜜の味 16

          窓ガラスから差し込む埃まじりの朝の日差し――。 今日はとてもじゃないけど授業に出る気になれなかった。朝から大学のフードコートで独りぼーっとしている。窓際のテーブル席。缶コーヒー片手に僕はさっきからずっと鶴里さんのことを考えていた。 昨日はいったいどうしてあんなことになっちゃったのかな。告白文化を世界一否定して生きてきた僕がまさか女の子にプロポーズするなんて。しかもスターバックス店内という公衆の面前でするなんてどうかしてる。 でも意地は見せたつもりだ。僕は「付き合って下さい」

          アドバンス・ド・蜜の味 16

          アドバンス・ド・蜜の味 15

          私の人生は二十年前―― 鶴里家におぎゃあと生まれ堕ちたときから 宿命づけられておりました……。 私は朝の日課である薬医門から玄関アプローチまでの掃き掃除をしながらぼんやりと考えごとをしていました。私は十六のときからこのお屋敷に仕え今年で二十歳になりました。今は敷地内に建てられた古い使用人宿舎に執事長の茂蔵爺様と二人で暮らしています。 爺様は私の母方の祖父にあたり齢七十五にして未だ現役。先代当主の故・峯松様の時代から現当主の正峯様の時代にいたるまで六十年間扶桑家に尽くして参り

          アドバンス・ド・蜜の味 15

          アドバンス・ド・蜜の味 14

          とんだ災難に合ってる……。 今、名古屋テレビ本社の裏にあるスターバックス東別院店でキャラメル・マキアートをしばいてるんだが、なぜか俺の目の前には3年前に別れた元カノとその推し活仲間の大学生の男が座ってるんだよ。何でこんなことになっちまったんだろう。 ビジネスマンでごったがえすガラス張りの店内からは都会のど真ん中にしてはたくさんの緑が見える。屏風みたいな傾斜のついた壁には誰かの油絵が飾ってある。むき出しの高い天井からは照明がいくつかぶら下がっている。小さな四角いテーブルの上に

          アドバンス・ド・蜜の味 14

          アドバンス・ド・蜜の味 13

          日曜日の昼下がり。自宅の部屋――。 ベッドに寝転んでぼんやり天井の木目を見つめていたら突然ドタドタ!。けたたましい足音と共に「お兄ちゃん居るんでしょ~」大砲のような声が一階から鳴り響いた。妹の凛だ。勢いよくドアが開く。 「まだ寝てたの~」 勝手に入ってくるなよ。文句を言うと妹は侮蔑を込めたトーンで「日曜日の昼間からゴロゴロしてないで彼女とデートでもしてきたら~」なんて煽ってくるもんだから俺には彼女なんて必要ないんだよ!。ぴしゃりと言い返してやった。 しかし凛は「どうせ蜜

          アドバンス・ド・蜜の味 13

          アドバンス・ド・蜜の味 12

          名古屋の扶桑家の実家――。 今日は我がスポンサー様に金をせびりに帰って来たのだが、家には憧子ちゃんとシゲ爺しか居なかった。あいにく親父もお袋も外出してるとのこと。仕方なく縁側でくつろいでいたら春吾くんが人間のようなものを担いでこちらへやってきたのだ。 「よう、春吾くん、女の子でも落ちてたのか」 「そうそう、とびっきりかわいい子がって違いますよ!」 「なんだ、よく見たら真冬か……」 どうやら門の前で真冬が急に体調を崩したらしい。よーし、手伝うよ……。そう言って俺は真冬の足の

          アドバンス・ド・蜜の味 12

          アドバンス・ド・蜜の味 11

          ふぁあ。生あくびをひとつ。 次の日の朝――。 さっそく私は春吾さんと呪法陣の実態をたしかめるため、本陣、平安通、東別院、覚王山、六番町、星ヶ丘をめぐることにした。テツさんは「素人が手を出すな」とは言っていたけど居ても立ってもいられなかったのだ。まずは一番実家から近い星ヶ丘駅で降りて付近を探索する。 「真冬さん、こんな朝早くから大丈夫ですか」 春吾さんは朝からずっと私のことを気にかけてくれている。私は全力の笑顔で「ぜんぜん大丈夫です」答えたかったのだけれど眠すぎてそれどこ

          アドバンス・ド・蜜の味 11

          アドバンス・ド・蜜の味 10

          数日後――。 今日は真冬といっしょに瀬戸街道沿いにある饕餮舍に来ていた。テツさんこと東山哲道が運営する怪しさ満点の古本屋だ。目的はアドバンス・ド・蜜の味のファンだというテツさんの妹・綾目から詳しい話を聞くことだった。俺たちはこの雑然とした本の墓場みたいな場所で彼女と8年ぶりの再会を果たしたのだ。 「おお、久しぶり」 「ど、どうも」 「……」 さすがに全員ぎこちなかった。 綾目は高校時代よりも少し痩せて見える。もっと丸顔のイメージだったが化粧のせいなのかゆるふわ巻き髪のせい

          アドバンス・ド・蜜の味 10

          アドバンス・ド・蜜の味 9

          「おーい、寧太ー!」 高校一年のある秋の日――。 授業が終わり帰り支度をしていると窓際から誰かの呼ぶ声がした。振り返ってみると同級生の扶桑夏美が窓枠に立っていた。 もう一度言いうが窓際ではない。窓枠だ。茶髪のウェーブボブカットに大きな髪飾りをつけて顔はうっすらと化粧をしておりたぶんリップクリームも塗っている。やたら袖の長いベージュのカーディガンをはおりスカートは丈を短くして穿いているようだ。お行儀が悪いことこの上ない。 君は窓を何だと思ってるんだい。尋ねると彼女はひょい

          アドバンス・ド・蜜の味 9

          アドバンス・ド・蜜の味 8

          アスナル金山でばったりと昔の女に会っちまった……。 3年前に出会い系サイトで知り合った綾目という女だ。俺のなかではもうとっくに消し去った過去のつもりだったのだがどうも様子が尋常じゃねえ。バッチバチに泣いているじゃねえか。涙でアイメイクが崩れてデビルマンみたいになってやがる。 「どうした?」 思わず声をかけちまったんだ。綾目は明らかに俺のことに気付いてドギマギしてたが「どいてください」下を向いて俺を避けてきた。 ずいぶん他人行儀なこった。もし俺が少女漫画に出てくるイケメンだ

          アドバンス・ド・蜜の味 8