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アドバンス・ド・蜜の味 21

♪~。まもなく名古屋です。東海道線、中央線、関西線と、名鉄線、近鉄線、あおなみ線、地下鉄線は、お乗り換えです……。

気がつくと名古屋駅に着いていた。どうやら眠ってしまったみたい。ふと横の座席を見ると喜太くんが居なかった。
あれ?。先に降りちゃったのかな。ひとまず下車するも彼の姿はどこに見当たらなかった。どうしちゃったんだろう。念のためスマホを確認すると喜太くんからLINEが入っていた。どうやら私が寝てしまったので話の続きをメッセージに入れてくれたみたい。

内容は呪法陣を構成する各マンションの住所だった。すごい。全部のマンションを探し当ててたんだ……。


目次 
        
10 11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22(完結)

真冬のファンタジア④


そのとき、ちょうど春吾さんから電話がかかってきた。
――留守電聞きました。喜太から連絡があったって本当ですか?。
う、はい……。それと、その、今、名古屋なの。ごめんなさい。
――なんですとぉ。俺も今から向かいますから!。プツ。

そう言って電話は切れてしまった。どうやら彼は会社を抜け出してくるみたい。それでクビになっちゃったら本当にごめんなさい。
私はそこから地下鉄東山線に乗り星ヶ丘駅で降りてタクシーに乗った。それから平和公園を横切って我が家の薬医門の前に到着。タクシーを降りて呼び鈴を鳴らすと憧子さんが出迎えてくれた。

「!?」

憧子さんは一瞬、目をむいていたけれど美容院で髪を切ったことを伝えると「左用ですか」それ以上は会話をしてこなかった。
私は先を行く彼女の背中に言った。あの、憧子さん、綾目ちゃんの件で色々とご迷惑をおかけしたみたいでごめんなさい。すると彼女は「いえ、とんでもございません」慌てて振り向いた。

「こちらこそ出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません」
「うんん、憧子さんは務めを果たしただけなんだから謝らないでください」
「……」
「私、憧子さんには感謝してるの。いつも本当にありがとう」
「いえ、そんな……」
「これからも父のこと、母のこと、扶桑家のことをお願いしますね」

そう言ってにっこり笑いかけると、彼女も少しはにかみながら「は、はい」と返してくれた。わーい。憧子さんが初めて笑ってくれた。

玄関へ到着すると、いつものように上框あがりかまちを飛び越えて居間へとなだれ込む。そこには珍しく父がいてずんとソファーに座り新聞を読んでいた。でも私の姿を横目で見るや「な、夏美!?」びっくりして立ち上がり、私が答える前に抱きついてきたのだ。

待って待って、髪を切った真冬ですから~!。

父はどれだけ言っても聞いてくれない。それどころか、夏美~、夏美~。駄々っ子みたいに泣いちゃって。いつもの頑固親父はどこに行ったのかしら?。笑っちゃうんだけど。お葬式のときですら泣かなかったくせに……。

ガッシャーン!!!。

台所では母が、織部焼の急須&湯呑セットをお盆ごと豪快にひっくり返して呆然としていた。だから真冬だってば……。もう。仕方ないなあ。私は父の手を振りほどいて「お母さ~ん」わざとらしく母へ抱きついてあげた。
すると母はポロポロと涙を流しながら「真冬、ビックリさせないでちょうだい。夏美が天国から帰ってきてくれたかと思ったじゃない」声を震わせながら私の頭をやさしく撫でてくれた。

「もう、あんたたちは本当にそっくりなんだから」
「当たり前でしょ。私たちは双子なんだよ。お母さん……」

そのとき廊下の柱時計が3回鳴った。
「もうとっくに壊れてるはずなのに妙だな」父が言った。なっちゃんが帰ってきたと思って柱時計もびっくりしてるんじゃない?。冗談を言って私たちは笑い合った。いつまでも笑い合った。

数時間後――。
私は居間へ憧子さんとシゲ爺も呼んで今回の作戦を説明することにした。ちょうどそこへ春吾さんとテツさんも合流して、父、母、憧子さん、シゲ爺、春吾さん、テツさん。これで6人……。

今から呪いを解除します!。



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