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#小説
毎日400字小説「ブローチ」
パートの帰りいつものスーパーで食材を買い、専門店街の間をとぼとぼ歩いていた千乃は、ふと目にしたその店のディスプレイに足を止め「すてき……」と呟いていた。わりと年のいった主婦向けのブティックで店員も自分の母親世代であり、三十八歳の千乃はいつも素通りするだけだったが、一番手前のマネキンのつけていたブローチの深い青色に、惹きつけられたのだった。というのも、もうじき娘の高校の入学式で、それに着て行く服に
もっとみる【ショートショート】鳥獣戯画ノリ
「うーん、なんか違うなぁ」
クライアントである田中(カエル顔)が何度目かのリテイクを出してきた。
「もっとこう和風だけどコミカルさが欲しいよね」
「それならもう鳥獣戯画ノリはどうですか」
スマホ画面を見せると田中は我が意を得たりといった表情で頷いた。
「これだよこれ! やっと分かってくれたね」
いやあんた最初はハイソでエレガントな表現にしてくれ言うとったやん。心の中で思った言葉を必死で飲みこむ。
DATEMAKIの国際フリーター
「お、伊達巻のCMなんか流れてる」
赤だしに口をつけたフリーターの土山は、店内に流れていたテレビ画面を見て思わず声を出す。ここはある回転すしのお店。全国的な大型の店ではないが、ここでは寿司が回っていて、リーズナブルに寿司が食える。
「それがどうしたのさ」土山のフリーター仲間の吉野が返事をしたのは、鯛の握り寿司を食べ終えた直後。
「ああ、ちょっと懐かしくてね。僕が今までの人生で唯一の海外出張が伊