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diary

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flowers blooming in hell

flowers blooming in hell

自分の中に地獄がある。ぐろぐろと燃えるタールのような地獄があることを知っている。
自らの地獄を知覚し、“現実”の地獄を感じる。ふたつは繋がっている。
ある種の“空想”でもあるが、私はそれが実在することを知っている。

揺らぎを少なくすること、できる限りフラットであること、よろこびを感じる心を我慢しないこと、健康的で健全な生活を送ること。庭づくりをすること。森へ行くこと。
植物や動物、鳥や虫や、他、

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空想ごっこ

空想ごっこ

空想ごっこ。

私が小さな喫茶店のマスターだったらいいのにな。
ブラウンの壁と小さなステンドグラス窓、椅子はビロードの赤色のソファと木製のアンティーク、人工大理石のテーブル、古い天体模型。
私はここではただの「無口なマスター」で、他には何も求められない。

不登校の少年には甘くないココアを、無口な美しい女性には紅茶を、本を片手にやってくる初老の男性には珈琲をいれてあげられる。小さなチョコレートを添

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最近の日記

最近の日記

世界をいろいろカテゴライズするとして、今は動物や鳥、植物、鉱物と呼ばれるひとたちと仲良くなりたいと思っています。

誰でもない自分のためにしたことが、誰かのためになっていることが、ある。

白木蓮の木が庭にある想像。しあわせ。

春分
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光るように満開の辛夷を見あげながら、もうずっと昔にもこうしていた、と思う。母に手を引かれて覚束なく歩いていたころだったろうか、それとももっと昔の、わたしがわたし

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240228

240228

珍しく晴れる。その下の土を思いながらざらついた雪を踏み締めて、祈りを込めて歩いた。一歩一歩、ただしく冬が行き春が訪れますように、と祈りながら。柏の枯れた葉がざわざわと挨拶をしてくれる。風が吹いている。あの山から、遠く、あちらの山まで。見えない道が敷かれ、糧を求める白鳥たちが声をあげて飛んでいく。

ふと目の前に湖があった。どこまでも続く巨大な湖だ。私はその中に波紋もなく立っていた。端は深い霧によっ

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beautiful code

beautiful code

世界は美しい暗号に溢れている。

そのとき見ている景色に、もう一つ別の、どこかの、いつかの景色が重なることがあった。それは過去に行ったことのあるどこかであったり、ネットや雑誌で見かけたことのある景色であったり、まったく情報も知らず行ったこともない異国、もっと言えば「ここ」ではない、地球にはないどこかの景色であったりした。

アート作品や器、音楽、鉱物もそうだ。
美しいものは景色を呼び起こし、重ね、

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夏の祭りのこと

吹雪の中で雪かきをしながら。夏に。なぜあの祭りが行われてきたのかを唐突に理解する。どのようにして発生し、どのようにして形を変えていったか。血が交わり世代が変わっていくごとに。脈々と。精霊送りと呼ぶには荒々しすぎる祭り。武者や鬼を模した極彩色の巨大な灯篭。最後には海に流される灯り。(流し雛、のことも思い出した)

同じ掛け声を繰り返し、トランス状態の若者が笛の音と共に踏み鳴らす舞踏。同時に体につけた

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最近のこと

最近のこと

懐かしいもの。竜の鼓動。野に吹き渡る風。羊飼いの角笛。水辺。水草の揺れる澄み切った水。熱い砂。紺碧の夜空。ウールにくるまって見る天の川。あたたかなお茶をくれるひとの笑み。湯気。花畑。果樹園。煉瓦の塀。鉄の柵の向こうに見える家。高く広い空。

かかりつけの薬局に行く途中で路地裏を歩いていくのだけど、古い住宅地の中になぜかぽつんと煉瓦が使われた元・雑貨屋さんみたいな外観の建物があって、いいな~と通るた

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それでも美しいと言う

それでも美しいと言う

ご近所の草原が紅葉していて、綿毛の種を持った植物を見られて、光るように美しい野菊が咲いていて、ここがかつて名も無い湿地帯だったころを思って。

世界があまりにも美しくて、絶望も希望もいっしょくたにして、犬と歩きながら

かつてのわたしであったひとと、その相棒と、あるいは誰でもなかった影と、歩きながら。

救われてしまった。

あの日選ばれなかったはずのわたしは、それでも、この世界を美しいと言ったの

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無垢という宇宙

無垢という宇宙

青森県立美術館で開催されている奈良美智「The Beginning Place ここから」に行ってきました。

開催されてからそれほど日にちが経っていなかったためか人が多く、普段多人数と接することがないわたしは頭がくらくらしてしまいました。でも、それだけ人気だということ。見に行けてよかったと思います。

わたしが心惹かれたのは、メインビジュアルにもなっている《Midnight Tears》などの近

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水面のように揺らぐ

水面のように揺らぐ

小さな森へ行く。湖の水が少ないが、夏に感じた危機感のようなものはもう感じなかった。虫が多い。きのこと蜻蛉はまだ例年よりも少ない。歩いていくと色々な種類の蝶がふと思い出したように姿を見せる。

そこかしこに「どこか別の国の、遠い場所の」景色が重なっている。ここであって、同時にここではない場所の気配をまとい、妖精に手を引かれるようにして立てば、わたしは「ここ」からいなくなってしまうだろう、というような

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ラブアンドピース

ラブアンドピース

あるとき、平和、という感覚とチューニングを合わせたようになってから、野原に、空に、真昼に、深くそれを感じるようになった。こどものころの記憶が自然とよみがえってきて、それはやわらかく、光に満ちていて、“見守られている、大切にされている”という感覚と共にもたらされる。

母が作ってくれた苺ジャムのサンドイッチ、土曜日のお昼のオムライスが特別だった。
すべてから守られて、歩く父の背で眠っていた。
ともだ

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自分のためのメモ

自分のためのメモ

希望を語る者は、絶望を知っている。おそらくは、もう立ち上がれない、すべて放棄してしまいたいと願うほどの絶望を。暗く冷たい、孤独な、深い深い絶望の淵を。

希望を語る者は、絶望を知っている。いまこの瞬間にも、それが足元を漂っているのを知っている。気を抜けばとりこまれてしまうのではないか、という色濃さのそれ。

希望を語る者は、そこがたとえ地獄のようなありさまであっても、信じることをやめない。諦めない

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蝶葬

北向きの薄暗い部屋の床で、紋白蝶がもがいているのに気づく。いつのまにここにいたのだろう。秋の終わりに室内に入れた鉢にさなぎがついていたのだろうか。誰にも気づかれずに生まれ、必死に羽ばたいているが、よく観察するとひとつの翅が歪んでうまく飛べないようだった。

砂糖水を傍に置いたりしながら夜になるまで待っていたけれど、彼女はうまく飛べないままだった。虫かごに入れるのも、この部屋で育てるのも、嫌だと思っ

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冬と闇のこと

冬と闇のこと

大人と呼ばれる年齢になってから、冬を好きだったことがなかった。北国の冬はとにかく長く、暗く、寒く、やまもりに積もった雪に閉ざされた圧迫感が喉を締め付けて、うまく呼吸ができなくなって、いつも苦しかった。

単純に日光が足りないせいもあっただろうし、自分の心身の調子が悪い時期であったせいもあるし、人生のそういう期間であったせいでもあるだろうが、冬は特に救いようがない気持ちになることが多かった。自分に対

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