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another world
もう一人の自分が、「どこか」で暮らしている、という感覚になることがある。
都会の、古いマンションの12階。レースのカーテン。シンプルな家具。ベランダがあって。“わたし”はいつもTシャツとショートパンツを履いてる。髪は肩より少し長いくらい。軽くウェーブしている。棚の上には硝子の器にヒヤシンスが咲いている。レースのカーテンが風になびく。そこではいつも春と夏が続いていて、たまに一日二日、秋や冬が来る。そんな世界で、“わたし”は暮らしている。
ここにいる私が選べなかった選択肢、選ばなかった選択肢の先に、彼女がいるのだろうかと思う。
彼女の生活はシンプルだ。仕事をして、家事をして、たまに友人と会う。彼女はとても静かだ。でも揺るぎない。植物のように淡々と生きている。そのことを愛してる。
ベランダには物がなかった。綺麗にしている。どこかの花火の日には、遠く、小さな花火が見えるので、お酒を飲みながらそれを見ている。花火があると、夜空の黒さが際立つな、と思いながら。
呼びかけると彼女は振り向く。振り向いて、白い犬歯を見せるように笑う。かっこいいなと思う。
もう一人の自分の話。