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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2022年1月の記事一覧

詩)ホームにて

詩)ホームにて

他人の言葉で自分を説明するより
自分の言葉で 自分の ある部分を
ちゃんと語りたい 

ホームで立ち止まってスマホをじっと見ている
人波は流れ 置き去りにされたように
なにかとても気になることがあるんだろう 

横浜駅ホームで終電を待っていた 12時15分発
何度もこのホームで 待った 
意味なんてないのはわかっていた 待つことに

待つことは裏切ることだった 待つことで
全て無くすことも出来ない

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詩)マニュキュア

詩)マニュキュア

初めて。ぼくの隣の席のあの子はマニキュアをしてきた。
「先生、マニュキュアしている子います!」小学生は仮面を被る。下を向いたあの子

仮面。仮面を嵌めている時が何も見えなくて綺麗。大人になりたいのに大人はキライ。
めくりたい。もうわたし大人なんだから。長い舌 赤い舌

ギシギシ 骨と骨が共鳴する。 歌いだす 眼球の血管の一筋一筋が。
初めて。口紅を差した 鏡台の前で。男の子はその時母親の秘密を知っ

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詩)barオスカー

詩)barオスカー

「オスカー」の看板が出ている狭い階段を上がってドアーを推す。
カラン カランとカウベルがなる。
入り口から「L字」に伸びたカウンターにママが座っていて振り向く。
マリリンモンローのポスターがほほ笑む

「重い雪だね 今日は。」
ジョー達也の「ジェットストリーム」が流れる

「バーボンを」
ママは青いドレス。
「ママ 今日で最後なんだってね。」
ママは小さくうなずく

 

まだまだ寒い日が続く

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詩)空室

詩)空室

赤い日差しが差し込む部屋は
さっきまでは 僕らと同じ匂いがした
西大路七条の北尾さんの下宿
さっきまで 僕らは此処で
来ないかもしれない船の予定表について
空気のない日について
話し合っていたというのに

誰かがいなくなる ひとりずつ
後悔とか失敗とかいろいろあった
そんなもの 少しずつ残しながら
誰かのすべてがいなくなる
自分の影が少し長くなる
影を捕まえる 誰かの部屋には
誰もいない もう

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詩)ある日の記憶 ~いわてのばあや~

詩)ある日の記憶 ~いわてのばあや~

書こうとすると
現れるものがある

1月3日に岩手でばあやに2年ぶりに会う
ばあやも わあわあと「げんきのげんちゃん!」と大騒ぎして
僕はふざけて みんなで飲んだ缶ビールを7本重ねてタワーを作って
「ほら これ ばあやがみんな飲んだ!」というと
「おら こんな飲んでねえ!」と本気で怒った
もう寝る!といいだし 姉があわててこちらへ目配せした
やりすぎたかな。
そう思っていたが。

そのあとしばらく

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詩)ゆきのひとつぶ

詩)ゆきのひとつぶ

きらめくことは ほしのいのち
かがやくことが できなくなった
老いたほし は
そのさいごの かがやきを
水晶いろの結晶に変えて

こどもたちは 手のひらに落ち
すぐにとけてしまった ゆきのひとつぶのことなど
すぐにわすれてしまうでありましょう

それでいいのです
ゆきはくりかえし くりかえしふりますから
ゆめも くりかえし
くりかえし
みてほしいのです

そらにかがやくほしは
いつまでも
いつまで

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詩)朝の相鉄線から

詩)朝の相鉄線から

朝 横浜発相鉄線の急行に今朝もまた
あの娘がいる
朝はだれに向かってもさわやかとは限らない
黙々と耐えるように時間を過ごす
そんな時間の始まりもある

あの娘はスマホを見るわけでもなく
車窓を眺めるでもなく
いつも一番端の席で
独りで首を傾げ
ため息の手前の
こえの手前の
聞こえないのに
聞こえてくる
一番悲しい歌のフレーズを
その渇いた
唇で
口ずさむ

あの娘は今日
リュックからメロンパンを出

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詩)その先に .­..

つくつくつく
まっくら闇
うみ

ながいあいだ
うみで
濡れて
月が

一条のかがやき
ひかり
うみのうえで
おどる

ながいあいだ
うみで
ぬれて
月は

あしもとの龍
ひげが動いて
砂は星
ながれて

詩)2022年の扉

詩)2022年の扉

どうぞ。と 老人はランプで手招きしてくれた。
岩礁の中に鉄製の扉があった。
丸い扉の取手はそこだけ錆が無くなり
いく人もの何者かが開けようとした
もしくは開けられなかった形跡がある。

この扉を開けることはもう
戻れなくなることなのだと
自分に言いきかせた。
遠い 遠い 名も知らぬ
国を想った。

遠い 遠い
僕の中にある
おそらくは はじめから受け入れられるように
決められていた国

指紋 国籍

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