マガジンのカバー画像

エッセイ

28
日記よりちゃんとしています
運営しているクリエイター

#エッセイ

「ご自愛」の終焉と「根性」への回帰

「ご自愛」の終焉と「根性」への回帰

2019年に「ご自愛するという戦い方」(https://note.com/getsumen/n/ndae83ec26be4)というnoteを書いて結構バズって、Twitterトレンドに入ったり芸能人にRTされたりして大きく広がった。それ以降いろんなところで「ご自愛」ってワードが言われるようになったと思う。

「ご自愛◯◯」にいろんなビジネスが乗っかり、さまざまなものが売られるようになった。コロナ禍

もっとみる
寝台列車で家出した夜

寝台列車で家出した夜

家出をしたことがある。大人になってからのことだ。

18で実家を出てからもう8年もひとりで暮らしているので厳密には「家出」ではなくただの「旅行」なのだが、あのときの心持ちはたしかに「家出」だった。家出がしたかった。

東京も、毎月安くない家賃を払っている部屋もなんだかもう一旦どうでもよくて、誰も私のことを知らない土地に行きたかった。深夜の3時、私は薄暗い部屋で、Instagramで見かけたとある島

もっとみる
パターン青、生理です

パターン青、生理です

人類のだいたい半分は「生理が来る側」の人間だ。半分の人間は毎月股から血を流しているか、これから流すフェーズになるキッズか、流すフェーズが終わった先輩に分類される(ざっくり)。

生理が来ている(血が出ている)日数を合計すると、平均で7年間になるらしい。人類の半分は、一生のうちの7年間分の時間、股から血を流しているのがこの世の真実である。

けれど、そんなことなかったかのように、血を流しているなどと

もっとみる
私の上京と、そのしばしの終わり

私の上京と、そのしばしの終わり

はじめて自分のお金で借りた東京の部屋を明日引っ越す。

大学4年で東京に就職先が決まり、内定者としてアルバイトをさせてもらえるということで、地方の国立大のそばのアバートを引き払って東京に来た。

アルバイトで稼げるお金にしては少し背伸びした家賃と立地だったけれど、半年後には初任給も入るし、会社のそばに住んでたくさん働くぞという意気込みもあって、渋谷近くの部屋に決めた。

同じマンションの5つ上の階

もっとみる
走馬灯にむかって歳をとる

走馬灯にむかって歳をとる

ひとつ歳をとった。

そのこと自体にはとくに感慨も焦りもなく、いつもどおりの日常が続くのみである。

けれども今年は家族に好きなご飯を作ってもらい、町の美味しいワイナリーのワインを開けてもらい、私と家族が日本一美味しいと思っているケーキ屋さんのケーキを食べて、東京の大好きな花屋さんからブーケを贈ってもらった。いろんなところで出会った人たちがくれたお祝いのメッセージを読んだ。
少し奮発して、お婆ちゃ

もっとみる
かえるの恩返し

かえるの恩返し

母がかえるを助けたという。

庭の池で、網に引っかかっていた瀕死のひきがえるを見つけ、網を切って放してやったらしい。
(家の池には金魚がおり、時折やってくるシラサギが金魚を捕食しつくして絶滅に瀕した悲しい過去があることからサギよけの網が被せられるようになったのだ)

救出劇以来、庭の池からは時折ゲコゲコと奴の鳴き声が聞こえる。どうやら息災のようである。

昔から我が家の池には大量のひきがえるが年一

もっとみる
謎の柑橘『チャッピーポドロ』

謎の柑橘『チャッピーポドロ』

実家に大きな柑橘系のくだものがある。

いただきもののそれはダンボールいっぱいに入っており爽やかな匂いをさせているのだが、なんというくだものなのかわからない。

いただいた母もなんという名前だったかど忘れしたらしく「ラッキーポメロだったかハッピーポメロだったか……なんだったかしら」という始末。

母と妹と私は毎日のように名前のわからない巨大な柑橘類をパクパクたべながら、それのなまえを適当に言い合う

もっとみる
ピアノの先生との思い出

ピアノの先生との思い出

木曜日が好きになれない。
木曜日は「ピアノ教室にいく日」だったからである。

幼稚園のときに友達が習っていたから真似してやりたいと自分で言い出して習わせてもらっていたくせに、私はちっともピアノに向いていなかった。

コツコツ練習する、とか、譜面通りに弾く、とかが元来苦手な子どもだったのだ。

しかしピアノという楽器は好きだったので、アニメの曲を適当に弾いたり、課題の曲を好きに変えたりして弾いて(そ

もっとみる
「安全なキャリア」なんて存在しない荒波で

「安全なキャリア」なんて存在しない荒波で

この文章は、panasonicとnoteで開催する「#この仕事を選んだわけ」コンテストの参考作品として主催者の依頼により書いたものです。

「この仕事を選んだわけ」を書いてくれないかと言われて、声をかけてもらえて嬉しい反面申し訳ない気持ちである。

私は何者か?というと「新卒でIT業界に入ってめちゃくちゃに働いた末に体を壊して休職したり転職したりして今は地元に戻ってリモートワークをし、たまにコラム

もっとみる
二十歳から十年の走馬燈

二十歳から十年の走馬燈

二十歳になった瞬間になにをしていたのかあまり覚えていないが、たしか初めて一人暮らしをしたボロいアパートのバランス釜の風呂で、体育座りで冷めた湯に浸かっていた記憶がある。
スマホ(当時はiPhone3G)をジップロックに入れて風呂に持ち込んで、あぁ十代もあと3分で終わるなあなんて数えていたら風呂が冷めてしまったのだと思う。ホテル女子会とか彼氏とディナーとかじゃなかったのは確か。

二十歳。吹けば飛ぶ

もっとみる
母の日圧

母の日圧

母の日が近づいて、街なかでピンクと赤で彩られた「母の日ギフト」ポスターを見ると勝手に圧を感じる。「母になにか贈らなければ」「とにかく母を慮らなければ」という圧。

別に嫌ならなんにも贈らなきゃいいじゃんという話なのだが、「母の日になにもしなかった親不孝者」になるのも、それはそれで耐えられない。なにもあげなかったとて母から「この親不孝者!」とか言われるわけではないんだけど、自分が勝手にそう思ってしま

もっとみる
「あいつ結婚してつまんなくなった」言説について

「あいつ結婚してつまんなくなった」言説について

「あの人結婚したら守りに入ってなんかつまんなくなったよね」的な言説、どこかで聞いたことがある人も多いと思う。

私も聞いたことある。てか言ってた。バリバリ言ったことある。陰口として。

いま思えば失礼極まりない&浅はか発言すぎて、可能であれば己を殴りに時を戻りたいわけだが、実際自分が結婚してみて「当たらずとも遠からず」 な部分もあると思ったりもする。

自分が「結婚してつまんなくなった」とは思わな

もっとみる
清水買いカルティエと台湾の偽ティファニー

清水買いカルティエと台湾の偽ティファニー

30歳の記念にカルティエのピアスを買った。
ずっと欲しいなと思っていたトリニティピアス。

金の値段がみるみる上がっていくチキンレースと、自分の財布事情と、30歳の節目という盛大な言い訳が合致して、晴れて購入となった。いわゆる清水買いというやつである。高かった〜。

財布は痛んだとはいえ、自分も稼いだ金でカルティエが買えるようになったか、という感慨は大きい。
なんだか自分が「本物の価値がわかる人間

もっとみる

鳥羽シェフと「雄々(おすおす)コミュニケーション」

「鳥羽シェフとは絶対友達になれなそう」
と夫が言った。
不倫がどうこうという理由ではなく、ああいう「雄々した(おすおすした)」人は苦手なのだという。言わんとすることはわかる。私も多分苦手だ。いや会ったことないし完全に想像だけど。鳥羽シェフは「雄々」しているな、と私も思う。

「雄々してる」と我々が感じる要素はなんだろうか。
「男として」「けじめ」といった言葉の選び方、(これも想像だけど)悪いやつに

もっとみる