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【読書感想文】夏目漱石「こころ」

こんばんは~
お盆後半は体調がすぐれなかったので、読書をする時間が増えた男、小栗義樹です。

さぁ今日は、そんなお盆期間に読み終えた本、夏目漱石の「こころ」の感想文を書きたいと思います。生まれ変わろう、新しい自分になろう、そんな気持ちに突き動かされる、素晴らしい小説だと思います。

読んだことのない方がいれば、ぜひ読んでみてください。

ちなみにこの「こころ」、読み返すのは人生で4回目になります。なんとなく、気持ち的に脱皮したいと思っている時に読むのが通例で、メンタルが弱っている時に、手に取りたくなる本だったりします。

僕が初めて「こころ」を読んだのは、大学2年生でした。きっかけはシンプルで、その存在を国語の授業で知っていた僕が、たまたま古本屋を巡っている時に見つけたのです。今ほど読書が好きというわけでもなかったのですが、なぜかその時「読んでみよう」と思ったんですよ。名作には、不思議な力でも宿っているんでしょうね。

当時は、お話を追いかけるのがやっとでした。夏目漱石は文豪の中でも、比較的分かりやすい文章・お話を展開してくれます。読書の楽しさが分かっていない当時の僕でも、何となく話が分かる、そんな位置づけの小説でした。

当時はそんなに面白いという印象を持ちませんでした。時代背景が違いすぎて、あと、大学とか学問というものへの価値観も違いすぎて、追体験するほどの余裕が僕にはなかったんです。そこには漠然とした「そういう時代」があるだけで、共感できるわけでもなく・行動原理が理解できるわけでもない、そんな作品の1つという印象でした。

そんな僕が、4回もこの小説を読み返している理由は、実際僕にもよく分かりません。これは不思議なもので、本当にただ縋りたくなるんです。大人になればなるだけ、「こころ」の世界に腰を下ろしたくなるんです。これも名作の不思議な力なのでしょうね。すごく安心します。この小説を読んでいる時、外界との交信を遮断できて、瞑想に近い感覚を得る事ができる。大人になっていく中で、だんだんと先生に感情移入出来るようになると、見えてくるものも、感じられるものも増えてくる。そこには色々な思いが言葉になっていて、その時に自分が探している言葉が、こころの中にはあるんです。特に、人生で起こった気持ちの矛盾を解消したくて、この小説に還ってきてしまう。まごう事無き名作です。

夏目漱石・芥川龍之介・太宰治の作品には、人が色濃く描写されている気がします。それも、日本人が一番変化したであろう時代を生きた人がくっきり浮かんでいます。だからこそ、日本人ってなんなんだろう?といった、大きな疑問・漠然とした問題が浮かび上がった時に、異常なまでに読みたくなって、そこに日本人のなんたるかを探してしまう。その行為に意味があるのかどうかは分かりませんが、探さずにはいられないくらい、自分の内面が揺らいでいる時は、彼らの作品に縋りついて、一生懸命人の原理を探ろうとしてしまうんです。

僕は「こころ」を自己啓発本の類として捉えています。

この本、3部構成になっていて、主人公の私が世の中との接点を一番考える時期に、最も影響を受けたであろう人、親と先生との関係性が描かれます。その後、先生が遺書を残して自殺してしまうのですが、先生の遺書を私が電車の中で読むという形で物語が締めくくられます。最後の遺書の下りが、この本の中で最もシェアを取っているので、だから主人公は、私と先生と言っても過言ではないでしょう。ダブル主人公です。

大学生の頃の僕は、基本私視点で物語と向き合っていました。だからでしょう、あまり物語に共感出来ませんでした。この私が持っている感覚と、当時の僕が、当時抱いていた感覚には距離がありすぎました。バックボーンが違いすぎて、何をしているのかが、ずっとよく分からなかったんです。

残っているのは設定と言葉だけ。そこに特別な思いや気持ちはありませんでした。

だから不思議でした。大人になっていく中で得る様々な体験と、この「こころ」に散りばめられた言葉がリンクしだした時は。

どんな体験がどの言葉とリンクしていったのかは省きます。それを書き始めると長いので。とにかく思うんです。「あ、先生ってこういう気持ちを抱えていたのかもしれない」「そうか、価値観がズレるってこういう事なんだ」「これが、僕が生きている時代なんだなぁ」と。

この作品、自分が生きた時代を誇りに思うという側面と、次の時代が来る、それは僕の生きた時代じゃないけれど・・・という寂しさと、それでも、次の時代は全く新しい価値観と考えがあるのかもしれないという興味が、非常にいい塩梅で入り混じっています。夏目漱石は天才です。こんなにバランスの良い作品は、なかなか無いのではないでしょうか?

僕は、時代が進むにつれて変わっていく価値観を沢山見てきたと思っています。僕が生きている今は、まさに激動の時代です。価値観も流行もすぐに移り変わりますから、その分だけ、小さくて多種多様な価値観を目の当たりしています。

僕は「こころ」の中にある、次の時代は全く新しい価値観・考えがあるかもしれないという興味・期待の部分を中心に据え、いつでも今までの考えを「自分の中にある1つの考え」として保存するようにしてきました。それを大事にすることはアリ、でも、次の時代をきちんと見定めることも大事なのだと。

「こころ」は、そんな事を教えてくれる小説です。1種の自己啓発であり、1つの考え方を提示したハウツー本なのです。

あと10年もすれば先生のように、若い世代に時代を伝える側に回れるのでしょうか? 今の僕には想像もつきません。僕は今、先生と私のはざまを生き、先生のような時代を捉える大人になるために努力している最中です。

もしかすると、この時期が一番厳しいのかもしれません。僕は私の時期を過ぎました。今と比較すれば、当時私だった時期の方が幸せだったように思います。まぁこれは、過去補正の効果も手伝っているのかもしれませんから、一概にフラットな目線では無いのかもしれませんが。はっきり言えるのは、先生のポジションに憧れを抱いている事と、僕の身近には、先生みたいは人がいるという事です。そして、先生にポジションに自分がなった時、今とはまた違う苦しみを味わいながらも、1個の答えにたどり着けるものだと信じています。

「こころ」は、古本屋に行けば置いてあると思います。色々な出版社から出ていますし、多くの日本人が読みまわしているはずですから。まだ読んだことが無い方にオススメです。考える・学ぶ・捉えるといった、勉学の基礎を、人を形成するための能力を得るうえで、これほどインパクトのある題材はなかなか無いと思います。

夏目漱石の文章は、明治の人とは思えないくらい分かりやすい。それでいて美しいです。こんなに読みやすい本はないでしょう。読書が苦手な方でも、絶対に読めます。ぜひ読んでみてください。気持ちがスッと救われたようなそんな感覚を味わえると思います。


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