草野海子(ふつら)

現代短歌、散文詩。Twitter:@ futulla

草野海子(ふつら)

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マガジン

  • 草野海子 自撰集

    今まで書いてきた詩の中で自己紹介となる作品たちです。

記事一覧

肌になじまない

温かかった風の中に わずかな不能が混ざりはじめたようだ 半袖な私の自動妄想が 続きを誦んじて鳥肌を立てる 斜陽の国にあって 渡り鳥が声を上げる 約束のメタファーがなく…

体温のない百合、黎明

新月 手の平を向ければ たしかに、質量を感じるような 闇 重いびろうど 獣も 風も 草も 水も、息をやめて 絵画になった、草原 星の瞬きだけが 時を刻む そんな夜にだけ そ…

ほうせきをつくる

いま、たったいまを 宝石にしてしまおう わたしの唇とあなたの瞳 力の限り、おしかためて ゆうやけいろの、ほうせきにしてしまおう いつか、来られなくなってしまうから 誰…

きずいっぱい

正午まで寝坊した日は現時刻半年遅く生まれた私 気づかないうちに創を作っていることがよくある。 まるんぴか な、わたし 痛いとこはみつからない ぜーんぶよくうごく ご…

20240722

正午まで寝坊した今日 陽と針の角度が私の時齢を曝す

喫茶店の挿絵

雨は矢印 凸レンズの焦点の私 黄色い電燈の光線たちが 瞳の中で再び出会い そして私が受け止める 日に焼けた本のインクが 淵のように深い 断面図、カリカチュア カップの…

【詩】いたみのない浸食

夢の中のあの人と 似ていて違う その人   全てが 遠い物語だったように 虹色に油が香って 旅先、足元の浮遊感が 波にやわらかく調和する 真っ白な壁が甘い 甘酸っぱい …

毎日血を流す私が川べりでゴミを流す

毎日血を流す私が川べりでゴミを流す 半透明な手が心臓を指さしそのままとおりぬけるように 毎日毎日血を流す私が川べりを歩いてゴミを流す きらきらペトリコール、菓子の…

人生解読

まあいともあっけなく そのときがやってきた だれもじゅんびできてなかった だってニュースでは 「衝突は明日となる見込みです」 って 他になにも言わなくなったテレビで …

炎の夢

一 ゆめがほしいの おかあさん さんたさんにゆめをお願いするの 完熟のりんご へたが抜けちゃう位にね おかあさんのタルト・タタンが 好きなの りんごは酸っぱい方が お菓…

おとがしている

天上のbleuに包まれて いのりは桃色 をしている 老いて穏やかな椅子が 磨かれた膝の上をあける 思いは沁みてゆく、毀れやすい靄の地層に 呼吸する古いものに 積み重なった…

みどりの肌

種をとらなくなって しばらく経ったらしいな 空を覗かなくなって 首が凝ってしまった 擦れる音がほしくて 余計に探すことがあったよ そして考えるのは きみのこと 大きな雀…

翼のない小旅行

渚にゆこう 四角い光の連続になって 汀ではだかの足を濯ぎに 一泊二日の壮大な逃避行 数千泊の疲れきった帰り路 止まらないメトロノームを 波に沈めて、気まぐれに眺めるの…

焦がれない指

水晶のティーポットにタールが満たされて 薄いポットは弾けそうに震えている 空気は希薄で 床は木星の上にある 烈しい光はありません 画面の点滅はありません 膠は解けませ…

夏のあいだに

梅雨が明けた 長い梅雨が 長かった梅雨が あけた 肚をふくらませる 肚をとざす 肚がふくらむ 肚がとじる 内から圧を外へ 押し向けるたびに 自分がまた少し 地球に近づいて…

ついばむ

ついばむ 啄む ついばんでいく 私の枯れた耳に 啄む音がきこえる ついばむ 少しずつ、何度かに、ちょっとずつ、分けて、小さく 囓りとる その音が。啄む。ついばま…

肌になじまない

温かかった風の中に
わずかな不能が混ざりはじめたようだ
半袖な私の自動妄想が
続きを誦んじて鳥肌を立てる
斜陽の国にあって
渡り鳥が声を上げる
約束のメタファーがなくて
羽搏くその動作の
意味をまだ読み解けないで
いる
膨らんだ蜜蜂のように
赤身で熱を生みわたしの
ビオトープを維持する
数字が耳飾りになっている
穴がもどかしくて外れない
点灯する蒸気は
与えられた資本主義による休息で
はたして 肌

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体温のない百合、黎明

新月
手の平を向ければ
たしかに、質量を感じるような

重いびろうど
獣も
風も
草も
水も、息をやめて
絵画になった、草原
星の瞬きだけが 時を刻む
そんな夜にだけ
その花は咲く
透明な 百合。
花弁は
しっとりと夜露を湛えている
わずかに繊維が見える以外は
まったくの透明である
この世のどの花よりも 薄い花弁
氷の彫刻のような 蕊
時間の止まった草原にあって
百合は静かに息を流し
その脊柱を

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ほうせきをつくる

いま、たったいまを
宝石にしてしまおう
わたしの唇とあなたの瞳
力の限り、おしかためて
ゆうやけいろの、ほうせきにしてしまおう
いつか、来られなくなってしまうから
誰の胸にも居場所がなくとも
けしていなくならないように

霧のかかる未来を
宝石にしてしまおう
いつかうしなわれるいのちを
慈しみ、ひとつひとつつまんで
ほたるびいろの、ほうせきにしてしまおう
おもいでと同じくらい、安心できるように

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きずいっぱい

正午まで寝坊した日は現時刻半年遅く生まれた私

気づかないうちに創を作っていることがよくある。
まるんぴか な、わたし
痛いとこはみつからない
ぜーんぶよくうごく
ご機嫌なクリーム色の球体だ けども
気づかないうちに。
ふろにはいって
もうちょっと古くなった瘡蓋、とか
消えかけの青あざ なんかが見つかる。
いつのまにできたのか
いつのまに癒ったのか
キズは カッコいい。
目の前のおんなのこ
指の水

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20240722

正午まで寝坊した今日 陽と針の角度が私の時齢を曝す

喫茶店の挿絵

雨は矢印

凸レンズの焦点の私
黄色い電燈の光線たちが
瞳の中で再び出会い
そして私が受け止める
日に焼けた本のインクが
淵のように深い

断面図、カリカチュア
カップの中には
フォームミルクがつぶれない
くらいの僅かな
けれど確かな地層
五秒前にもここにいた証
見えない四つの軸と暮らす
黄色いカップ、黄色い光、黄色い数字
で構成された両手、図として眼差す経験
統合された世界の中で
あくまで光の焦

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【詩】いたみのない浸食

夢の中のあの人と
似ていて違う その人
 
全てが
遠い物語だったように
虹色に油が香って
旅先、足元の浮遊感が
波にやわらかく調和する
真っ白な壁が甘い 甘酸っぱい
砂に垂れる
同じ温度の握手が
痛みのない浸食
ぬるい果実の半透明な汁が
嘘を忘れた人々のための
眠気の服になる
濃いクリームが肺に充ちる
沈み込む 足跡は消える
網戸も明日も熟慮もない そよ風
微笑みの今日が連なる
プラスチックの袋

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毎日血を流す私が川べりでゴミを流す

毎日血を流す私が川べりでゴミを流す
半透明な手が心臓を指さしそのままとおりぬけるように
毎日毎日血を流す私が川べりを歩いてゴミを流す
きらきらペトリコール、菓子の上に飾りつけるように
優しい白鳥、睡蓮をつつきそのまま呑みくだすように
雨の日の蟻の巣
箪笥の奥の藁束
細路地に隠れた日陰の若木
石鹸水は
そのまま流し
アセトンは
部屋の隅でずっと
剥がれた皮膚のかけらと
いつも届く再生紙の広告
挨拶だ

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人生解読

人生解読

まあいともあっけなく
そのときがやってきた
だれもじゅんびできてなかった
だってニュースでは
「衝突は明日となる見込みです」
って
他になにも言わなくなったテレビで
言ってた
だから
たまたま道端で会った
そこまでとくべつでもないともだちと
じゃあきょう
さいごに海をみにいこうって
さいごとかいいながらさ
あしたまでになんとかなるんじゃないかって
あした目がさめたら
こんなこと嘘でした夢でしたって

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炎の夢

炎の夢



ゆめがほしいの
おかあさん
さんたさんにゆめをお願いするの
完熟のりんご
へたが抜けちゃう位にね
おかあさんのタルト・タタンが
好きなの
りんごは酸っぱい方が
お菓子に向いている みたいな
幻想に恥かかせてあげたいの
わたし星のうさぎだから
月を飛び越えてしまう
そのまんまでいいって言って
をお願いするの
都会の空は明るく滲んでいて
まっすぐ泣くことすらできやしない



物語は続かない

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おとがしている

おとがしている

天上のbleuに包まれて
いのりは桃色
をしている
老いて穏やかな椅子が
磨かれた膝の上をあける
思いは沁みてゆく、毀れやすい靄の地層に
呼吸する古いものに
積み重なった体温が
腿になじんで

ああ。
数百年前の
誰かの押し殺した泣き声がする
胸がつかえても洩れだす
掠れた呼び声がする
握りしめて血の気の失せた
真っ白な手……
(ごめんなさい)
せめて
あなたの手を温めたかった

もう届かないけれ

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みどりの肌

種をとらなくなって
しばらく経ったらしいな
空を覗かなくなって
首が凝ってしまった
擦れる音がほしくて
余計に探すことがあったよ
そして考えるのは
きみのこと
大きな雀蜂の死骸が
転がっているまどべ
わたしたちが恐れたのは
乾燥した仔犬のふんで
気付かぬうちに
桜の花が降り積り
窓は軋んで
こないだ見たら木枠が割れていた
取り返しのつかないことは
ないよ
ないよ
「急行列車が通過します;ご注意くだ

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翼のない小旅行

渚にゆこう
四角い光の連続になって
汀ではだかの足を濯ぎに
一泊二日の壮大な逃避行
数千泊の疲れきった帰り路
止まらないメトロノームを
波に沈めて、気まぐれに眺めるのだ
ガスの元栓は締めた?
冷蔵庫は空にした?
きちんと鍵もかけたなら
心配することは
もうなにもないから

雲が流れ天の川を隠す
水平線が見えなくなって
自分の鼻も見えなくなって
やっと私は
地球の形に震えずに
息をできるようになるだ

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焦がれない指

水晶のティーポットにタールが満たされて
薄いポットは弾けそうに震えている
空気は希薄で
床は木星の上にある
烈しい光はありません
画面の点滅はありません
膠は解けません
一番熱いのは足の裏のコンクリート
厚い皮膚で覆われた土踏まず
読まなくても展開のわかる小説
毎度恣意的な記号、堂々巡りの数式
陽だまりの道だけでも
人は生きていけるとか
あるいは
ビルほどの氷の柱が起こす反射
排気ガスの染みついた

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夏のあいだに

梅雨が明けた
長い梅雨が
長かった梅雨が
あけた

肚をふくらませる
肚をとざす
肚がふくらむ
肚がとじる
内から圧を外へ
押し向けるたびに
自分がまた少し
地球に近づいていた
(輪郭が濃くなって滲んだ
隙間から過去が何度も転がった
地球が呼んでいる)
地球が待っている
血が緋色に染まり
心臓が燃えて
髪は逆立ち
皮膚がささくれる
小さな細胞が
湿った潮風を雷に変えて
膜を薄くする
地球に近づく

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ついばむ

ついばむ 啄む ついばんでいく 私の枯れた耳に 啄む音がきこえる ついばむ 少しずつ、何度かに、ちょっとずつ、分けて、小さく 囓りとる その音が。啄む。ついばまれる私は、くすぐったくて、ここちよくて、少しだけ 痛くて、笑う。ようになる。音が生命じゃなくなった時。違うものがついばまれるようになったとき。わたしの所有しない かたちをもたないものが、私に属するかたちをもたないものたちが 啄まれるようにな

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