夏のあいだに

梅雨が明けた
長い梅雨が
長かった梅雨が
あけた

肚をふくらませる
肚をとざす
肚がふくらむ
肚がとじる
内から圧を外へ
押し向けるたびに
自分がまた少し
地球に近づいていた
(輪郭が濃くなって滲んだ
隙間から過去が何度も転がった
地球が呼んでいる)
地球が待っている
血が緋色に染まり
心臓が燃えて
髪は逆立ち
皮膚がささくれる
小さな細胞が
湿った潮風を雷に変えて
膜を薄くする
地球に近づく
脂の塊が
酸化していく
呼ばれている方へ
血管が斑らに浮き出し
星へ謎めいた文字を送る
星の引力に応えて
繋がりは絶たれていく
管は狭まる
身軽になるように
わたしは何度も坐る
わたしは花火でありたい
わたしが抱きしめていても
こぼれていくものが
わたしが抱きしめていた
温かなものたちが
帰っていくときに
光のすすきとなってほしい
流線を描いて
落ちていく様が
目を閉じても焼け残るように
蝉は空に帰らない
蝉は土に帰る
蝉も地球に呼ばれている
昨日
大きな木の下に斃れていたせみは
つるりとした空を見ながら
柔らかな温もりを背中に感じていたのか
最後に誰かが促して
静かに自分を抱きしめたのか

わたしは彼になりたい

わたしの心に最後に残るわずかな
あなぼこ
それがきらめいて
完全な放物線
となって
誰も見ていないところで
地面を焦がす

わたしは夏生まれ



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