体温のない百合、黎明

新月
手の平を向ければ
たしかに、質量を感じるような

重いびろうど
獣も
風も
草も
水も、息をやめて
絵画になった、草原
星の瞬きだけが 時を刻む
そんな夜にだけ
その花は咲く
透明な 百合。
花弁は
しっとりと夜露を湛えている
わずかに繊維が見える以外は
まったくの透明である
この世のどの花よりも 薄い花弁
氷の彫刻のような 蕊
時間の止まった草原にあって
百合は静かに息を流し
その脊柱を伸ばしていく
僅かに屈折した
星の光が
きらめきが
百合を
透過している
星の千年を映している…
もし この百合が さわられれば いや
見られてさえしまったなら
視線の衝撃で、やがて砕けてしまうだろう…

その百合は
滅多に朝を迎えることはない
明け方より前に
脆くも 崩れてしまうからだ
それでもまれに
空の色が変わっていくのを
見られる百合がいる
百合は、東雲のいろに
明るくなっていく天蓋に
深く
照らされ
恥じいり
その粘液のような根をつたって
星々のつぶやいた身の上を
一夜の重たい滴を
地中に遺し
乾いて消えてしまう
その滴は深夜と黎明の間のいろをして
どこまでも透明であるらしい


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