ついばむ

ついばむ 啄む ついばんでいく 私の枯れた耳に 啄む音がきこえる ついばむ 少しずつ、何度かに、ちょっとずつ、分けて、小さく 囓りとる その音が。啄む。ついばまれる私は、くすぐったくて、ここちよくて、少しだけ 痛くて、笑う。ようになる。音が生命じゃなくなった時。違うものがついばまれるようになったとき。わたしの所有しない かたちをもたないものが、私に属するかたちをもたないものたちが 啄まれるようになっている。くすぐったくて。みんなで少しずつついばみあって、いつのまに群れになっていた。知らない顔の群れがやってきた。啄む音がする。啄まれる音がする。流れとか。見えない固体や流動体とか。啄まれて、私の境界がいよいよはっきりしていく。ついばむ。ついばみあう。境界は濃くなっていって、飛び交う空へ溶けだす。ついばんで、啄まれる、啄むことをやめたい。わたしは啄むことをやめたい。わたしは血の滴る生肉に牙を刺して温い肉の繊維を舌でなぞりたい。わたしは跳ねている小魚を口に含んで喉の奥をきゅっとしめてその動くので咽せそうになりながら内臓をずっと流れ落ちていくのを感じたい。啄む。ついばむ。じんわりしびれていく目の奥をそのままにする。
ついばむ ついばまれる音が 音がする さざめき ざわめき 目の奥がついばまれて 舌の奥がついばまれて 境界がついばまれて わたしが ぼやけて 去っていく

短歌や散文詩、曲を作ります。スキやフォローしてくださる方本当にありがとうございます、励みになります。ブログもやってます。