翼のない小旅行

渚にゆこう
四角い光の連続になって
汀ではだかの足を濯ぎに
一泊二日の壮大な逃避行
数千泊の疲れきった帰り路
止まらないメトロノームを
波に沈めて、気まぐれに眺めるのだ
ガスの元栓は締めた?
冷蔵庫は空にした?
きちんと鍵もかけたなら
心配することは
もうなにもないから

雲が流れ天の川を隠す
水平線が見えなくなって
自分の鼻も見えなくなって
やっと私は
地球の形に震えずに
息をできるようになるだろう
新月の黒い水は
きっとまだ生ぬるい
浸けた先から
かたまった指がほどけていけば……

岩場から睥睨するサギの赤い眼
砂地を走り去る小さな蟹
耳に届くのは
規則的な寝息だけ
水底には
割れた花瓶のかけら

影と手を繋いで
渚にゆこう
浜辺に寄せる森の
甘い吐息の名残で
絡まった黒髪をなびかせて

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