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artsyな言葉たち

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自然、感情、美、哲学など、心奥に得たことを綴る。
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#吉本ばなな

ムクドリのムック

林道の隅でムクドリがミミズをついばんでコテコテと歩いてる。
実家の夏蜜柑とおんなじ色のくちばしに、
焦げ茶にベージュ、そして白という毛の装い。
なんとも洗練された色使い。

ムクドリをみるといつでも
穏やかなおじいちゃんの畑を思い出す。
よく木の実をついばみにやってきてたからだと思ったけど、
そうじゃなかった。

そういえばおじいちゃんが一度、
ムクドリを捕まえたんだった。
大昔のことだ。

捕ま

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羽化した光の日

光が大好きな照葉樹林を自転車で走ってた。
車も人もほとんど通らないから、
歩くスピードくらいでゆっくり、
ゆっくりと走る。

マンション6階建てくらいの高さの樹々。

いつも光を存分に集めて、
そのまま私に照らしてみせてくる。
風が光のかたちを変える。

心地よい。

それにしても、
今日はいつも以上にテラテラと
むしろザワザワとしているな。

よく見たら、
今日は葉っぱだけじゃない。
たくさんの

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変わりゆく空間の匂い

雨水に濡れた草花の中をゆっくりと歩く 足元20cmのあらゆる草花は艶やかで
眩しい

5月中旬、
梅雨にまだ早いよ
なんて呟いてしまう

歩いていくと、進んでいくと、
変わっていく空間の香り

おっきな葉っぱを持つ南国風大樹が茂るここは新緑が芳ばしい
若竹の並木の中は朝の小雨のように爽やか
成竹の林はツンとくる生乾きっぽい

あぁ、
うちのローズマリー湿気にやっててないかしら
#文学 #小説

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うちの山百合

うちの庭の隅っこに山百合が咲いていたことを思い出した。

白い6枚の花弁は歪で、
それぞれの先端はあらゆる方向に向かっていた。
質感は絹のよう。
表面には花びらの形に沿って中央に黄色い線が先端に向かい伸びている。

その上に赤黒い斑点が全体に散りばめられていた。
中央には一本の控えめな雌しべと
それを囲う6本の雄しべ。
重みのある朱色の花粉は風に揺蕩っていた。
少しグロテスクだった。

それでも私

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上野 菜の花

たけのこをかじる、
甘い味噌ダレの奥の方に微かなえぐみ。

茹でわらびの上には細かなかつ節がふわりと空気を纏ってのせられてる。
パキりと音を立て噛み切る、弾ける茎。

稚鰤の脂はコク、さっぱりとしたひらめの弾力、マグロの血の気

お豆腐の生感、表面にはざらりと薄い塩気

日本酒がコーティングされたいぶりがっこ

艶やかに立った新潟コシヒカリの粒、食べたらネチッと柔らかい

ナズナと賽の目どうふの味

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芍薬の、

ボトっ

薄紅色の芍薬の花弁が、
ごっそりと落ちてしまった。

なんて奇妙な落ち方。

薔薇のようにはらり、はらりと散っていくのとはちがう。

ボトっ。
まさにこの音だった。

午後4時、
陽のあたるベッドの上で読書してた私はビクっとした。

散らばった厚さ0.1mmくらいのか弱い花びらは折り重なって花嫁のベッドみたい。

重なり合った花びらの真ん中に、
幾層にもなる花弁に包まれた何かが転がってい

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単純なピザトースト

土曜日なので、ゆったりと起きて朝ごはんの準備。

8枚切りの食パンは、冷凍庫に入れてたから変形してる。
いびつな形のまんまトースターへ入れ込む。

残り少ないケチャップを絞り出して薄く塗り、ナチュラルチーズはこんもりとのせる。

900ワットで3分後、薄っすらと焦げ目がつきはじめた。
チーズはジリジリジリジリまだ焼かれている。

その上にベランダで育てているフレッシュなバジルを5枚ほどのせる。

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芍薬の窓辺

昨日もらった薄紅色の芍薬はつぼみ、蜜をまとってる。蜜を取らなきゃ咲かないらしい。
持ち帰ったその日、丁寧に丁寧にティッシュで蜜を拭き取った。
柔和で、誠実な、芳しい匂いがした。
日毎に、いやむしろ秒毎に花弁が開いてく。緩んでいく。
私は湯船に浸かって火照ったまんま、タオルを頭に被せたまんま、窓辺の芍薬を斜め下から見上げた。
芍薬を見つめる目線の延長に、下弦の月。なんという贅沢な窓。初夏の夜。
内に

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密封

伊勢丹の正面で待ち合わせ、の予定が気づいたら迷い込んでしまったらしい。
新宿のど真ん中、そこは伊勢丹の裏の通りのようだ。
あらゆるものが従業員通用口から早足で出たり入ったり。スーツ、厨房服、自転車、奇抜な洋服、作業着、台車、警護服、雨合羽、軽トラ、ダンボールの混在。奇妙にもその場は無臭だった。
立ち止まると、時折どこからごま油のかおりが漂う。狭い道路は古びたビルに挟まれて実際よりせまく感じるよう。

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