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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

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ぼくが僕になるまでの物語です。ありったけの魂を込めましたので、ぜひお読み下さい。
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デリカシーのないぼくが僕になるまで(終章)

★わたしが言いたいのは・・・

「マコトって今までに相手の仕草や表情を見て、その相手の気持ちがある程度読めてしまって哀しくなってしまったことってない?」彼女は誰に向けても話しているようではなかった。僕はもちろんのこと、自分に対しても。口だけが勝手気ままに動いているに彼女の声は空疎に響いた。「話していると相手が何を望んでいるのか大体のところわかってくる。わたしが何をすれば相手が喜び、何をすれば嫌な顔

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デリカシーのないぼくが僕になるまで

デリカシーのないぼくが僕になるまで

 八時のニュース。テーブルに置いてある料理はサンプル品みたいに生気がない。
「ああ疲れた。今日も長かった。くそっ、まだ水曜かよ」
 父さんは壁にかけられている時計を見やる。
「お疲れのようだから、ご飯の前にお風呂に入ったら」
「いや、先にご飯だ。今日はシャワーだけ浴びる」

 父さんは上着を席の横に下ろし、キッチンに向かっていった。首元のネクタイを緩めながら冷ぞう庫をのぞく。父さんが冷えた発泡酒を

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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで

「今日の夕食はなんだ」
「カレイの煮つけ。真が作ってくれているわ」
「あとは何がある」
「そうねえ。小松菜のおひたしと納豆ぐらいかしら」
「おいおいたまには身になるものを食わしてくれよ」父さんはぼくの後ろから鍋の中をのぞき込んできた。「せめて濃い味にしてくれよ。薄いと何を食っているのかまるでわかりゃしない」
 ぼくはお客の要望を聞き入れ、砂糖としょうゆを酒の分量をほんの少し多くする。煮汁が黒いのは

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デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで(少年期⑥)

デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで(少年期⑥)

★協定その六:月に一度はお休み(最低一週間前までには知らせておく)。

 これ以上眠れないのはわかっていた。だけどもう一回だけ目をしっかりとつむってみる。浅く呼吸を繰り返し、寝ている状態を作り出す。草の湿っぽい匂いも、葉が折れるちくちくとした感じももう消えた。目の奥に、真っ暗な暗闇が広がっているだけ。面白いことは何もない。それでも五分ほど同じ姿勢に耐え、それから芝生との友情を絶った。身体を起こし、

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