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毎日読書メモ

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#文藝春秋

米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(毎日読書メモ(525))

米澤穂信『可燃物』(文藝春秋)を読んだ。「オール讀物」に連載された、群馬県警の警部葛を主人公とした連作短編。主人公、といっても、葛の人間ドラマが主題ではない。逆に、単行本化する際に、雑誌掲載時には若干含まれていた葛の心情的な描写を意図的に削ったとのこと。
群馬県内で起こったさまざまな事件に葛がどうアプローチし、ぱっと見判然としない真相をどう明らかにしていったかが描かれる。
警察なので、被疑者を逮捕

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桐野夏生『もっと悪い妻』(毎日読書メモ(522))

桐野夏生『もっと悪い妻』(毎日読書メモ(522))

桐野夏生が昨年6月に刊行した『もっと悪い妻』(文藝春秋)を読む。表紙こわ! 人形の仮面が宙に浮かび、それを抑える指先の下に続く身体には首から上がない...。cover photograph by Miguel Vallinas Prietoとある。検索したら、やはり首のない体の上に、色んな頭部がのった写真がいっぱい出てきた...。
桐野夏生、基本長編作家の印象が強いが、今回は短編集。「悪い妻」が「

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鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(毎日読書メモ(501))

鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(毎日読書メモ(501))

前から気になっていた、鈴木忠平『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』(文藝春秋)を読んでみた。
読んではみた。しかし、中日ドラゴンズというチームについては殆ど何も知らない。名古屋ドームに行くのは、名古屋ウィメンズマラソンの時だけだ。星野仙一や落合博満が監督をやっていたことは知っているが、他の監督も、選手も、殆ど知らない。
読んで面白いのか?
と、思ったが、面白かった。Interestin

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滝口悠生『死んでいない者』(毎日読書メモ(494))

滝口悠生『死んでいない者』(毎日読書メモ(494))

滝口悠生が『死んでいない者』(文藝春秋、のち文春文庫)で芥川賞をとったのが2016年下期、本谷有希子『異類婚姻譚』と同時で、ちなみに1期前が又吉直樹『火花』と羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』だった。
最近あんまりきちんと芥川賞受賞作をフォローしていなくて、この頃の受賞作、あまり読んでなかった。評判の良かった『長い一日』(講談社)を読んだのをきっかけに、近作『水平線』(新潮社)も読み、満を持し

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市川沙央『ハンチバック』(毎日読書メモ(493))

市川沙央『ハンチバック』(毎日読書メモ(493))

第169回(2023年上期)芥川賞の発表まであと1週間ちょっと。乗代雄介『それは誠』(文藝春秋)に既に心を持っていかれているわたしだが(ここで絶賛)、注目度という意味では候補作の中でも屈指(いや、候補が5作なんだから指足りるけど)の市川沙央『ハンチバック』(文藝春秋)も読んでみた。単行本もすでに店頭に並んでいるが、この作品は第128回文學界新人賞受賞作なので、「文學界」2023年5月号(『それは誠

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乗代雄介『それは誠』、絶対お薦め(毎日読書メモ(491))

乗代雄介『それは誠』、絶対お薦め(毎日読書メモ(491))

先月、新聞に出ている文芸誌の広告を眺めていて、これは絶対読まねばならぬ、と直感に導かれ、「文學界」2023年6月号購入。乗代雄介『それは誠』、表紙には「4人の若者のかけがえのない生の輝きをとらえた、著者の最高傑作!」と書かれている。えー、なんと陳腐な!

それがまとめか? なんか違うぞ。そもそも4人の若者じゃないと思うし(もっと沢山だろ)、クローズアップするならこれは終始、誠ひとりの物語だし(だっ

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窪美澄『夜に星を放つ』(毎日読書メモ(452))

窪美澄『夜に星を放つ』(毎日読書メモ(452))

昨年夏に直木賞を受賞した窪美澄『夜に星を放つ』(文藝春秋)、受賞直後に単行本買ってあったのをずっと寝かせてしまってあったのを、ようやく読んだ。切ない、5つの短編は、それぞれに夜空に浮かぶ星や衛星を狂言回しとした物語。松倉香子さんの装丁、章扉の星座の絵が、ネタバレにまではならない物語の予感を与えてくれる。

「真夜中のアボカド」:コロナ下の閉塞感を縷々語る。コロナ禍になる前に双子の妹の弓ちゃんを亡く

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山本文緒『ばにらさま』(毎日読書メモ(374))

山本文緒『ばにらさま』(毎日読書メモ(374))

遂に、山本文緒最後の作品集となる『ばにらさま』(文藝春秋)を読んでしまった。書店の店頭で見かける、強烈な少女像(タカノ綾)の表紙の印象が強かったが、本を開いて見ると、中表紙は、この図柄、『プラナリア』の装丁と一緒だ...と懐かしくなる(装丁・大久保明子)。

もてない青年にすり寄るようにすがってきた、真っ白な少女の本音と打算を描く「ばにらさま」、倹約生活を送る専業主婦の何故?、を最後にがらっと明か

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毎日読書メモ(223)『傷痕』(桜庭一樹)

毎日読書メモ(223)『傷痕』(桜庭一樹)

桜庭一樹、結構沢山読んだけど、一つ一つ方向性が全然違って、引き出しの多さに驚く。『傷痕』(講談社、現在は文春文庫)は、急逝したマイケル・ジャクソンとおぼしきポップスターとその「娘」の物語。最初から最後まで不思議な話だった。

泰明小学校の近くの、繁華街とは思えないちょっとおぐらい感じが似合う、伝説のスーパースターの御殿。傷痕という名前の娘。大きな孤独は、たぶんそれが舞台を日本に移したとしてもアメリ

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毎日読書メモ(210)新井満の思い出的な

毎日読書メモ(210)新井満の思い出的な

昨年12月に、アーティゾン美術館へ「M式「海の幸」ー森村泰昌 ワタシガタリの神話」展を見に行ったとき(感想ここ)、あわせて見た常設展示の中に「挿絵本にみる20世紀フランスとワイン」という特集展示があり、ユトリロやデュフィなどの小品や出版物などが展示されていてとても興味深かった。その中に、トップ画像にあげたラウル・デュフィの「開かれた窓の静物」という水彩画があり、一目見て、はっとする。これは、新井満

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毎日読書メモ(177)『風味絶佳』(山田詠美)

毎日読書メモ(177)『風味絶佳』(山田詠美)

2005年12月の日記より、山田詠美『風味絶佳』(文藝春秋、現在は文春文庫)の感想。

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わたしは山田詠美のそんなにいい読者ではない。

デビュー作『ベッドタイムアイズ』 から、芥川賞候補になっていた時代には何冊か続けて読んだが、自分と価値観が違うものを受容する力の小さい時代に読んだせいか、今ひとつ入り込めず。一時すごく人気のあった『ぼくは勉強ができない』 や『放課後の音符(キイノート) 』

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毎日読書メモ(159)『アフリカ人学長、京都修行中』(ウスビ・サコ)

毎日読書メモ(159)『アフリカ人学長、京都修行中』(ウスビ・サコ)

『アフリカ出身サコ学長、日本を語る』(朝日新聞出版)読んだら面白かった、京都精華大学のウスビ・サコ学長の本を、もう1冊読んでみた。『アフリカ人学長、京都修行中』(文藝春秋)。前作は、サコさんが、どういうきっかけで日本にやってきて、京都の学校で地歩を固めていったか、サコさんから見て日本人はどういう風に見えるか、といったことが書かれているが、今回は主に、結果的に自分の生涯の半分以上住むことになった京都

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毎日読書メモ(152)栗田有起『ハミザベス』、古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』

毎日読書メモ(152)栗田有起『ハミザベス』、古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』

読みかけの本を読み終えられなかったので、過去日記から読書日記を拾う。この間触れたばかりの村上春樹Remixと、あんまり間があかずに読んでいたのか。

栗田有起『ハミザベス』(集英社)読了。中編2本、いずれも、特殊な境遇にありながら、その特殊さを特殊さとしてアピールすることのない、淡白な少女の物語、という感じ。表題作で母の更年期を扱っているのが、逆にわたし的には卑近であったが、もう一声欲しい感じだっ

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毎日読書メモ(133)『容疑者Xの献身』(東野圭吾)

毎日読書メモ(133)『容疑者Xの献身』(東野圭吾)

2006年2月の日記から、東野圭吾『容疑者Xの献身』(文藝春秋その後文春文庫)の感想を拾い上げる。探偵ガリレオの系譜。

近所のママ友に借りた東野圭吾『容疑者Xの献身』。図書館で予約しちゃった後で、友達が持っているのを知って借りたが、図書館でリクエスト出して数ヶ月たつが、全然来る気配もない。その間に直木賞まで取っちゃったから、きっと更にウェイティングの列は長くなっていることであろう。

私立高校の

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