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毎日読書メモ

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2022年11月の記事一覧

雫井脩介『犯罪小説家』(毎日読書メモ(442))

雫井脩介『犯罪小説家』(毎日読書メモ(442))

雫井脩介『犯罪小説家』(双葉社、のち双葉文庫)。この頃、何冊かまとめて雫井脩介を読んだな、と思い出す。『火の粉』(幻冬舎文庫)を読んだ方がもう少し前だった(感想ここ)。

最初のシーンは「大いなる助走」かいと思ったが、勿論全然違う展開に。賞を取ったにしては平板でひねりのない話だね、と「凍て鶴」のプロットを読んで思ったが、それをホラー脚本家小野川が自分のフィルターで映画プロットにするところがあまりに

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伊坂幸太郎『クリスマスを探偵と』(毎日読書メモ(441))

伊坂幸太郎『クリスマスを探偵と』(毎日読書メモ(441))

伊坂幸太郎著、マヌエーレ・フィオール絵の、絵本『クリスマスを探偵と』(河出書房新社)を読んだ。舞台はドイツのローテンブルク。クリスマス間近。私立探偵のカールが、浮気調査で追跡している男を、入って行った屋敷の前で張り込みながら、同じベンチにかけていた男と話を始め、自らのクリスマスの想い出を語ると、相手の男が、カールの中に出来上がっている物語は別の角度から見るとこういう解釈も出来るのでは?、という不思

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サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』(毎日読書メモ(440))

サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』(毎日読書メモ(440))

今年2回目、朝日新聞のSF小説新刊紹介コラムで池澤春菜が推していたのをきっかけに読む本(1回目は『プロジェクト・ヘイル・メアリー』)。サラ・ピンスカー『いずれすべては海の中に』(市田泉訳、竹書房文庫)。作者名も知らなかったが、これが作者初の著書(短編集)だが、長編『新しい時代への歌』(村山美雪訳)が、先行して同じ竹書房文庫から刊行されているようだ。
13編の短編がおさめられていて、「オープン・ロー

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『ふしぎ駄菓子屋銭天堂17』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(439))

『ふしぎ駄菓子屋銭天堂17』(廣嶋玲子・jyajya)(毎日読書メモ(439))

廣嶋玲子・jyajya『ふしぎ駄菓子屋銭天堂』(偕成社)今年の4月に刊行された17巻読了。ここ10巻くらい、図書館で予約すると即日届いていたが、新しい方から2番目の本(かつ最新刊は先々月出たばかり)なので、予約が結構いっぱい入っていてしばらく待った。
16巻の終わりで、紅子の商品デジタルトの効果で手痛い被害を受けた六条教授、態勢立て直しにちょっと時間がかかっているが、ただ黙って耐えている訳ではなく

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池澤夏樹『真昼のプリニウス』(毎日読書メモ(438))

池澤夏樹『真昼のプリニウス』(毎日読書メモ(438))

池澤夏樹のデビュー作、『スティル・ライフ』を読んだ後(感想ここ)、一緒に本棚の奥に埋もれていた『真昼のプリニウス』(中央公論社、現在は中公文庫)を再読してみた。記憶からすっぽり抜け落ちていたので、初めて読むような新鮮な気持ちで読む。1989年前半に「中央公論」に連載され、7月に単行本刊行。三十数年の間に、色んなことが変わったのだな、と思う。

主人公頼子は火山の研究者。魅力的で、周囲の人に愛される

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福岡伸一『生物と無生物の間』、『世界は分けてもわからない』、『動的平衡』(毎日読書メモ(437))

福岡伸一『生物と無生物の間』、『世界は分けてもわからない』、『動的平衡』(毎日読書メモ(437))

しばらく前に朝日新聞で連載されていた福岡伸一『新ドリトル先生物語 ドリトル先生ガラパゴスを救う』(朝日新聞出版)、展開にやや乱暴なところがあったり、ドリトル先生やスタビンズ君に話しかけてくれる生物たちがあまりに理路整然と俯瞰的に語ってご都合主義きわまれり、とは思ったが、数十年ぶりにドリトル先生の新しい冒険を読んだようで、予想以上に愉しかった。ゾウガメとアタワルパの涙のつくり話はある意味抱腹絶倒。

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中島京子『オリーブの実るころ』(毎日読書メモ(436))

中島京子『オリーブの実るころ』(毎日読書メモ(436))

中島京子の近刊、『オリーブの実るころ』(講談社)を読んだ。何しろ、『やさしい猫』で社会問題提起しているのに圧倒されてしまったので、あたかも社会運動の作家みたいな感じになってしまったが、今回の作品は、『やさしい猫』の前に発表された『ムーンライト・イン』同様、圧倒されるような不思議な体験をしているけれど、あまりそれを表に出さずに淡々と生きている人の話を、6つの短編小説それぞれ、違った姿で展開している。

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山崎ナオコーラ『かわいい夫』(毎日読書メモ(435))

山崎ナオコーラ『かわいい夫』(毎日読書メモ(435))

山崎ナオコーラ『かわいい夫』(夏葉社、その後河出文庫)を読んだ。単行本の表紙はチッチとサリーだよ、これは萌える!(ちなみに河出文庫版は表紙がヨシタケシンスケでこれもいい。ヨシタケシンスケは『母ではなくて親になる』の表紙も描いているので、つながってる感はある)
元々、西日本新聞に連載していたエッセイを単行本化した本で、新聞連載時のイラストはちえちひろ。ちえちひろも『鞠子はすてきな役立たず』などの表紙

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ピッピと休暇(毎日読書メモ(434))

ピッピと休暇(毎日読書メモ(434))

たぶん、有給休暇をとるために仕事している。
今の職場、最初の6ヶ月は休暇がなくて、その間に仕事に行けないときは欠勤の届を出していた。6ヶ月たって有給休暇が取得できるようになったときは嬉しくてそのために休暇をとったりした。
今は、待遇改善(給与を上げられない分そのほかの部分の福利厚生を改善したみたい)で、仕事についた初日から有給休暇がとれるようになったのだが
そうじゃなかった時代に就業して、初めて休

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藤原辰史『給食の歴史』(毎日読書メモ(433))

藤原辰史『給食の歴史』(毎日読書メモ(433))

藤原辰史『給食の歴史』(岩波新書)、何ヶ月も鞄の中に入れていて、他の本を読み終えた合間などに少しずつ読み進めてきたのをとうとう読了。
今年の大学入試共通テストで、藤原の、食べられつつある豚肉を主役としたエッセイに驚いたのも記憶に新しい。

朝日新聞の書評委員を務めているので、どんな本を選び、それにどういう意見を付けるか、というところからも、彼の主張がうかがい知れるが、給食をテーマとして、作者の主張

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高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』(毎日読書メモ(432))

高瀬隼子『犬のかたちをしているもの』(毎日読書メモ(432))

この夏、『おいしいごはんが食べられますように』で芥川賞を受賞した、高瀬隼子のデビュー作、『犬のかたちをしているもの』(2019年にすばる文学賞受賞)が集英社文庫になったので買って読んでみた。純文学の新人賞によくある、自分と他者の関係を色んな角度から考察する文学、なのだが、当然、「よくある」、では文学賞は取れない。わかりやすい状況説明で、とても非現実的な設定をどんどん書き進める。主人公の戸惑い、動揺

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滝口悠生『長い一日』、そして君はこの2週間何をしていたのか(毎日読書メモ(431))

滝口悠生『長い一日』、そして君はこの2週間何をしていたのか(毎日読書メモ(431))

滝口悠生『長い一日』(講談社)を読んだ。結構分厚い本で、まさか一日に起こった出来事をこの1冊かけて書いている? それじゃジェームズ・ジョイスの『ユリシーズ』だろ、とか思いつつ読み始めた。
結果的にそんなことはなく、「長い一日」はいくつもの章に分かれた物語の一つの章のタイトルであった。小説家滝口とその妻の生活を中心に、滝口の高校時代の同級生の窓目くんとけり子(けり子のパートナーの天麩羅ちゃん)、窓目

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松浦理英子『ヒカリ文集』(毎日読書メモ(430))

松浦理英子『ヒカリ文集』(毎日読書メモ(430))

松浦理英子の新刊『ヒカリ文集』(講談社)を読んだ。「群像」に2019年から2021年にかけて、5回に分けて発表された、文字通り、ヒカリという魅力的な女性についてみんなが文章を寄せた、文集の形式をとった小説。

学生演劇の劇団NTRが解散して長い月日がたった。主宰者だった脚本家破月悠高の謎の遭難死から2年がたち、妻久代が当時の劇団員たちに声をかけ、悠高が残した未完の戯曲を補完するように、戯曲の中に登

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