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藤原辰史『給食の歴史』(毎日読書メモ(433))

藤原辰史『給食の歴史』(岩波新書)、何ヶ月も鞄の中に入れていて、他の本を読み終えた合間などに少しずつ読み進めてきたのをとうとう読了。
今年の大学入試共通テストで、藤原の、食べられつつある豚肉を主役としたエッセイに驚いたのも記憶に新しい。

朝日新聞の書評委員を務めているので、どんな本を選び、それにどういう意見を付けるか、というところからも、彼の主張がうかがい知れるが、給食をテーマとして、作者の主張をはっきり打ち出した好著であった。

文化史の本を読むのが結構好きで、この本も、そうした文化史の本かと思って手に取った。しかし、これはむしろ、政治史の一部の局面を切り取った本であった。教育史の中で、あまり真っ向から取り上げられてこなかったテーマもまた、教育と政治に翻弄されて今日までやってきた。福祉政策、教育政策、農業政策、災害政策の狭間にあり、かつ、戦後のGHQ占領下のアメリカからの物資輸入は、外交政策とも深く関わっている。
時代による変遷があり、地域差も激しく大きい。一般論化するのは難しい。
しかし、昔も今も、給食は、貧困に対するセーフティーネットの一端を担ってきたし、食育という言葉が人口に膾炙するようになり、教育的意義もまた重視されつつある。

自分自身が小学生時代に食べてきた給食、大学時代に事務のバイトをしていた、大学の近くの公立小学校で有償で食べさせて貰った給食、子どもの学校の給食試食会で食べさせて貰った給食と、栄養士さんの話。
様々な思い出、当時は意識していなかった、政治的な駆け引きの末に提供されていた給食。わたしは好き嫌いがあまりなかったので、ある程度このメニューは好きとか苦手とかはあっても、食べられないメニューなどはなく、冷静に考えればその取り合わせは変だろう、という献立でも、パクパクと完食していた。今になって、アレルギーやアトピーのある児童はどうしていたんだろう、と思うし(困っていた人もきっといたのだろうが、わたし自身の記憶にはない)、給食で牛乳が必ず出ることに抵抗し、自分の子どもに牛乳を残させている、という知り合いもいた。
規模の大きい学校に通っていたから、食器類はプラスチックやアルミだったが、生協のカタログに、比較的規模の小さい自治体で導入されている陶器や漆器の食器を扱っているのを見て、器を変えることで食事を丁寧に食べる感じは出るだろうな、と思ったりもした。
子どもの学校は、小学校は自校調理、中学校はセンター方式だったが、センター方式の是非についても色々な動きがあることもこの本で知った。
給食廃止論の動きもあるようだが、作者は、福祉的見地からも、給食の意義を重く受けとめ、よりよい給食環境を構築すべきであることを訴える。

給食が、誰にとっても幸福で、大切な記憶となるように。自分の成長の重要な要素でありますように。

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