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毎日読書メモ(221)大学入試共通テスト

新聞に昨日の大学入試共通テストの問題が出ていた。本気で解いたりはしないけれど、各教科の問題を幾つか眺め、国語の設問の文章を読む。
国語の第1問は文章Iが檜垣立哉『食べることの哲学』より、宮沢賢治「よだかの星」の考察、文章IIが、藤原辰史『食べるとはどういうことか』より、人間に食べられた豚肉(あなた)の視点から「食べる」ことについて考察した文章。
宮沢賢治らぶなので、文章Iも面白かった。宮沢賢治の小説に出てくる動物たちは、人間と対等というか、人間も動物と同じ目線に立ってお互いに干渉し合っている感じなのだが、「よだかの星」のよだかは、どちらかというと擬人化が強めで、鷹に罵倒され、おまえなど殺してやる、と言われ、絶望的な気持ちになりながら、本能で虫を食べ続けている自分に嫌気がさしている。苦悩するよだかの姿により、食物連鎖の因果を描いているというよりは、断食への志向が物語の結論(星になる)に結びついているように読み取り、設問の最終部分はこのようになっている。

ここで宮沢は、食物連鎖からの解放という(仏教理念として充分に想定される)事態だけをとりだすのではない。むしろここでみいだされるのは、心が傷ついたよだかが、それでもなお羽虫を食べるという行為を無意識のうちになしていることに気がつき「せなかがぞっとっした」「思ひ」をもつという一点だけにあるようにおもわれる。それは、人間である(ひょっとしたら同時によだかでもある)われわれすべてが共有するものではないか。そしてこの思いを昇華させるためには、数億年数兆年彼方の星に、自らを変容させていくことしか解決策はないのである。

大学入試共通テスト国語設問より、傍線等を取ったもの

という考察が大変興味深かったのだが、その後に文章IIを読んでぶっ飛ぶ。毎年受験生のツイートから、国語の設問に出てきた文章についての驚き等がニュースサイトに紹介されているが、今回のピカイチは、藤原辰史だろう。あとは黒井千次の小説「庭の男」(結構地味...)と、古文が『増鏡』と『とはずがたり』、漢文が阮元。話題にするとすれば藤原辰史だ。何しろあなたは豚肉ですよ。豚肉の旅が克明に描かれる。

「箸ではさまれたあなたは、まったく抵抗できぬままに口に運ばれ、アミラーゼの入った唾液をたっぷりかけられ、舌になぶられ、硬い歯によって噛み切られ、すり潰されます。その後、歯の隙間に残ったわずかな分身に別れを告げ、食道を通って胃袋に入り、酸の海のなかでドロドロになります。十二指腸でも膵液と胆汁が流れ込み消化をアシストし、小腸にたどり着きます。ここでは小腸の運動によってあなたは前後左右にもまれながら、六メートルに及ぶチューブをくねくね旅します。そのあいだ、小腸に出される消化酵素によって、炭水化物がブドウ糖や麦芽糖に、脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解され、それらが腸に吸収されていきます。ほとんどの栄養を吸い取られたあなたは、すっかりかたちを変えて大腸にたどり着きます」(中略)
「こう考えると、食べものは、人間のからだのなかで、急に変身を遂げるのではなく、ゆっくり、じっくりと時間をかけ、徐々に変わっていくのであり、どこまでが食べものであり、どこからが食べものでないかについて決めるのはとても難しいことがわかります」(後略)

大学入試共通テスト国語設問より、傍線等を取ったもの

いやはや驚いた。筒井康隆の小説を読んでいるのかと思ったよ。豚肉の旅路を見届けた後の、作者の考察は、食べものは最初からそもそも食べものではない、という見方もあれば、姿が消え去ってもずっと食べものであり続ける、という両極端の考え方が出来る、というものである。身体の中を通過していくものは、そもそもが生き物であり、ずっと、人間とは別個の生き物であるという考え方VS消化されて排泄された後、微生物が発生してまた次の動植物が成長する一助となる食べものはずっと食べものである、という考え方は、視点は正反対だが、見方によってはとても似ていて、「死ぬのがわかっているのに生き続けるのはなぜか、という質問にもどこかで関わってきそうな気配もありますね」と、設問は締めくくられる。

要するに、文章Iでも文章IIでも、食べるということを通じて、いかに生きるか、何故生きるか、を考えるきっかけが持てることを伝えているのだなぁ、とまとめてしまうと乱暴だろうか。
設問は斜め読みして、こういう設問を考えるのも大変だなぁ、と思いつつ、解かずに通過。
自分の周囲に、色々な切り口の問題意識や哲学があることを、これまでに読んできた試験問題とか、模擬試験とかで学んできたが、今年もまた面白い出会いがあった。

ついでに黒井千次は

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