「私がこの引き金を引けば、雪道さんの命は終わりです」 槇村さんは浮かべた微笑を一ミリも動かさずに宣告する。 「この前命の危機に陥ったばっかりなのに、スパンが短す…
槇村さんのドレス姿はとてもよく似合っていた。 「牙龍さん、お願いしまーす」 井之上さんの声が響いた。 槇村さんの席に呼ばれたらしい。 ボクはビールを飲み干すと流…
ボクは待機スペースを出て、店の右端に位置する流の席を見た。 長い黒髪のきつめの顔立ちの女性が座っている。歳は20代後半か30代前半といったところだろうか? ボクはに…
イライラした様子の流に指示されるまま、ボクは床掃除、テーブル拭き、看板だしをした。 1時間程作業し、その後、簡単に仕事のレクチャーを受けた後、流はカーテンのかか…
「どうも、井之上です」 眼鏡の男はそう名乗った。 「ここの支配人やってます」 「はじめまして、尾田雪道です。槇村さんの紹介で」 「あー、いい、いい、固い固い」 …
重たい扉を空けて、薄暗い店内に入って行く。 スーツを着た男達が掃除をしている。ホスト達が開店準備をしているだろうか。 「おはようございます!」 男達に威勢よく挨…
槇村さんは、スマホでどこかに連絡すると立ち上がり、繁華街へと向かった。 帰宅ラッシュの電車を乗り継ぎ、降りた駅は近辺の街でも比較的栄えている土地だった。 居酒屋…
ボクは全トッピングのワッフルとカフェモカを頼んだ。 お値段1800円である。 「ゆ、雪道さん、多少の遠慮もないところが好きです」 「いやー、うまい。病院食は味気なか…
槇村さんは小洒落たカフェにボクを連れて行った。レンガテイストの壁に、開放的な店内を演出する大きな窓。そして明治時代を彷彿とさせる街灯。 店に入る前に値段が確認出…
それからほどなくして、ボクは退院の運びとなった。 入院費はバカにならない。 諸々でおよそ20万強! キタコレ! どうすんねん! とりあえずはクレジットカードで支…
壇ノ浦さんからLINEが来たのは、華々しい勝利からおよそ20分後のことだった。 メディアは突如として現れ、怪物を倒した謎のヒーローのことで持ち切りになっていた。 「倒…
テレビ中継で映されたEvil Demandは先日と同じ奴だった。 街に火柱が上がっている。 きっと、今まさに現場では苦しんでいる人がいるのだろう。 何故、奴らは人々を襲う…
壇ノ浦さんはそれから30分くらい父親との確執を語り始めた。 面倒なので、話の要点をまとめてみた。 父親、悪徳。 仲違い。 ほぼ絶縁。 とのことでした。 「尾田君…
「大学を辞めるの?」 壇ノ浦さんは真顔でボクを見て尋ねた。 「はい、仕事に専念しないと」 「その生活を返済が終わるまで続けるつもり?」 「ええ、そうなります」 …
退院がおよそ2週間後の2月末になる見通しである。 その間、ボクは病院のベッドの上でこれからのことを考えた。 毎月50万というお金を支払い続けるのは途方もないことの…
翌日、お見舞いに訪れたのは槇村さんだった。 「聞きましたよー、雪道さん。あの映画の後、巻き込まれちゃったんですね。なんか、ごめんなさい」 「いやいや、ボクの自己…
hiromichi
2017年6月26日 13:57
「私がこの引き金を引けば、雪道さんの命は終わりです」槇村さんは浮かべた微笑を一ミリも動かさずに宣告する。「この前命の危機に陥ったばっかりなのに、スパンが短すぎる!」「壇ノ浦さんを助けようとしたんですよね? 見てましたよー」「え、何でそれを……」「ばきゅーん!」思わず身を強張らせる。「大丈夫です。まだ撃ちません」できれば一生撃たないで欲しいのだが。「雪道さんの絶体
2017年6月25日 14:55
槇村さんのドレス姿はとてもよく似合っていた。「牙龍さん、お願いしまーす」井之上さんの声が響いた。槇村さんの席に呼ばれたらしい。ボクはビールを飲み干すと流に断って、席を後にする。流は素知らぬ顔で接客を続けた。立ち上がり、廊下に出たボクに、井之上さんが耳元で囁く。「お友達でも、客にしなよ?」どんな顔をすべきなんだろう?槇村さんはボクにとってどんな存在なんだろう?
2017年6月2日 16:20
ボクは待機スペースを出て、店の右端に位置する流の席を見た。長い黒髪のきつめの顔立ちの女性が座っている。歳は20代後半か30代前半といったところだろうか?ボクはにこやかな表情をつくり、女性の前に座った。「え、誰?」怪訝な顔をする女性。香水の匂いが鼻についた。「はじめまして、新人の我龍です!」「あ、新人?」「今日、入りました」「ピチピチじゃん」「ピチピチっすかね
2017年5月25日 22:53
イライラした様子の流に指示されるまま、ボクは床掃除、テーブル拭き、看板だしをした。1時間程作業し、その後、簡単に仕事のレクチャーを受けた後、流はカーテンのかかった簡素な個室にボクを呼び、そこで待機するよう命じた。「ここが、俺らの待機スペース。今日はとりあえず呼ばれるまでここにいろよ」「分かりました」大人しくボクは命じられたままそこに腰掛ける。コツコツと革靴の足音がしたと思うと、
2017年5月24日 21:41
「どうも、井之上です」眼鏡の男はそう名乗った。「ここの支配人やってます」「はじめまして、尾田雪道です。槇村さんの紹介で」「あー、いい、いい、固い固い」井之上さんはボクの言葉を遮った。自分だって、固いのでは?と若干思った。「まー、座って」井之上さんに促されてボクは椅子に腰掛ける。井之上さんは回転椅子ごとこちらに寄り、対面する形になった。「女の子、好きなの?」
2017年5月20日 10:47
重たい扉を空けて、薄暗い店内に入って行く。スーツを着た男達が掃除をしている。ホスト達が開店準備をしているだろうか。「おはようございます!」男達に威勢よく挨拶された。「あ、お、おはようございます」夜だというのに、おはようございますとは、これいかに。槇村さんはボクの後をついて来る。さすがにここではリードしてくれないらしい。と、一人の金髪の男がボクらの前に立ちふさがった。
2017年5月18日 15:34
槇村さんは、スマホでどこかに連絡すると立ち上がり、繁華街へと向かった。帰宅ラッシュの電車を乗り継ぎ、降りた駅は近辺の街でも比較的栄えている土地だった。居酒屋等の通りを抜けると、いわゆる夜の大人の街にさしかかる。仕事を終えたサラリーマン集団や、デートらしき社会人カップル。接待をしているようなスーツの集団。客を呼び込もうと声をかけるキャッチ。槇村さんは意外と慣れた様子でずんずん進んで行
2017年5月17日 12:18
ボクは全トッピングのワッフルとカフェモカを頼んだ。お値段1800円である。「ゆ、雪道さん、多少の遠慮もないところが好きです」「いやー、うまい。病院食は味気なかったからねー」人の金で食べるものほどおいしいものはない。絶望的な現状を甘味が緩和してくれる。「あれ、何かしょっぱい?」「ゆ、雪道さん、なんで泣いてるんですか?」「え? 泣いてる?」気付くとボクは知らぬ間に涙
2017年5月16日 11:15
槇村さんは小洒落たカフェにボクを連れて行った。レンガテイストの壁に、開放的な店内を演出する大きな窓。そして明治時代を彷彿とさせる街灯。店に入る前に値段が確認出来るものはないかと探したが、置いてなかった。小洒落ているということは、それだけ設備投資しているということである。それを回収するために、商品にもその分を上乗せしている可能性もある。ボクは全然、マク◯ナルドでいい。バニラシェイ
2017年5月14日 23:13
それからほどなくして、ボクは退院の運びとなった。入院費はバカにならない。諸々でおよそ20万強!キタコレ!どうすんねん!とりあえずはクレジットカードで支払った。リボ払いである。どんどんボクの借金額が膨らんで行く。病院を出て、ボクはとぼとぼと街中を歩いた。昼下がりの穏やかな空気。親子連れが公園で遊んでいる。この平和な昼下がりをボクはあと何回味わうことが出来る
2017年4月24日 10:53
壇ノ浦さんからLINEが来たのは、華々しい勝利からおよそ20分後のことだった。メディアは突如として現れ、怪物を倒した謎のヒーローのことで持ち切りになっていた。「倒した」届いた文章は簡潔にそれだけ。「ご苦労様でした」どんな言葉をかけるべきか分からず、ボクは簡単にそう返した。金を捨て、命を張って、万人のために戦った人間に、ボクがかけていいことばは、一体どんなものなんだろう。
2017年4月23日 11:56
テレビ中継で映されたEvil Demandは先日と同じ奴だった。街に火柱が上がっている。きっと、今まさに現場では苦しんでいる人がいるのだろう。何故、奴らは人々を襲うのだろうか。Evil Demand。訳すと、邪悪な要求、である。何か意味があるのだろうか。Evil Demandは人々を襲っている。と、眩い光が一閃し、Evil Demandの身体からどす黒い血液が飛び散
2017年4月22日 19:27
壇ノ浦さんはそれから30分くらい父親との確執を語り始めた。面倒なので、話の要点をまとめてみた。父親、悪徳。仲違い。ほぼ絶縁。とのことでした。「尾田君、簡潔にまとめすぎじゃないかしら?」「だいたい分かるんじゃないすか」「行間が空きすぎだと思うわ、さすがに」「いいんですよ。このタイミングで長々と壇ちゃんの家族話されても」「壇ちゃんを定着させようとしないで。下の名
2017年4月21日 16:21
「大学を辞めるの?」壇ノ浦さんは真顔でボクを見て尋ねた。「はい、仕事に専念しないと」「その生活を返済が終わるまで続けるつもり?」「ええ、そうなります」壇ノ浦さんは目を伏せて、ため息をついた。「尾田君……」おもむろに何かを言いそうな気配だ。「ご両親は?」「親は小さいころ事故で死んでます。親戚の家で育てられたんですが、そことは仲悪くて、お金は払ってくれないと思います
2017年4月18日 15:33
退院がおよそ2週間後の2月末になる見通しである。その間、ボクは病院のベッドの上でこれからのことを考えた。毎月50万というお金を支払い続けるのは途方もないことのように思えた。しかし、もしあの時ボクが支払っていなければ、壇ノ浦さんはおろか、ボクも今この世に存在しなかっただろう。窓の外を眺める。河川敷の桜並木が見えるが、まだ咲く気配はない。あの桜が咲くまで、生きていたいものである
2017年4月16日 19:55
翌日、お見舞いに訪れたのは槇村さんだった。「聞きましたよー、雪道さん。あの映画の後、巻き込まれちゃったんですね。なんか、ごめんなさい」「いやいや、ボクの自己責任だから、槇村さんが気にすることじゃないよ」槇村さんはボクの頭に巻かれた包帯に触れた。「痛いですか?」「痛い」「えい、えい!」包帯の箇所にデコピンしてくる槇村さん。「こら」「えい、えい!」しつこくデコピ