hiromichi

落書きノート

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ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜36

「私がこの引き金を引けば、雪道さんの命は終わりです」 槇村さんは浮かべた微笑を一ミリも動かさずに宣告する。 「この前命の危機に陥ったばっかりなのに、スパンが短すぎる!」 「壇ノ浦さんを助けようとしたんですよね? 見てましたよー」 「え、何でそれを……」 「ばきゅーん!」 思わず身を強張らせる。 「大丈夫です。まだ撃ちません」 できれば一生撃たないで欲しいのだが。 「雪道さんの絶体絶命の危機を救ったのは、私ですよ?」 そういえば確かにあの時、Evil Dem

    • ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜35

      槇村さんのドレス姿はとてもよく似合っていた。 「牙龍さん、お願いしまーす」 井之上さんの声が響いた。 槇村さんの席に呼ばれたらしい。 ボクはビールを飲み干すと流に断って、席を後にする。 流は素知らぬ顔で接客を続けた。 立ち上がり、廊下に出たボクに、井之上さんが耳元で囁く。 「お友達でも、客にしなよ?」 どんな顔をすべきなんだろう? 槇村さんはボクにとってどんな存在なんだろう? よく分からない。 ボクは浮ついた考えのまま、槇村さんの待つ席に座った。 槇村

      • ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜34

        ボクは待機スペースを出て、店の右端に位置する流の席を見た。 長い黒髪のきつめの顔立ちの女性が座っている。歳は20代後半か30代前半といったところだろうか? ボクはにこやかな表情をつくり、女性の前に座った。 「え、誰?」 怪訝な顔をする女性。 香水の匂いが鼻についた。 「はじめまして、新人の我龍です!」 「あ、新人?」 「今日、入りました」 「ピチピチじゃん」 「ピチピチっすかね?」 「えー、うん」 「……」 「好きな映画は……」 「え、なんでいきな

        • ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜33

          イライラした様子の流に指示されるまま、ボクは床掃除、テーブル拭き、看板だしをした。 1時間程作業し、その後、簡単に仕事のレクチャーを受けた後、流はカーテンのかかった簡素な個室にボクを呼び、そこで待機するよう命じた。 「ここが、俺らの待機スペース。今日はとりあえず呼ばれるまでここにいろよ」 「分かりました」 大人しくボクは命じられたままそこに腰掛ける。 コツコツと革靴の足音がしたと思うと、数人の男達がぞろぞろと待機スペースに入って来た。 きっと先輩方なのだろう。

        ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜36

        • ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜35

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        • ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜33

          ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜32

          「どうも、井之上です」 眼鏡の男はそう名乗った。 「ここの支配人やってます」 「はじめまして、尾田雪道です。槇村さんの紹介で」 「あー、いい、いい、固い固い」 井之上さんはボクの言葉を遮った。 自分だって、固いのでは?と若干思った。 「まー、座って」 井之上さんに促されてボクは椅子に腰掛ける。 井之上さんは回転椅子ごとこちらに寄り、対面する形になった。 「女の子、好きなの?」 「え、あ、まあ、はい」 急な質問だったので、答えに窮する。 「ほーん、じゃ

          ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜32

          ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜31

          重たい扉を空けて、薄暗い店内に入って行く。 スーツを着た男達が掃除をしている。ホスト達が開店準備をしているだろうか。 「おはようございます!」 男達に威勢よく挨拶された。 「あ、お、おはようございます」 夜だというのに、おはようございますとは、これいかに。 槇村さんはボクの後をついて来る。さすがにここではリードしてくれないらしい。 と、一人の金髪の男がボクらの前に立ちふさがった。 「どーも」 軽い挨拶をしてくる。 身長はボクより少し高い。 青い目で金髪。

          ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜31

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_30

          槇村さんは、スマホでどこかに連絡すると立ち上がり、繁華街へと向かった。 帰宅ラッシュの電車を乗り継ぎ、降りた駅は近辺の街でも比較的栄えている土地だった。 居酒屋等の通りを抜けると、いわゆる夜の大人の街にさしかかる。 仕事を終えたサラリーマン集団や、デートらしき社会人カップル。接待をしているようなスーツの集団。客を呼び込もうと声をかけるキャッチ。 槇村さんは意外と慣れた様子でずんずん進んで行く。 人ごみをかき分けながらボクは後を追った。 不意に差し出される槇村さんの

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_30

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_29

          ボクは全トッピングのワッフルとカフェモカを頼んだ。 お値段1800円である。 「ゆ、雪道さん、多少の遠慮もないところが好きです」 「いやー、うまい。病院食は味気なかったからねー」 人の金で食べるものほどおいしいものはない。 絶望的な現状を甘味が緩和してくれる。 「あれ、何かしょっぱい?」 「ゆ、雪道さん、なんで泣いてるんですか?」 「え? 泣いてる?」 気付くとボクは知らぬ間に涙を流していたようだった。 「どどど、どうしたんですか、雪道さん!」 死ぬまで

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_29

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_28

          槇村さんは小洒落たカフェにボクを連れて行った。レンガテイストの壁に、開放的な店内を演出する大きな窓。そして明治時代を彷彿とさせる街灯。 店に入る前に値段が確認出来るものはないかと探したが、置いてなかった。 小洒落ているということは、それだけ設備投資しているということである。 それを回収するために、商品にもその分を上乗せしている可能性もある。 ボクは全然、マク◯ナルドでいい。 バニラシェイクが食べたい。100円だし。 店内は平日の昼間だというのに、それなりに人がいた

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_28

          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_27

          それからほどなくして、ボクは退院の運びとなった。 入院費はバカにならない。 諸々でおよそ20万強! キタコレ! どうすんねん! とりあえずはクレジットカードで支払った。 リボ払いである。 どんどんボクの借金額が膨らんで行く。 病院を出て、ボクはとぼとぼと街中を歩いた。 昼下がりの穏やかな空気。 親子連れが公園で遊んでいる。 この平和な昼下がりをボクはあと何回味わうことが出来るのだろう。 早ければ今月末にも、ボクの命は奪われることになってしまう。 月末

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_26

          壇ノ浦さんからLINEが来たのは、華々しい勝利からおよそ20分後のことだった。 メディアは突如として現れ、怪物を倒した謎のヒーローのことで持ち切りになっていた。 「倒した」 届いた文章は簡潔にそれだけ。 「ご苦労様でした」 どんな言葉をかけるべきか分からず、ボクは簡単にそう返した。 金を捨て、命を張って、万人のために戦った人間に、ボクがかけていいことばは、一体どんなものなんだろう。 「もっと褒めてくれてもいいと思うけど」 「ももちゃん、マジで尊敬します。ありが

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_25

          テレビ中継で映されたEvil Demandは先日と同じ奴だった。 街に火柱が上がっている。 きっと、今まさに現場では苦しんでいる人がいるのだろう。 何故、奴らは人々を襲うのだろうか。 Evil Demand。 訳すと、邪悪な要求、である。 何か意味があるのだろうか。 Evil Demandは人々を襲っている。 と、眩い光が一閃し、Evil Demandの身体からどす黒い血液が飛び散った。 何者かが、Evil Demandを切り裂いたのだ。 まさか。 炎と

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_24

          壇ノ浦さんはそれから30分くらい父親との確執を語り始めた。 面倒なので、話の要点をまとめてみた。 父親、悪徳。 仲違い。 ほぼ絶縁。 とのことでした。 「尾田君、簡潔にまとめすぎじゃないかしら?」 「だいたい分かるんじゃないすか」 「行間が空きすぎだと思うわ、さすがに」 「いいんですよ。このタイミングで長々と壇ちゃんの家族話されても」 「壇ちゃんを定着させようとしないで。下の名前はももこよ」 「ももちゃん」 「何?」 「そこは素直なんかい!」 「や

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_23

          「大学を辞めるの?」 壇ノ浦さんは真顔でボクを見て尋ねた。 「はい、仕事に専念しないと」 「その生活を返済が終わるまで続けるつもり?」 「ええ、そうなります」 壇ノ浦さんは目を伏せて、ため息をついた。 「尾田君……」 おもむろに何かを言いそうな気配だ。 「ご両親は?」 「親は小さいころ事故で死んでます。親戚の家で育てられたんですが、そことは仲悪くて、お金は払ってくれないと思います。両親の遺産はボクの養育費で無くなったそうです」 「そうだったのね……。御愁傷

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_22

          退院がおよそ2週間後の2月末になる見通しである。 その間、ボクは病院のベッドの上でこれからのことを考えた。 毎月50万というお金を支払い続けるのは途方もないことのように思えた。 しかし、もしあの時ボクが支払っていなければ、壇ノ浦さんはおろか、ボクも今この世に存在しなかっただろう。 窓の外を眺める。 河川敷の桜並木が見えるが、まだ咲く気配はない。 あの桜が咲くまで、生きていたいものである。 おっと、気付けば余命を宣告されているわけでもないのに、ボクはひどく弱気にな

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          ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_21

          翌日、お見舞いに訪れたのは槇村さんだった。 「聞きましたよー、雪道さん。あの映画の後、巻き込まれちゃったんですね。なんか、ごめんなさい」 「いやいや、ボクの自己責任だから、槇村さんが気にすることじゃないよ」 槇村さんはボクの頭に巻かれた包帯に触れた。 「痛いですか?」 「痛い」 「えい、えい!」 包帯の箇所にデコピンしてくる槇村さん。 「こら」 「えい、えい!」 しつこくデコピンを繰り出して来る。 「やめろ」 「えい、えい!」 「ぶち殺すぞ、くそアマ

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