ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_21

翌日、お見舞いに訪れたのは槇村さんだった。

「聞きましたよー、雪道さん。あの映画の後、巻き込まれちゃったんですね。なんか、ごめんなさい」

「いやいや、ボクの自己責任だから、槇村さんが気にすることじゃないよ」

槇村さんはボクの頭に巻かれた包帯に触れた。

「痛いですか?」

「痛い」

「えい、えい!」

包帯の箇所にデコピンしてくる槇村さん。

「こら」

「えい、えい!」

しつこくデコピンを繰り出して来る。

「やめろ」

「えい、えい!」

「ぶち殺すぞ、くそアマ」

「……雪道さん、怖すぎます」

「ごめん、ちょっとイラっとしちゃって」

「えー、雪道さんが生きてるっていう実感を持とうと思ってデコピンしてただけなのに、悲しいです」

「うるせー、帰れ」

「雪道さんともうちょいいちゃつかないと帰れま10」

「それどころじゃないの、ボク。分かるよね?」

「はい、リンゴの皮剥きまーす。槇村、剥きまーす」

「はいはい、回文みたいだね」

「おいしーですよー。私の剥いたリンゴは」

槇村さんはリンゴの皮を剥き始めた。

開始2秒で、指を切った。

「痛ーい」

「えい、えい!」

槇村さんの傷口に向けて中指から打撃を繰り出す。

「痛いです」

「えい、えい」

「やめて」

「えい、えい!」

「これで刺しますね?」

槇村さんは包丁をボクに向けた。

「やめろ!」

「私の血の味のリンゴが出来ましたー! さあ、食べて下さい!」

「血の味はいらない……」

「いいから、食べてください」

「えー、体調悪くなりそう」

と言いつつ、ボクはリンゴを食べる。

甘い。そして赤い。

「これで、雪道さんは、私の虜になりますよ」

「吸血鬼か何かか」

槇村さんは微笑んでいた顔を真剣な表情に戻した。

「雪道さん」

「な、何?」

「雪道さんは人を助けただけじゃないかもですよ」

「というと?」

「同時に助けられてもいるってことです」

「な、何のこと?」

「いいです。あ、そろそろバイトの時間なので帰りますね」

「お、おう。頑張って」

槇村さんは立ち上がり、病室の扉に向かう。

立ち止まり、振り返った。そして、手で銃の形を作ると、ボクの胸に向けた。

「ズキューン! 雪道さんのこと、狙い撃ちしちゃいますからね」

……。

不意に、脳裏を謎の狙撃手に救われた記憶がよぎる。

まさかね。

「じゃ、また来ます」

「今度は包丁を使わない方向でお願いします」

「次までに練習して来ますよ」

槇村さんは部屋を出て行った。

その日は、残ったリンゴを食べ、早めに寝た。


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