ワンオーダー 〜キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜_26

壇ノ浦さんからLINEが来たのは、華々しい勝利からおよそ20分後のことだった。

メディアは突如として現れ、怪物を倒した謎のヒーローのことで持ち切りになっていた。

「倒した」

届いた文章は簡潔にそれだけ。

「ご苦労様でした」

どんな言葉をかけるべきか分からず、ボクは簡単にそう返した。

金を捨て、命を張って、万人のために戦った人間に、ボクがかけていいことばは、一体どんなものなんだろう。

「もっと褒めてくれてもいいと思うけど」

「ももちゃん、マジで尊敬します。ありがとうございます」

電話がかかって来た。

壇ノ浦さんからである。

「尾田君!」

LINEの文章からは伝わってこなかったが、かなり高揚した声だ。

「ようやく、あいつを倒したわ!」

「本当にお疲れさまです」

「尾田君!」

「な、何ですか」

「じゃないや、雪道君!」

「もっと褒めて!」

「ももちゃんは最高です」

「え、よく聞こえないわ。もう一度、大きな声で言ってみなさい」

「ももちゃんは最高です!」

「ええ、そうね。なんか……」

「なんか、何すか?」

「雪道君と話してると報われた気がする」

「それは光栄です」

「抱きしめたい」

「おと、大部テンション上がってますね」

「あたりまえよ。病院、抜け出して来たら?」

「まだ、松葉杖ないと立てないですし、無理です」

「えぇ、つまんない」

だだっ子のようになっている。普段の理性的な壇ノ浦さんではなかった。

「ボクも早く退院したいです」

「早く退院してよ」

「せめてちゃんと歩けるようになったら、ですね」

「雪道君、映画の帰り道、君がいてくれたから、戦う決意をすることができた。本当に感謝しているわ」

「ボクなんかと、映画見てくれてありがとうございます」

「卑屈ね。もうちょっと堂々としなさい」

「堂々とできる根拠があればするんですけどね……」

「堂々としなさい。君は私を支えてくれる存在なんだから」

「支えてるんですかね」

「支えてるのよ」

そんな実感はこれまで無かったが、そう言われて悪い気はしなかった。

「あと、一つ気になることがあるんですが」

「何?」

「ももちゃん、今月、お金大丈夫?」

以前の戦いの時にも多大なお金を払っているはずである。

「あー……」

言葉に詰まる壇ノ浦さん。

「明日からモヤシを食べれば何とか……。あと家賃を待ってもらえば……」

Evil Demandを倒したと思ったら、次は金欠との戦いが始まるようである。

お金にならない仕事って、辛い。

「ももちゃん、何かうまい手を考えましょう」

「それよ」

マジで、それである。

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