ワンオーダー キャッシュがないと戦えないヒーローとそれを支えるボクの話〜31

重たい扉を空けて、薄暗い店内に入って行く。

スーツを着た男達が掃除をしている。ホスト達が開店準備をしているだろうか。

「おはようございます!」

男達に威勢よく挨拶された。

「あ、お、おはようございます」

夜だというのに、おはようございますとは、これいかに。

槇村さんはボクの後をついて来る。さすがにここではリードしてくれないらしい。

と、一人の金髪の男がボクらの前に立ちふさがった。

「どーも」

軽い挨拶をしてくる。

身長はボクより少し高い。

青い目で金髪。外国の血が混じっているようだ。

そしてさすがホストだけあって、整った顔立ちをしていた。

「あ、どうも」

「体験の人?」

「体験、とは?」

「え、知らんの? 一日だけお試しで働くやつ」

「お試しがあるんすね」

「どこの店でもやってるよ。なんで知らずに来たんだよ」

中々、ずけずけ言うタイプらしい。

「あ、あの、井之上さんに紹介するために来たんです」

「ん? 誰? 彼女?」

「あ、えっと」

口ごもるボク。

「いや、女の付き添いとかマジねーから」

「さ、さーせん」

何か、不条理を感じる。

「まあ、いいや。井之上さんね。こっち」

なんだかんだで案内をしてくれるコイツは根はいい奴かもしれない。

店の厨房の横のスタッフルームの扉の前に立ち止まった。

男はノックをする。

「うーい」

中から中年男性の声が聞こえた。

「失礼します。体験希望が来ました」

男は扉を開け、ボクを招き入れた。

入室しようとする槇村さんの目の前で、男は扉を閉じた。

「君はいいから」

「え、あ、雪道さん、ファイト!」

入り口から背を向ける形でPCデスクがあり、そこに中年らしき男が座っていた。

きっと槇村さんのパパであり井之上さんという人なのだろう。

中年の男は回転椅子でくるりとこちらを振り返った。

お洒落髭と派手なガラの眼鏡が印象的である。

そして何より、眼鏡の奥の目から、金の匂いを感じた気がした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?