変性性脊髄症:WIZ-DOG

日本ではコーギーに多い犬の難病「変性性脊髄症(DM)」は、世界各国で治療法の研究が進ん…

変性性脊髄症:WIZ-DOG

日本ではコーギーに多い犬の難病「変性性脊髄症(DM)」は、世界各国で治療法の研究が進んでいるものの、まだまだ暗闇の中にいます。WIZ-DOGは同疾病に関する現在進行形の知見を集め、いろいろ角度から考察を続けてまいります。

記事一覧

25.フィーダー細胞を使わないiPS細胞

2023年12月22日、大阪公立大学は、官民共同の研究グループが、フィーダー細胞を使わないiPS細胞の作製に成功したことを発表しました。 イヌのiPS細胞は、これまでも作られ…

24.ケア

DMは症状が変化する進行性疾患です。進行に伴って愛犬の体勢や運動機能も変わってきますので、ケアの内容ややり方も変わってきます。 今回は、症状ごとのケアについてご説…

23.アンチセンス

遺伝子にアプローチ アンチセンスという治療法をご存知ですか? 遺伝子が働かないようにするもので、ヒト医療では癌治療などで利用されています。 少し説明しますと………

22.アスタキサンチン

アスタキサンチンは自然界に広く存在する赤色の生体色素で、特に魚介類に多く含まれています。最近、この色素が持つ抗酸化力が脚光を浴び、国内外多くのメーカーがサプリメ…

21.遺伝子検査 PCR法

昨今、大変な事態となった新型コロナウイルスによる感染症。その検査で、世界中で大きな話題となっているのが「PCR検査」です。コロナウイルスの遺伝子はDNAではなくRNAな…

20.呼吸障害

DMの呼吸障害 DMを発症した犬は、次第に、後肢⇒前肢⇒呼吸器の順に運動機能を失っていきます。それぞれの運動機能を支配する末梢神経の脊髄からの出口は、後肢より前肢、…

19.中枢神経の免疫

開く血液脳関門 中枢神経と血管の間には、免疫細胞やウイルス、大きなたんぱく質などを脳や脊髄に侵入させない血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)という関所のような…

18.褥瘡

DM犬のみならず、加齢や疾病などで寝たきりになると床ずれができることがありますよね。あれを医学用語では「褥瘡(じょくそう)」と言います。 第44回日本老年医学会学術…

17.CPG

随意筋の不随意運動 カラダを意識的に動かす時は、脳からカラダにつながる神経システムがその指令を伝達します。そうやって自分の意志で動かす筋肉を「随意筋」と言います…

16.iPS細胞

ヒトのカラダもイヌのカラダも、細胞によって作り出されるタンパク質を基に作り上げられていきます。最初は受精卵という一つの細胞だったのが、分化を続けていろんな細胞と…

15.運動療法モダリティ

神経機能の不具合で思うような動作が行えなくなった場合、手術などで治療をすることが基本的な解決策ではあるのですが、術後対策としてあるいは代替策として運動療法で改善…

14.サルコペニア

筋肉が量的あるいは質的に減衰して力が入らなくなる現象を「サルコペニア」と言います。一番わかりやすいのは、入院などで運動をしないと筋肉が細くなる、あの症状です。た…

13.ヘスペリジンとナリルチン

最近、何かと話題の「ヘスペリジン」。温州みかんなど柑橘類の果実の皮を乾燥させた「陳皮(ちんぴ)」なる漢方薬の有効成分です。陳皮を使った漢方薬としては「人参養栄湯…

12.椎間板ヘルニア

軟骨異栄養性犬種 ヒトも犬も、成長期は、カラダが大きくなる時期ですので、当然ながら骨も大きくなりますよね。それは、骨に「成長板(骨端板)」という軟骨の部分があっ…

11.SAIDsとNSAIDs

抗炎症剤 炎症って、カラダの恒常性を保つ正常な反応なのでしょうが、熱が出て体が重くなるし、痛みは出るし、で、日常生活に支障をきたすやっかいな症状ですよね。 早く…

10.DNAとタンパク質

タンパク質からタンパク質が作られる おさらいです。 先回の記事で、食事として摂取されたタンパク質(摂取タンパク質)は、カラダの中でアミノ酸などに分解され(異化)…

25.フィーダー細胞を使わないiPS細胞

25.フィーダー細胞を使わないiPS細胞

2023年12月22日、大阪公立大学は、官民共同の研究グループが、フィーダー細胞を使わないiPS細胞の作製に成功したことを発表しました。

イヌのiPS細胞は、これまでも作られてきましたが、これまではiPS細胞を意図する細胞に分化成長させるためには、他の細胞と一緒に培養する必要があり、この「他の細胞」をフィーダー細胞と呼んできました。

このフィーダー細胞の気まぐれな性質からなのか、安定した環境を

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24.ケア

24.ケア

DMは症状が変化する進行性疾患です。進行に伴って愛犬の体勢や運動機能も変わってきますので、ケアの内容ややり方も変わってきます。

今回は、症状ごとのケアについてご説明致します。

初期

症状:後肢のナックリング、ふらつき、ウサギ跳びなど

まずは体重管理についてです。後肢の立ち方や歩き方が変わると、体重はこれまでとは微妙に異なる角度で後肢にのしかかるようになります。つまり、後肢の関節に対する負重

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23.アンチセンス

23.アンチセンス

遺伝子にアプローチ

アンチセンスという治療法をご存知ですか? 遺伝子が働かないようにするもので、ヒト医療では癌治療などで利用されています。

少し説明しますと……。

細胞内ではDNAの指示でタンパク質がどんどん作られています。セントラルドグマと呼ばれる生体内の基本的な営みなのですが、そこで作られた異常なタンパク質が原因となって発症に至る疾病がたくさんあります。アンチセンス薬は、その異常なタンパ

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22.アスタキサンチン

22.アスタキサンチン

アスタキサンチンは自然界に広く存在する赤色の生体色素で、特に魚介類に多く含まれています。最近、この色素が持つ抗酸化力が脚光を浴び、国内外多くのメーカーがサプリメントの原材料として市場に出回らせるようになりました。

今回は、そのアスタキサンチンのお話です。

ヒトもイヌも、酸素を体内に取り込んで生命活動を維持しています。そしてその酸素の一部は、体内で反応性の高い活性酸素に変化します。この活性酸素は

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21.遺伝子検査 PCR法

21.遺伝子検査 PCR法

昨今、大変な事態となった新型コロナウイルスによる感染症。その検査で、世界中で大きな話題となっているのが「PCR検査」です。コロナウイルスの遺伝子はDNAではなくRNAなのですが、一旦RNAをDNAに変換した上で増幅させるという手続でPCR検査が行われます。

実は、遺伝性疾患であるDMでも、脊髄変性の原因とされる変異遺伝子を検出するのに、このPCR法が利用されているのです。

遺伝子検査PCR法

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20.呼吸障害

20.呼吸障害

DMの呼吸障害

DMを発症した犬は、次第に、後肢⇒前肢⇒呼吸器の順に運動機能を失っていきます。それぞれの運動機能を支配する末梢神経の脊髄からの出口は、後肢より前肢、前肢より呼吸器の方が、より脳の近くにあります。DM犬の脊髄変性は次第に脳に近づいていくような進行となりますので、四肢麻痺になった後、最後に呼吸障害に陥ってしまうことになるわけです。

そもそも脊髄って?

脊髄とは、脊椎(背骨)の中に

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19.中枢神経の免疫

19.中枢神経の免疫

開く血液脳関門

中枢神経と血管の間には、免疫細胞やウイルス、大きなたんぱく質などを脳や脊髄に侵入させない血液脳関門(Blood-Brain Barrier:BBB)という関所のようなシステムがあります。
脳や脊髄はカラダ全体の活動を支配する司令塔ですので、中枢神経機能と免疫機能はお互いに独立していて、有害なものはとにかくシャットアウトするようにできている、と考えられてきたんですね。ただ、脳や脊髄

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18.褥瘡

18.褥瘡

DM犬のみならず、加齢や疾病などで寝たきりになると床ずれができることがありますよね。あれを医学用語では「褥瘡(じょくそう)」と言います。

第44回日本老年医学会学術集会では、ヒトの褥瘡について、「褥瘡とは局所における循環障害によって生じる皮膚および皮下組織の壊死(えし:組織が死んでしまうこと)である。しかし、圧迫や摩擦によって生じる単なる皮膚潰瘍としてではなく、基礎疾患や全身状態と密接に関連する

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17.CPG

17.CPG

随意筋の不随意運動

カラダを意識的に動かす時は、脳からカラダにつながる神経システムがその指令を伝達します。そうやって自分の意志で動かす筋肉を「随意筋」と言います。腕や足など運動器を動かす骨格筋と呼ばれる筋肉群のことですね。一方、意識しなくてもちゃんと動いている筋肉もあります。「不随意筋」と呼ばれる心臓や血管などを動かす筋肉です。常に決まった動きをしているものですから、脳の省エネにもなりますし、何

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16.iPS細胞

16.iPS細胞

ヒトのカラダもイヌのカラダも、細胞によって作り出されるタンパク質を基に作り上げられていきます。最初は受精卵という一つの細胞だったのが、分化を続けていろんな細胞となり、いろんなタンパク質を生み出して、はっきりとした個別の形に作り上げられるわけです。

ほとんどの細胞の中には核があり、その核のなかに遺伝子情報を持ったDNAがあります。DM(変性性脊髄症)は変異したDNAが正常でないタンパク質を生み出し

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15.運動療法モダリティ

15.運動療法モダリティ

神経機能の不具合で思うような動作が行えなくなった場合、手術などで治療をすることが基本的な解決策ではあるのですが、術後対策としてあるいは代替策として運動療法で改善させる方法も広く活用されています。

今回は、先回紹介した「ロボット療法」以外の、運動療法による神経リハビリテーションを紹介します。

BMI(Brain Machine Interface)療法

BMI療法は、慶應義塾大学が力を入れて研

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14.サルコペニア

14.サルコペニア

筋肉が量的あるいは質的に減衰して力が入らなくなる現象を「サルコペニア」と言います。一番わかりやすいのは、入院などで運動をしないと筋肉が細くなる、あの症状です。ただ、そもそも「サルコペニア」の定義がバラバラですので、加齢により筋量や筋力が低下する現象に限定される場合もあれば、加齢以外の原因で、つまり寝たきりや病気などで筋肉に力が入らなくなるケースを含む場合もあります。

今回は、加齢性サルコペニアに

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13.ヘスペリジンとナリルチン

13.ヘスペリジンとナリルチン

最近、何かと話題の「ヘスペリジン」。温州みかんなど柑橘類の果実の皮を乾燥させた「陳皮(ちんぴ)」なる漢方薬の有効成分です。陳皮を使った漢方薬としては「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」が有名ですよね。ヘスペリジンは、柑橘類、特にそのスジや皮に多く含まれているフラボノイド(ポリフェノール)で、さすがに皮を食べろとは話しておりませんでしたが、中にある「スジ」も一緒に食べた方がヘスペリジンの効果を大い

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12.椎間板ヘルニア

12.椎間板ヘルニア

軟骨異栄養性犬種

ヒトも犬も、成長期は、カラダが大きくなる時期ですので、当然ながら骨も大きくなりますよね。それは、骨に「成長板(骨端板)」という軟骨の部分があって、その軟骨部分が伸びていくから骨そのものが大きくなっていくんです。

その軟骨が遺伝子の関係で伸びないあるいは早期に止まる疾病に冒されることがあります。ヒトでも犬でもそんな症状が出ることがあるのですが、イヌでは、犬種作出にあたり、そうい

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11.SAIDsとNSAIDs

11.SAIDsとNSAIDs

抗炎症剤

炎症って、カラダの恒常性を保つ正常な反応なのでしょうが、熱が出て体が重くなるし、痛みは出るし、で、日常生活に支障をきたすやっかいな症状ですよね。

早く治まって欲しい……そこで登場するのが「抗炎症剤」です。抗炎症剤は、ω6由来のアラキドン酸の体内での働きをどう抑えるのか、がポイントなのですが、大きく分けて、ステロイド剤(SAIDs:セイズ)と、非ステロイド剤(NSAIDs:エヌセイズ)

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10.DNAとタンパク質

10.DNAとタンパク質

タンパク質からタンパク質が作られる

おさらいです。

先回の記事で、食事として摂取されたタンパク質(摂取タンパク質)は、カラダの中でアミノ酸などに分解され(異化)、そのアミノ酸が体内でタンパク質(体内タンパク質)として合成される、ということを書きました。分解されたさまざまな種類のアミノ酸は体内をめぐっていき、肉を食べればそのまま自分の肉に、骨を食べれば自分の骨になる、というわけではありません。

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