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23.アンチセンス

遺伝子にアプローチ

アンチセンスという治療法をご存知ですか? 遺伝子が働かないようにするもので、ヒト医療では癌治療などで利用されています。

少し説明しますと……。

細胞内ではDNAの指示でタンパク質がどんどん作られています。セントラルドグマと呼ばれる生体内の基本的な営みなのですが、そこで作られた異常なタンパク質が原因となって発症に至る疾病がたくさんあります。アンチセンス薬は、その異常なタンパク質を作るDNAが働かないようにしてしまおうという意図で作られた薬なんですね。

アンチセンスは、セントラルドグマの過程において、DNAあるいはmRNAに結合することでタンパク質の生成を阻害する作用のことを指しています。つまり、生成されたタンパク質へのアプローチではなく、その前の段階のDNA(遺伝子)へのアプローチを図っているわけです。

アビガンもアンチセンス

最近何かと話題の「アビガン」も、アンチセンスを利用した薬、つまりアンチセンス薬なんですね。インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどは、遺伝子としてDNAではなくRNAを持っているのですが、アビガンは、ウイルスがRNAをコピーして増殖するのに必要な部品によく似た構造をしていて、そこにはまることでRNAのコピーを阻害する……そういう作用機序なんです。アンチセンス薬というのは、こういった機序でウイルスの機能を喪失させて増殖を抑えることになります。

アンチセンス医療は、遺伝子選択性が高く、標的に直接作用するので、正常な細胞に対して攻撃するリスクは低いとされています。ピンポイントで狙い撃ちできるため、高い治療効果や副作用の軽減が見込めるのです。

DMとアンチセンス

DMは、SOD1という抗酸化力を持つタンパク質が変異してうまく働かないことが原因である、という説が有力で、この変異型SOD1の生成を指示する変異型SOD1遺伝子というものが対で存在する個体が発症するとされています。DMは今でも治療法がない難病なのですが、変異型SOD1という悪さをするタンパク質が生成されるのはやむなしとして、この働きを阻止あるいは他のたんぱく質に代替させられないものかという研究が続けてこられました。

アメリカでは、数年前から、DMにこのアンチセンス療法が有効かどうかの研究が続けられているそうですが、今のところ思わしい結果は得られていないようです。

何とか早くいい結果が出てくれないものか、と祈っていますが、ヒトのALSについてさえもまだ研究が進められている段階だそうですので、残念ながら、DMで良い結果が得られるのはまだ先の話なのかもしれません。

WIZ-DOGドッグトレーナー 石田 陽子


科学的思考を育てるドッグトレーナースクール ウィズドッグアカデミー