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15.運動療法モダリティ

神経機能の不具合で思うような動作が行えなくなった場合、手術などで治療をすることが基本的な解決策ではあるのですが、術後対策としてあるいは代替策として運動療法で改善させる方法も広く活用されています。

今回は、先回紹介した「ロボット療法」以外の、運動療法による神経リハビリテーションを紹介します。

BMI(Brain Machine Interface)療法

BMI療法は、慶應義塾大学が力を入れて研究してきたリハビリ法で、脳卒中などによる重度の上肢麻痺患者を対象としてきました。

通常、ヒトが自分の意思でカラダを動かそうとすると、まず脳が活動します。そしてその指令は中枢神経から末梢神経を経由して筋肉に伝わり、手や足など運動器を動かします。しかし、重い損傷を受けた脳はその指令を上手く伝えられません。 そこで、患者に自分で運動器を動かしている姿を想像してもらい脳を活性化、頭に装着した電極でそのわずかな脳波を検出し、機械の力で強制的に運動器を動かします。これを繰り返すことで脳の機能回復と神経機能の改善に期待するのです。

神経が促通するためには、ある種の「錯覚」が必要ですので、イヌに活用できるのかどうかはわかりません。でも、考えてみれば、イヌに錯覚を覚えさせるという場面は、イヌの気持ちを把握しながらイヌを動かす、そんな作業に長けた、私たちトレーナーの出番となるのかもしれませんね。

HANDS(Hybrid Assistive Neuromuscular Dynamic Stimulation)療法

これは、さほど重度の障害を患っておらず、脳からの信号が運動器まで届いている患者を対象としています。BMI療法は脳波で意思を把握しましたが、HANDS療法は、動かそうとする患者の意志を、運動器の筋肉に現れる電位変化で捉えて、その運動器を機械で強制的に動かします。

促通反復療法

これは鹿児島大学の川平和美先生が編み出した神経リハビリ法で、器具を使いません。BMI療法やHANDS療法よりもさらに軽度の神経症状患者が対象となります。

麻痺した手足を声掛けしながら開いたり閉じたりするだけですので、簡単にできそうですが、そうは問屋が卸してくれず、コツをつかむのにはかなりの鍛錬が必要……と聞きました。細胞レベルでの改善を目指すもので、発症から数年経ってほぼあきらめていた患者の麻痺を改善させたということで、従来の常識を変えたリハビリ法と言われています。

イヌの歩行リハビリ法に、イヌに声を掛けながら足を自転車こぎのようにぐるぐる回す「サイクリング運動」というものがあります。これは、「促通反復療法」の亜流なのかもしれませんね。

CI療法

脳卒中などで片手に麻痺が出てしまうと、QOLを落とさないよう麻痺のない方の手で日常生活を営もうとする……それはそれで気持ちはよくわかるのですが、麻痺した方は次第に動かなくなってしまいます。CI療法は、麻痺していない手を動かさないよう三角巾などで固定して、わざと麻痺した手を使わせるリハビリ法で、世界で広く行われています。

イヌの歩行リハビリでも、使える肢(健肢)のパッドにシリンジキャップやペットボトルのキャップなどを取り付けて使いにくくさせたり、使えない肢(患肢)にウェイトカフ(重り)を巻いて、強制的に着肢させたりする方法があります。これらは、いわば「イヌ版CI療法」といった感じですね。

ヒトでもそうですが、次第に患肢が使える喜びを感じるようになるとそれを使うようになります。

DMの犬が神経リハビリテーションで歩けるようになった、という話は聞いたことがありません。ただ、運動療法でその症状の進行を遅らせることができるのではないか、と示唆されていますので、せっかく運動をやらせるのであれば、これらの「ヒトの神経リハビリテーション」を参考にすれば、少しでも神経機能の回復に寄与するのではないか、とも思うのです。

WIZ-DOGドッグトレーナー 石田 陽子


科学的思考を育てるドッグトレーナースクール ウィズドッグアカデミー