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#現代詩

[すこし詩的なものとして]0094 遠くで聞こえる

妙に静かで
木の床をコツコツと鳴らしながら
人がひとりひとり吸い込まれていく

吐息と咳払いが響く
季節が到来するように
今年一番の寒気が訪れたらしい
誰もがため息まじるに少しの諦めをもってたたずんでいる

遠くで聞こえる
小気味よい行商の声
甲高い子どもの嘆き
すべては無関心に責任を食いつぶす

恥は忘れられ
恥は君らに追いつけない
そうやってあいまいに
ただ笑って不敵に生き続ける
他者を踏みつ

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詩『獣』

詩『獣』

自分たちは知恵を持つ獣だから、と思い込み、
ほかの獣たちとは線引きをしているけれども、
そのあわいにあるのは思いあがりと哀しみだ。

廃棄をするほど殺している。
根絶やしにするほど殺している。
自死をするほど殺している。

繁栄の道を違えてきたわたしたちは、
もはや獣の風上にも置けない存在として、
人間という生きものでいるしかないんだろう。

肥大したり千切れたりするコミュニティで、
歌をうたうよ

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恋慕

花の命は風が吹いた
満月に叢雲かかる頃
紺色の空の下にては
愛する人を呼ばうべき
白月色に照らされ君と桜は
こうも美しく咲くべきや
嗚呼、僕には干渉できない
花と命の円舞曲
愛したいこの心を赦しておくれ
可憐な踊りに胸を打たれて

終末

天使が海に墜ちて来る頃
僕らは空の水に落ちて行く
光に満たされて颯爽と空色
情緒の色、心色
その深さは留まることを知らず
こんなにも清々しく明るいのに
神の昏睡に貶められて
情緒の世界に溶かされていく
そのとき僕らは全てを分かり
論理の檻から解き放たれる

水平線

水平線

潮騒を五月蝿く感じたら
私が私じゃない合図

可憐で繊細な波粒の欠片が
私の傷口に刺さっているの

カモメに笑われたら
私の胸中にある海の水量が
溢れてしまう合図

気高いカモメの群れさえも
敵だと認識してるみたい

そんな私は私じゃないから
ここでのお話は内緒にしてね

海はいつでも無垢で綺麗に問いかけてくる

あどけない水平線からこちらへ

真空の国

真空の国

青葉のゆれる宵、
静かに運ばれてゆく遺体
砂の流転する街を構築するように
失った意識の数を指折り数えながら
遁走する体とゆるやかな心中に臨む

地図には雨が降っていた
深み、それは穴ではない
安心して暗礁に乗ってゆけと
どこからともなく声がする

異邦人はどこへいったろう?

すべての感情は完成していた
まなざしを斥けるための
内省の悦びをふたたび発見するように
空気を殺してーー

あまりにも間違

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狼煙

狼煙

怖気付いた狼は

煙を焚いた

孤独感は産まれた時からあったから

風の色が変わろうと

揺れゆく葉の曲調が変わろうと

自身にはなんの変化もない

ただひたすらに荒野の始まりにいる

折りたたみ式のコンパクトな狼

小さく包まって

目を瞑って

ひたすらにじっと

震えていた

やっとこ疲れたもんで

狼煙を焚いた

爪で葉や石っころ引っ掻きまわし

二度目の満月の頃

ようやく火がついた

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逆光

逆光

世界の中心から離れて
愛を発音できなくなったけもの
果実、その芯を食うだけの祝祭を過ごす
甘さのあまりこいつは重く頭を垂れ
山河に刻まれた深い皺は
風の通り道をなす
「ありがとう」
それは愛から産まれた言葉ではなかったか?

眩しさは光源との距離に比例する
不均衡な言語を互いに照らし合い
認識している、という事実に導かれるようにして漏れる
きみは何という光だ!
この次元を満たしていくように手足を

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淡々と、燦々と

淡々と、燦々と

ある総体がぼくに語りかけてくる
かすかな震えを帯びて
最果ての光をつらぬくように
悲しみへの憧憬が波紋をなすように

ぼくの心はとても穏やかで
小鳥たちはちゅんちゅんと
可愛く鳴くので
感応して涙が溢れてくる
これを『生きる』と呼ばずに
なにを讃美し得るだろう

詩の言葉は記号ではなく
音楽である
よって詩をかくものの認識は
無限であり、虚無であり
言祝ぐことを赦さず
偽ることを赦さずーー
ぼくは

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最速のうた

最速のうた

とのにをゆえようさ
からめにしをきぶたし
ちいちいようにしつく
はみがみとえもう
むめ!
むめ!
のゆれどものゆれども
みもふゆらむをふえ
らんむどのくるわい

えう

どうか万物が愚かでありますように

どうか万物が愚かでありますように

どうか万物が愚かでありますように
そしてぼくはその中で
最も愚かでありますように

全然わかりません!本当に
なにを言ってるんですか、
あのモービルは
鳶が啄む薄暮の風景についてまわる
彼は孤独に倦んだりはしないのですね

どうか万物が徐ろに謎めいてゆきますように
対岸に琴線が見えたりします
雨は俄かに東にふりそそぎ
西には赤ん坊の波が押し寄せているようです

会話はいつもどこかキリのいいところで

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来たる紅潮

来たる紅潮

いずれにせよ
たましいは告白し続けていた
沈黙するのは言葉たちだけでよく
所定の枠からはみだすことのない躍動者は
意図せず聳つ孤高者を生み出した

ガス状の意思と光源が
我々の動脈と神経に乱交を強いる
すると
するりと狂おしくなってゆく
その上でなにか望みがあるのだろうか

すべての存在者は常に既に
まるみを帯びていた
その上で
律動する感性をもつことで
あの可愛い雌しべをひらいてゆけたらーー

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空想世界に生きている

空想世界に生きている

愛しい僕の心臓を、この手で握りつぶした
美しさとか何とか
僕に取り込まれる栄養でしかない

静寂に狂わされている
騒音に生かされている
そんな事実は知りたくなかった

全ては説明できてしまう
そのうち纏まって本屋に並ぶ

空白に耐えられないから
夢、ゆめ、夢

聞こえない声が聞こえる
誰かが僕を犯している
僕が罪を犯している音がする
ナイフを突き立てたくせに
被害者ヅラして血を見て泣いて吐いている

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声がない

声がない

あの空はどこへ向かうの?
ーー何も聞こえない。
今日は何の記念日なの?
ーー何も聞こえない。
あなたはどこから来たの?
ーー何も聞こえない。
私は誰?
ーー何も聞こえない。

たくさんのおもちゃをどうしよう!
ーー何も聞こえない。
もしかして、死んじゃうの?
ーー何も聞こえない。
もう、やめてもいい?
ーー何も聞こえない。
ーー何も聞こえない。