マガジンのカバー画像

日記

40
運営しているクリエイター

#読書感想文

シルエット

シルエット

 恋の重さはその溶け方でわかると思う。

 島本理生さんのデビュー作、「シルエット」を昔読んだ時にそう感じたことを思い出す。夜、本棚を整理していてまた読み返してしまった。ほんとうに美しい恋の失い方だ。
 主人公の女の子と元恋人の付き合っていた時の距離も、ずれに気づかぬふりをしている時の距離も、それからぬくもりを求めた相手との距離も、すべてが静かに移ろいつつあって、雨のようで。
 特に、始まり方が美

もっとみる
蜃気楼の牛

蜃気楼の牛

 蜃気楼の牛、を読んだ。文藝界の9月号に載っている、川上弘美さんの短編小説だ。
 こういう話が、すごく好きだ。紙粘土のような、やさしい白のなか、ずっと続くようで、けれど汽車に乗っているような、生々しいのに遠さのあるような、手紙という手段がいいのか、子供の存在がいいのか、それらの配置がとてもいいのか、空間が澄んでいて、ひどく好きだ。わたしが書けばだらだら話してしまうところを、厚みのある言葉をひとつ置

もっとみる
からだ以上の心が溢れ出して

からだ以上の心が溢れ出して

 しばらくして、ようやく読み終えたことに気づいた。真夏の砂漠に置き去りにされたように渇いていた。文化も神もよくわからないし、きっと知ろうとする探求、の心、がたぶん少ないからなかなか掬い取ろうなんでしないと思う。思うけど、こういうのを読むとああいいなあと思う。つまり人間的に魅力的な人間で、真っ白な種になって泥に埋まっていくイメージの、息の詰まるほどの美しさ、が最後にずっと込み上げてきてえらく現実から

もっとみる