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まなかい ローカル72候マラソン

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まなかい… 行きかいの風景を24節気72候を手すりに 放してしるべとします。                                        万葉集        …
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#ローカル七十二候マラソン

霜降:第52候・霜始降(しもはじめてふる)

霜降:第52候・霜始降(しもはじめてふる)

霜が降りる、霜が置く。

冠雪の便りも方々から聞かれるようになった。北国では霜も降りる頃だ。

東京ではまだ少し先。

育った信州の寒さもあって、小さい頃から大人になっても、霜焼けができた。

指先は全部、耳朶まで真っ赤になって、腫れて、温まると痒かったなあ。

空気中の水分が物に付着して氷の華を咲かせる。

その華が、葉っぱの中から新たな色を揉み出す。それが「もみぢ」。「もみつ」の名詞形。古くは

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寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

寒露:第51候・蟋蟀在戸(きりぎりすとにあり)

晩秋ともなると、夜にあれほど鳴いていた虫たちの声が減る。

蟋蟀戸にあり、

虫の数が減って、合唱だった歌が独唱となり、その歌が侘しくさせるのだろう。

秋も、彼らの生も残り僅か。

離れていくから名残惜しい。

恋情は燃えるが、それを振り払って、引き剥がして生きていく。

「あき」はそうやって「あきらめていく」とき。「飽きる」も語源だともされるが、いずれにしても距離が「空いて」いく。

自分の何

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寒露:第50候・菊花開(きくのはなひらく)

寒露:第50候・菊花開(きくのはなひらく)

菊は寒空に開く。

小さな太陽のように。

デイズ・アイ。甘苦い香り。

実に晩秋から冬至まで、太陽は無数の菊に宿るのだ。だいたい冬至まで役割を果たしたら、今度は蜜柑や檸檬や、橙に宿るのだ、それが順番というものだ。

ミタマノフユの冬至までますます太陽の力が弱まる間、菊は咲く。寒い露に濡れそぼりながら、木枯らしに耐えてなお、芒や女郎花や、竜胆と競い、咲き続ける。

菊の花は、括られた花。括られたた

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寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

寒露:第49候・鴻雁来(こうがんきたる)

鶴や白鳥や雁が、弓なりの列島に渡ってくる。

この都市ではニュースでしか見ないけれど。

白く大きな翼を持つものたちよ。

V字で飛行を続けるものたちよ。

羽毛のような雲を見て、その不在を紛らわす。

燕は南に帰った。青光る翼で。風を切って、波を躱して。

入れ替わるように北から優雅に使者たちがやってくる。

これが天使でなくて何だろう。

廻る地球の、凍てつく北方からの魂の飛来。

 彼らの

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秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

秋分;第48候・水始涸(みずはじめてかる)

涸れるは枯れる、渇れる、嗄れると通じて、それは水分が抜けていき、いのちが離(か)れる、そうやって水分が抜けると軽くなる、空になって、虚ろと成って、仮の場になるということ。

花を生ける日々はありがたいことに、その感触を手に取ることができる。

ありったけの水分は実に閉じ込め、あとは色づくばかりの木瓜。棘のある枝の素型(すがた)を。紅葉した錦木。割れて顔を出す赤い実。日が短くなり、光合成するクロロフ

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秋分;第47候・蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

秋分;第47候・蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

母の住む信州上田の市街地の一室から虹が見えた。

朝霧が太郎山方向から降りてきて街を覆うころ、雲の切れ間から射し込んだ日光がこの虹を見せてくれた。写真は一緒にこのエアビーに泊まった息子が撮ったもの。仕事で来ていた僕は一足早くこの部屋を離れたが、出る前にもっとうっすらとした虹が見えていた。わずかな長さの。虹の欠片のようで、とても淡かった。

子供が見たこの虹は、部屋からアーチ全体が見えたというからと

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秋分;第46候・雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)

秋分;第46候・雷乃収声(かみなりすなわちこえをおさむ)

秋分。太陽は真西に沈む。彼岸は西の果てにあるから、彼岸の住人となった死者たちに想いを致す。お墓参りで花を供え、手を合わせ、いろんなことを話したり思い出したりしながら、植え込みのお手入れをしたり、清めてさっぱりとしてもらう。

はじめて今年、母と一緒におはぎを作った。餡子と黄な粉と胡麻。分量がおかしくて二人しかいないのに40個以上できた。手の中で炊いた餅米を丸める。丸めると心もまろくなる。ゆっくりと

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白露;第45候・玄鳥去(つばめさる)

白露;第45候・玄鳥去(つばめさる)

渡りをする燕。4月の清明の頃、桜前線より早く列島にやってきて、

餌となる虫が減る晩秋に、子育てを終えて戻っていく。

もちろん個体差はあろうが、4000キロを渡ってくるという。しかも単独で。

帰りもそうなのだろうか。家族ができても。

新月に玄鳥が去る。

そうか、この前見たのは飛ぶ練習をしてたのか。ちょうど一ヶ月、いや二ヶ月ほど前か。

  雨の降る日に、信州の里山を歩いていると「玄鳥の木」

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処暑;第42候・禾乃登(こくものすなわちみのる)

処暑;第42候・禾乃登(こくものすなわちみのる)

みのり と いのり 不可分のペアのことば。

「いのり」は「準備」で「みのり」は「成果」。準備(いのり)に既に成果(みのり)があって、成果(みのり)の中に準備(いのり)があるという。(『面影日本 日本の本来と将来のために』 構成;松岡正剛 より)

居つく、斎く、禊して、じっと何かの音信を待つ姿。そうして聖なる言葉を伝える(「宣る」)のが「い のり」 。戒め、忌み籠りの「い」に「のる」がつく。何か

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白露;第44候・鶺鴒鳴(せきれいなく)

白露;第44候・鶺鴒鳴(せきれいなく)

秋も深まり、蜻蛉も赤くなり、木々も薄紅葉が目に付くようになった。

鶺鴒も恋の季節。美しい声で囀るのが聞こえてくる。高速道路を走りながら、窓をあけた一瞬に飛び込んでクロスしたその声にハンドルを握りながら嬉しくなった。現場である軽井沢までの道中2回ほどそれは起きた。

それにしてもこの鳥がいなかったら、日本の国土は生まれていなかったかもしれないから事は重大だ。

『日本書紀』では、不思議なことに、国

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白露:第43候・草露白(くさのつゆしろし)

白露:第43候・草露白(くさのつゆしろし)

真綿のような彩雲を見た。

朝晩の気温差が大きくなると、

草に露が結ぶ。

露は丸い。

まあるいものは魂だ。

重陽の節供は本来なら寒露の頃だが、新暦では白露の今頃。

本当は重陽の節供は、秋から冬の間の行事ではある。

終わらない夏と秋の間という感じではあるが、

露は降りる。

その露と菊の花を媒介するのが真綿。

ちなみに菊は花の部分は大概黄色だ。

形も放射状ラジアル、太陽が弱まってく

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処暑;第41候・天地始粛(てんちはじめてさむし)

処暑;第41候・天地始粛(てんちはじめてさむし)

毎月一日、早い時間からの現場や出張がなければ、氏神様での月次(つきなみ)祭に参列させていただく。

祝詞を聞きながら拝殿で傅いていると、社叢の欅や楠の樹立ち高く響き渡っていた蝉時雨も盛りを過ぎ、熱気もようように落ち着いたようで、拝殿に送られてくる風に「天地始粛(てんちはじめてさむし)」を実感した。

「さむ」は「冷める」ことであるが、覚める、醒める、褪めるなどと同根であるとされる(『字統』)。であ

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処暑;第40候・綿柎開(わたのはなしべひらく)

処暑;第40候・綿柎開(わたのはなしべひらく)

処暑。綿の実が開くとき。

遥かな空でも、巨大な綿飴のような雲が、残りの夏の気を大いに孕んで咆哮している。

綿雲。積雲。今年は特に大きく育っているようだ。それらが崩壊して千切れた綿雲(上写真)も空を流れ、やがて夕空を彩る。

綿の実。真ん中には、種が包まれてある。

中にある核が柔らかいうちは青い殻で守られ、核がしっかりしてくると、周りの綿が空気を孕んでふくらんで裂ける。

周りの綿はCOMAと

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立秋;第39候・蒙霧升降(ふかききりまとう)

立秋;第39候・蒙霧升降(ふかききりまとう)

信州の山あいの集落。少年時代を過ごした場所から尾根を一つ超えたこの土地に、この頃なぜか惹かれ、帰郷すると立ち寄っている。「お姫尊(お姫様)」と地元で呼ばれる大岩があって、小さい頃遠足で行った。

下のお宮のお祭りに一度か二度来たことがあったっけ。小さい頃はたくさんある小さなお宮それぞれで秋祭りがあってとにかく行くのが楽しかった。ちょっとずつ雰囲気が違うし、中学生くらいになるとちょっと遠くに友達がで

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