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処暑;第40候・綿柎開(わたのはなしべひらく)

処暑。綿の実が開くとき。

遥かな空でも、巨大な綿飴のような雲が、残りの夏の気を大いに孕んで咆哮している。

綿雲。積雲。今年は特に大きく育っているようだ。それらが崩壊して千切れた綿雲(上写真)も空を流れ、やがて夕空を彩る。


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綿の実。真ん中には、種が包まれてある。

中にある核が柔らかいうちは青い殻で守られ、核がしっかりしてくると、周りの綿が空気を孕んでふくらんで裂ける。

周りの綿はCOMAとも呼ばれる。人の昏睡状態を「コーマ」という。傷つきやすい心が傷つかないように守って、奥深くに隠れてしまう。あるいは外からの刺激に対して反応することができない状態。外から中をうかがい知ることができない。厚い雲のような綿と、はたらきが似ているということなのだろう。

雲も、バイオエアロゾルと呼ばれる見えない菌や微生物、それらの死骸、塵や小さな砂粒などの物質が空に舞い上がり、低温で凍って「氷晶」となり、それらが集まって雲が生まれるという。

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龍が取り巻く雲の峰の中にどんな世界があるのか

気温が上がり、上昇気流に乗って雲は積み重なりモリモリと大きくなる。

夏の終わり。目に見えないほどの砂つぶや塵、微生物や胞子や菌糸(花粉はどうだろう?)などは空高く舞い上がり、凍って雲の種となり、寒暖差により生じる気流に乗り積層する。生まれる雲は雨を生み、地上に注がれ、再び命の元になる。大気中を循環する、乏しい五感では名づけ得ないものたちのこの運動は、壮大だ。

青い空もまた、地上で他愛もないものに見えてしまう彼らの大いなる胎蔵界なのだった。

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上昇気流に身を任せ、空を飛べる彼ら。こんなに高く上がってどこまで行こうというのだろう。彼らは情報だから、この積乱雲の雨や雷や風が逆巻く中で、苛烈で有機的な情報の交換がなされているかもしれない。

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そうして樹々の形も、その集合体である森の形も、雲とよく似ている。

でも、樹々はアースバインドされているし、高さも何者かによって抑えられている。

夏から秋、地上の植物の生態も大きく変わる。緑滴る夏までは盛んに光合成をし、水をあげ、花を咲かせる「食」の相。これからは秋の稔りの季節に向かい、子孫を残し、冬に備える「性」の相。地上の相の変化は気象に現れるのだろう。

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積み重なった雲は、気温が下がると崩壊し、千切れた綿雲になったり、秋空にはかなくも溶けていく。


天と地で綿は結ばれひらく。天文と地文。

ひとつの世界の生成と崩落。夏と秋の行き合う空模様。

日々刻々 変容と再生、流動の、いのちの曼荼羅が描かれ続けている。

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(綿以外の写真はいずれも京都に住む友人のイザベルさんのSNSよりお借りしています。とても美しく切り取られていて、いつも感心しています。いつもはパリに帰っているそうですが、今年はコロナで帰れず日本にいて、この空に向かって雲に乗って、外に自分を開くようにしているとのことでした)

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