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秋分;第47候・蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)

母の住む信州上田の市街地の一室から虹が見えた。

朝霧が太郎山方向から降りてきて街を覆うころ、雲の切れ間から射し込んだ日光がこの虹を見せてくれた。写真は一緒にこのエアビーに泊まった息子が撮ったもの。仕事で来ていた僕は一足早くこの部屋を離れたが、出る前にもっとうっすらとした虹が見えていた。わずかな長さの。虹の欠片のようで、とても淡かった。

子供が見たこの虹は、部屋からアーチ全体が見えたというからとてもコンパクトだったらしい。


蟄虫坏戸(むしかくれてとをふさぐ)の「虫」は爬虫類や両生類のことも含むという。

蛇も虫、蛙も虫、蜥蜴も「虫」がつく。そして虹にも。

「虹」は大きな弓形(工)の蛇。あるいは竜。天から水を飲みに降りてきた双頭の竜の形象だとも言われている。虹を吉と見るか凶と見るか、民族によって様々らしいが、日本では古く虹が立った場所に市を立てたという。市の庭。虹はここでも大地に眠る大蛇と見立てられ、その蛇が姿を表したものが「虹」なのだという。虹が立った大地のエネルギーの放出された場所でこそ、性的なことも含め、自由な交換が交わされ、つまりは祓え、払いが行われたのかもしれない。虹が立った場所というのはよくわからないものだし、キリがないとも思うのだが、虹は雨と晴れの間に生まれるから、天地陰陽のバランスが危ういときに見える。それをなだめる意味合いもあって祀をしてきたのが元かもしれない。僕たちの目にも虹彩がある。世界がカラフルで、花も虫もこんなに綺麗で、どれだけ救われているだろう。

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三月の啓蟄の頃、つまりは太陽高度が上がり始めると虫たちは地上に現れ、およそ半期、朝晩の気温差が大きくなって地表もうっすら冷え始め、燕も南へ帰り、雷もおとなしくなる頃には、彼らは冬支度を始める。

今頃の虹は確かに弱々しい。

虹もまた大地から湧き出て空へ飛び出してしまった大きな蛇。高度の下がった太陽光の勢いは弱まって、影が薄くなっていく。もう休む時間なのだ。

虫たちの営みが盛んなのはほぼ上半期の間。植物と一緒にある彼らは相互に浸透しあい、時を共有している。

夜露に葉が濡れる頃、カマキリのお腹は大きくなって、薄く木々が紅葉し始め、蜂は冬までにしっかり巣を作って卵をまもるだろう。澄んだ大気を感じると、蜥蜴も蛇も身体が乾かないように、冷えないように、土へ帰るだろう。

ちょっと暢気な雨蛙もそろそろ冬眠の準備かなって空を見上げている。でも今年の雲はまだ夏っぽい。

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(写真はいずれもshinichi tsukada   東信州にて)


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